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38話 核心に近づいてきました

 ソニアのアトリエを出ると、ジェイクと一緒に歩き始めた。

 落ち着いて来たとはいえ、相当ショックを受けているようだ。ジェイクはほとんど話さなかった。


 気づくともう夕方だった。風も少し冷たくなっている。吐く息が白くなる程ではないが、のんびりとした気分にはなれなかった。


「マスミは、これからどうするの?」

「ちょっとデレクにカフェにでも行こうと思うの。ブラッドリーはずっとあそこで仕事していたって言うから、一応アリバイ確認」

「おぉ、本当に調査しているんだな。そうだな、僕もちょっと落ち着きたいしデレクのカフェに行くか」


 こうして二人でカフェに行くことになった。確かにこのままジェイクを一人にさせるのは少し危険ではある。少し甘いものでも食べさせて落ち着かせた方が良いかもしれない。


 もう夕方のせいかデレクのカフェは客はいなかった。


「聞いたよ、マスミ、ジェイク!大変だったね」


 デレクは、ソニアの事件について知っていた。


「一体誰から聞いたの?」


 私はため息をつきながら、窓際の席に座る。ジェイクも私の目の前に座る。


「さあ、誰だったかな?マリーかローラが大騒ぎしていたよ」


 やっぱりあの噂好きの二人か。コージー村の噂の広がりの速さは、ネット社会の日本にも全く負けていない。


「大変だったね。ジェイク。そうか、今日は僕が奢るよ」

「デレク、いいのかい?」

「うん。マスミみ疲れたでしょ。なんかこんな時まで商売っ気を出すのは、神様に怒られそうだよ」


 デレクはそう言いながらカフェのメニューを渡した。カフェのメニューは絵の上手なリリーが描いていて、ところどころに湖や牧場など村の綺麗な風景も挿絵として乗っている。メニューの食品サンプル写真などはない。食品サンプルは日本独自に文化のようで、元いた世界の同僚はとても驚き、お寿司やおにぎりの食品サンプルを集めていると言っていた。


「どれにする? 健康マニアのあなたは、あんまり食べたくない?」


 ジェイクは健康マニアで、食べすぎは良く無いという考えの持ち主だったが。


「ティラミス食べてみる?このお菓子は、『私を元気づけて』っていう意味なんだ。メニューになくて、試作段階なんだけどね」


 デレクはティラミスを推した。そんな事を聞くと私もティラミスを食べたくなる。別にティラミス自体が、私を元気づける科学的根拠なんてさないだろうが、そんな言葉を聞くとそんな気もしてくる。いわゆるプラシーボ効果というやつだろうか、ソニアの死体を目の当たりにしてしまった今は、プラシーボでも良かった。


「そっか、そんな名前のお菓子があるのか。面白いね。それを頼むよ」

「私もティラミスお願い」

「わかった。飲み物は、ブラックティーでいいね」


 そう言ってデレクは厨房の方に行ってしまった。しばらくしてデレクが、ティラミスとブラックティーをお盆に乗せてやってきた。


「どうぞ」


 デレクは、テーブルにティラミスとブラックティーを乗せ、私の隣の席に座った。もう夕方で客も来ないというし、デレクもしばらくここで休むと言う。村に住み始めて比較的日が短いデレクもソニアの死に何もショックを受けていない様子では無いようだ。


「それにしてもまた殺人事件なんてさ。参ったね」


 デレクは、深くため息をつく。


「でもティラミスは美味しいわね。温かい部屋で冷たいお菓子食べるのってちょっといいわ」

「確かに。このお菓子は、チーズがおいいしタンパク質も多そうだ」


 意外な事にジェイクは、ティラミスを嫌ってきた。杏奈先生のカフェに料理は悪魔の実だと嫌っていたのに。それぐらいソニアの死にダメージを受けていたのかもしれない。確かの疲れたり、ショックな時に食べるお菓子は、元気を与えてくれるような気がする。毎日お菓子を食べたら確かに健康に悪いが、たまに食べるぐらいだったら問題無いだろう。しかもこんな緊急事態。一刻も早く元気になりたい気分である。


 しかし話題はどうしたってソニアの事件の事になってしまう。


「ローラはソニアは自殺かもしれないって噂していたけど、本当かい?」


 そんな噂まで広がっているのか。改めてコージー村の噂の伝達の速さが怖い。


「ローラは、ソニアが創作について悩んでいるのを見たことあるんだってさ」

「でもデレク、悩みの無い人なていないわよ」


 私は、ソニアの自殺説を必死に否定する。確かにソニアは一つに絵を描き終えた後は、ナイーブになる事が多かったが、次の創作に入るとメンタルは安定していた。画家のメンタルなど普通の人は理解できない部分もあるが、ソニアは自殺するほどメンタルが細いタイプにどうしても見えない。


 そう思うとちょっと気持ちが昂り、ブラックティーを口に含む。やっぱり、一度このカフェによったのは正解だったかもしれない。何も飲み食いせず冷静でいられる自信はない。


「僕もマスミに意見に同意見だよ。ソニアは創作中はナイーブだったけれぢ、自殺はしない。そんなメンタルで婚約者を捨てて浮気をしたり、また婚約する事なんてできないだろ。僕も本当に振舞わされたよ…」


 ジェイクは、ソニアの悪い部分も思い出したようで再び冷静さを取り戻していた。こに様子だと、ジェイクのメンタルも大丈夫かもしれない。


「と言う事はやっぱり殺人…?」


 結局、そに結論に至ってしまう。


「モニカの事件に関係あるのかしらね?二人の共通点はブラッドリー」


 私は、この事件で知り得た情報を二人にも共有した。


「おぉ、ブラッドリーは、男とも遊んでいたのかい?ドン引きだよ」

「デレク、それに関しては証拠がないのよね…」

「謎の女が気になるな。やっぱりブラッドリーが犯人なんじゃないか?」


 私は頷く。やっぱりブラッドリーが怪しい。


 ソニアの死体を見ての反応はいくらでも演技ができそうだった。


「でもブラッドリーは今日ずっとこのカフェにいたんだよ。僕が見ているよ」


 しかし、ブラッドリーにはアリバイがあった。デレクがいうのだから、間違いは無いだろう。


「じゃあ、この謎の転移者の男?女装してブラッドリーを誘惑していたのかね? でも動機は?」


 ジェイクの指摘ももっともである。謎の男も怪しいが、動機が無い。おかしい事もいっぱい言っていたが、転移してきたばかりの男にモニカやソニアを殺す動機はない。転移してきたばかりで呑気に人を殺す暇などない。むしろ誰かに助けを求めなければならない立場だ。


「じゃあ、ヘクターじゃない?」


 デレクはちょっと笑いながら言う。いかにも適当に言ったという雰囲気である。


「それは何故だい?デレク?」

「そうよ、証拠は?」


 こんな殺人事件に調査をしておきながら、人を無闇に疑うのはだんだん抵抗が出てきた。マークの事件では牧師さんまで疑っていて、クラリッサに呆れられた事を思い出した。


「うーん、少なくともソニアについては悪意あるだろ。パーティー中にヤジを飛ばすなんて女々しい男だ」


 女々しい?


 その言葉は頭に引っかかった。


 確かにヘクターは、背が高いイケメンではあるが、子供の頃は女の子に間違われたとジミーが言っていた。


 それに私が女性的と言っても彼は怒らないどころか、ちょっと嬉しそうだった。


「もしかして、この謎の女がヘクター?」


 頭に浮かんだ閃きをつい口にしていた。でもそう思うと辻褄は合ってしまう。


 ヘクターが謎の女に女装していた。何故女装をしていたか謎だが、そう思うとあの女性もののグッズを見られて襲う理由もわかる。同じく女装壁を知られてソニアを襲ったと思うと動機もある。


「え、あのヘクターが女装…?」

「それは無理があるんじゃ…」


 デレクとジェイクには、この推理は不評だった。何より証拠もないし、特にデレクには私に妄想じゃないかと一蹴された。


「そっかぁ。証拠はないのよね…。二人とも何か気づいた事は無い?」


 結局地道に村人に聞き続ける調査をしなければならないようだ。


 二人はゆっくりとブラックティーを飲み、ティラミスを食べながら考えていた。ジェイクは、ティラミスを気に入ったようで、完食してしまっていた。ティラミスはほとんど噛まずに食べられるし、やっぱりメンタルが弱った時にお菓子として最高なのかもしれない。


「そういえば!」


 デレクがちょっと大きな声を上げた。何かを思い出したようだ。


「何?」

 私はメモ帳とペンを取り出して食いつく。

「ソニアがチャドとちょっと揉めていたのを見たよ。チャドもソニアの事が好きだったんだよな」


 チャドはこの村の羊飼いで、ソニアに片想いをしていた事を思い出した。


 ・チャドがソニアの死に関係ある?


 正直、あの素朴な羊飼いが殺人事件を起こすとは考えにくいのだが。


「でも、チャドに話を聞いた方がいいかもね。何か知っているかも?」


 ジェイクの言葉に私も頷く。


「チャドがソニアを殺したとは思えないんだけどな」

「僕もそう思うど」


 デレクは、チャドの名前を出した事をちょっと後悔しているようだった。


「それはわからないよ。男だって嫉妬するからね」


 ジェイクはしみじみと呟いた。

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