3話 恋のチャンスがやってきました!?
デレクのカフェを出ると、冬の風の冷たさが肌を襲う。やっぱ暖かいカフェに比べて外は寒い。今は雪は降っていない様だが、商店街にはさっきの雪も積もっていた。雪かきはされたリコいたが、数々の事件の影響で商店街にはデレクのカフェ、ミッキーのパン屋、リリーの雑貨屋以外店はない。マークのパン屋は結局取り壊される事になり、春には空き地になる予定だ。そこに新しく誰か来てくれれば良いのだが。
仕事は終わったので、このまま帰っても良いがミッキーのパン屋に顔を出す事にした。
パン屋の入ると、よく焼けたパンの匂いや小麦の匂いにホッとする。この村に来た時は、ミッキーのパンに全くいい印象はなかったが今はどっしりと黒い岩のようなパンを見ると安心する。「住めば都」という言葉は本当なのかもしれない。
店の中にはアナやアビーやジーンも客として来ていた。アビーとジーンはフルーツサンドが目当てのようだ。この村で子供の小遣いでも買えるスイーツといえば、これぐらいしか無いのかもしれないが、アビーとジーンが笑顔でフルーツサンドを買っていた。
「マスミ、じゃあね!」
「気をつけるのよ!」
私はそう言って二人を見送った。
二人は早くフルーツサンドを食べたいのか、足早の帰っていく。マークの事件の時は情緒不安定になった子供たちだが、やっぱ田舎の子供。立ち直りも早い良いだった。
「マスミ、ミッキーもソニアの事聞いた?」
アナはちょっと嬉しそうに言う。アナは農家の娘で夏や秋の間はジュース屋も営んでいるが、今は冬なのでそれは休業中だった。暇になったアナは、やっぱりソニアの噂をしたいようである。
「子供たちの前では言えないけど、ソニアが結婚だなんて意外だわ」
きっとアナはパンよりソニアについて興味が強いようだ。
「それにしてもジェイクが心配だよ。すっかり落ち込んでしまったようだ」
ミッキーは顔を顰めて心配していた。見かけは頑固そうなパン職人だが、中身は意外と真っ直ぐで情の深い男だ。アナにはミッキーの爪の垢を煎じて飲ませたいものだが、アナは噂話をし続けたい様である。
「やだ、ジェイクはそんな落ち込んでるの? 仕事は出来てるの?」
私も心配だったが、アナはそうでも無い様だ。
「でも、これが恋愛のチャンスかも…?」
アナはちょっと目が肉食動物のようにギラついている。
「こら、人の不幸を喜ぶんじゃないよ。でも、ジェイクからパンの配達頼まれてたけど、アナに行って貰おうかな?」
「え、いいの? ミッキー」
アナの顔は、さらに輝いていた。でも、すぐに不安そうに顔を曇らせる。
「でも、こんな時のつけ込むような事は無理かも…」
意外と怖気付いた様である。モジモジと爪をいじってる。
「だったら一緒に行く?」
私が提案した。私はアナの様にジェイクに気持ちは全く無いが、杏奈先生の事件の時の命の恩人ではある。それに同じ村の住人としてもこのまま放置するのも冷たい気もする。
「え、いいの?」
「ええ。私もジェイクが心配よ」
「だったら二人で持っていってくれ」
ミッキーは紙袋に入ったパンを持ってきて、アナに渡す。
「ちょっと重い」
アナがぶつぶつ文句を言うので、私が代わりににパンを持ってやる。こうしてジェイクのいる医院に二人で行くことになった。
「寒い!」
「ねえ、寒いわね」
ミッキーのパン屋から出るとアナも私も寒さでプルプルと震える。雪は降っていないが、空はどっしりと重そうな雲が広がっている。夏は毎日暑いとぼやきながら、青汁風ジュースを飲んでいたのが嘘のようである。
二人で商店街から教会に続く道を歩く。ろくに舗装されたリコいない道だし、雪かきもされていないので歩きやすくはない。アナと二人でノロノロ歩きで進む。
「ソニアのお相手の男の人は誰か知ってる?」
話題は自然とソニアの事になる。別に私は噂話をしたいわけでは無いが、あのソニアと結婚出来る男が想像できなかった。
「うーん。私はよく知らないけれど、王都の金持ちらしいわよ」
「金持ち?」
ソニアは金目当てで結婚したのだろうか。そんな印象はないので驚く。
「うん。いくつかホテルを経営しているホテル王みたいよ。顔は知らないけど、金持ちである事は確かね」
「へぇ…」
ホテル王と結婚だなんてまるロマンス小説のヒーローの様だ。ヒーローの職業で、医者も人気設定だがパイロットやIT社長もよくある。たまに大学教授もあったりする。いつの時代も女性はハイスペックな男性が好みのようではある。まあ、この国では医者は貧乏人扱いらしいので、ソニアはジェイクを相手にしていなかったのかもそれない。
「ソニアも意外と金持ちの男の人が好きだったのかな? なんかキャラと違くない?」
アナの言う事はもっともである。確かに女性はハイスペ男子が好きだが、あの変わり者のソニアはそんな安直な男性選びをするだろうか?どうも頭に引っかかった。
「そうねぇ。あんまりソニアっぽくはないね」
「まあ、これでライバルが一人減ったのは良いこ事よ。あーあ、ジェイクは私に振り向いてくれないかなぁ」
アナは大袈裟に嘆き、私は思わず笑ってしまう。
「ところでマスミは牧師さんとどうなの?」
「さっぱりよ」
今度は私が嘆く番である。一度食事に行く事はこじつけたし、私の気持ちもバレバレのはずだが、今のところ何もない。そもそも牧師さんは子供達の世話で忙しいし、聖書を教えたり、村人の相談に乗ったり意外と休みが無いよいだった。その割には給料は悪い。
そういえばロマンス小説のヒーローには牧師はいなかった気がする事に気づく。神父ヒーローのエクソシストものはあった気がするが、牧師がかっこよく書かれてうる小説や漫画はあんまり無い。ソニアやアナについも男の好みについてはとやかく言えない。私も十分男の趣味は世間の女性立ち直とは違っていた。
そんな事を考えて歩いていたらジェイクの医院につく。
医院は「休診日」という看板がドアに掲げられていて、人気がない。