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32話 嫌な男

 翌日、私の頭の怪我はすっかり良くなりジェイクの医院を後にした。


 モニカの事件についても気になるが、昨日会った謎の日本人男も気になる。言っている事は9割意味がわからなかったが、モニカの事件とも全く関係無いとは言い切れない。形骸化しているとはいえ、一応転移者を保護する役目もある。


 朝早くからではあるが、ジミーの仕事までまだ時間はある。私はこの村を巡ってみる事にした。今日は比較的暖かい。ハードボイルド村の橋も復旧したようで、雪の影響も徐々に緩和されているようだった。


 やっぱり森が怪しいので、再び足を踏み入れる。


 こちらは森の中なので、雪はまだ残っている。昨日襲われたというのに、呑気に再びやって来るのは命知らずな行為とは自覚していたが、やっぱりあの男が気になる。


 チェリーに家の近くまで来たが、人影は無い。家の中も誰もいない。しかし、昨日見つけた女のものの服や、下着、メイク道具一式が消えていた。


 ・犯人にとって女もののグッズは見られては困るものだった?

 ・その為に私は襲われた?


 その可能性が大いにある。なぜこれを隠す必要があったのか?女が女ものにグッズを持つことは当たり前である。もしかして犯人は男?


 パズルのピースがハマりそうでハマら無いようなもどかしさを感じた。私は男では無いのでわからないが、少なくとも私を襲った犯人は女装癖の男である可能性が高そうである。


 この事はモニカの事件と関係ある?


 ブラッドリーの性的趣向は、男でも女でもどちらでもいけるという事だった。


 ・もしかしてブラッドリーが女性癖の男?

 ・それがモニカにバレて殺した?


 可能性はなくは無い。元いた世界だって少しは性的趣向についての差別解消が叫ばれていたが、この国でが別にそんな動きは無い。特にブラッドリーのような社会的地位がある人間にそんな噂がたつだけでも大変だろう。モニカは週刊記者と接触していたというし、この事をバラそうとしていたかもしれない。あるいは、ブラッドリーの秘密を握り脅していた可能性だってあるだろう。


 自分では推理とは言えない憶測ではあるが、一応筋は通っている。そうなるとアビーとジーンの証言と矛盾が生まれるわけだが、やっぱり子供の証言であるし、鵜呑みにはできない。


 ・犯人はブラッドリー?


 私の中でその確信が強まってしまった。ブラッドリーをマークし、彼につい調べるのも良いだろう。


 そんな事を思いながら、チェリーの家を出て、湖の方に向かった。


 今日は暖かいとはいえ、湖の周りはさすがに少し寒い。


「あ!」


 湖の側のベンチのブラッドリーが座っているのが見えた時、思わず日本語で感嘆詞出てしまった。


 一番犯人だと怪しい人物がいるなんて。

 私は少々ドキドキしながら、ブラッドリーに話しかけた。ブラッドリーは、何かスケッチブックのようなものに描いた絵を見てたが、すぐに顔を上げた。


「マスミじゃないか」

「おはよう、ブラッドリー。ちょと話できる?」

「ああ」


 私はブラッドリーの隣に座る。湖面は日光を浴びて、キラキラと輝いている。綺麗な湖で、ロマンチックなシチュエーションで行きたいものだがまだ一回もそれは叶っていないどころか、殺人犯かもしれない男と一緒にいるなんてどういう事だろう。


「その絵はなに?」

「これかい?これはこの森に立つ予定のホテルのイメージ図だ」


 そこに書かれた絵は、やっぱりホテルというよりB&Bといった雰囲気で規模はかなり小さそうだ。もしここにホテルができても村人の影響はあまり無いかもしれない。そもそもこんな土地に観光客が来るだろうか。


「朝に誰もいないところで仕事のイメージングをするのが好きなんだよ」

「ごめんね、邪魔しちゃった?」

「いや、良いんだよ」


 殺人をしたとは思えないぐらいブラッドリーは穏やかに微笑む。トレードマークのオールバックはやっぱり男らしい感じで、本当に女装癖があるのか自信が揺らぐ。


「聞いたよ。怪我を負ったんだって?」


 ブラッドリーはちょと心配そうに私におでこあたりを見ている。まだバンドエイドが貼られていて処置したあとはあるが、あまり痛くはない。


「誰に聞いたの?」

「噂になってるよ。モニカの事件の調査をしているとか」


 ここでブラッドリーは、ニヤリと白い歯を出して笑う。明らかにに小馬鹿にしているのが伝わって来る。嫌な男ではあるが、本当に犯人かどうかは決定的な証拠はない。


「やめたほうがいいんじゃないか?危険だろう」

「あなたの部下が亡くなっているのに?」

「警察に任せるべきだろ」

「この雪で警察は来られないの。それにここの保安官は超がつくほどに無能なのよね」

「はは」


 ブラッドリーは大笑いをしていた。やっぱり犯人かどうかはわからないが、部下が亡くなっているのに他人事すぎる印象は受ける。


「怪しい人は知らない?謎の女がいるみたいなの」


 女装癖の男とはとても言えないが、注意深くブラッドリーの表情を観察する。あまり思っている事が表情に出ないタイプのようだ。特に表情の変化はない。


「さあ。怪しい女は見なかったけど、男は見たよ」

「男?」

「君と似たような雰囲気の男だよ。転移者かね?」

「ちょと詳しくおしえて!」


 私はブラッドリーに近づく食いつく。ブラッドリーは意外とまつ毛が長く、髭の処理は完璧といっていい。そこだけ見れば女装癖があってもおかしくはないが、それよりも男の事が気になる。やっぱりあの謎の男が犯人?その可能性も十分高いが、あの男については何の手がかりもない。


「この辺りを彷徨いていたよ。スーツ姿に30歳ぐらいの男。『誰ですか?』て聞いてみたけど、走って逃げられちゃったよ」


 やっぱり大した手がかりは得られないようだった。

 男についてはひとまず考えるのはやめる事にしよう。何より動機もないし、やっぱりブラッドリーのほうが怪しい。


 私はブラッドリーから少し離れて、咳払いをする。


「あなたはモニカと何かトラブルなかったの?」


 直接過ぎるとは思ったが、聞かずにはいられなかった。


「おぉ、俺の事疑っているのか?」


 ブラッドリーは再び大笑い。馬鹿にされる事がダイレクトに伝わってきて、イライラしか感じない。ソニアはこの男にどこが良かったのか、さっぱりわからない。顔はいいし、金もあるだろうが、中身はあまり魅力的に見えなかった。


「正直疑っているわ」

「あはは、頑張れよ、少女探偵!」


 腹を抱えて笑っている。本当にイライラしたが、やっぱりここで負けるわけにはいかない。何か口を滑らせなければ。


「ソニアとは枕営業だって噂を聞いたけど?」

「誰がそんな事を!? それは悪意のある噂だ!」


 ソニアの事には、逆に怒りを見せている。この反応だと、やっぱりそれはヘクターの思い過ごしだろうか。しかし、何故ヘクターはここまっでソニアに悪意を持っているのか検討がつかない。


「男とも女とも遊んでいるらしいじゃない?」

「それも嘘だよ。確かに俺は女性とはよ遊んだが、異性愛者だよ。男には興味はないんだよな〜」


 そう言ってブラッドリーは顔を顰める。


 本当かどうかはわかが、もしそれが本当なら私の憶測は見当違いとなる。掴めそうな手がかりが、また溢れてしまった感覚を味わう。でもブラッドリーが嘘をついている可能性も大いにある。同性愛者でもある事など正直に告白するものはいないだろう。


「しかし事件の捜査やってるなんて面白い女だな」


 ブラッドリーの視線がネットリとしてきた。自分があまり経験はないが、男に嫌らしい目で見られたような感覚が身体を襲う。少女漫画では、「面白い女」だとヒーローがヒロインを気にいる展開はもはやテンプレではあるが、


 いざ現実にされると、本当に馬鹿にされたような感じがしてあまり嬉しくは無い。


「俺と食事でもしないか?」

「は?」


 思わず日本語で言ってしまった。


「どういう事?」


 ブラッドリーはソニアの婚約者ではないのか?


「ちょっとお前とは話してみたい。興味を持った」


 女と遊んでいた事は事実のようなだ。誘い方は手慣れている。緊張してどうにか誘っているという感じは全くしない。

 嫌な男だ。気持ちも悪い。


 でも私は、その誘いを受け頷いた。何かボロを出すかもしれない。


 命知らずな行為である事は自覚していたが、やっぱりブラッドリーは怪しい。上手くいけば自白にまで持っていけるかもしれない。

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