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29話 不思議の国アリスになってしまったみたい

 再び絵を描き始めたアビーとジーンはすっかり大人しくなった。この様子では、イタズラしたりヤンチャな行動は控えるだろう。


 私は、とりあえず村を巡って謎の女を探す事にした。多くの村人は、礼拝堂の集まっている今がチャンスである。


 積もった雪で足元は悪いが、今がチャンスの様な気がしてならない。


 まず牧師館から近い湖に行く。さすがの湖面は凍ってはいないが人気は無い。日差しのおかげで風は思ったより冷たくは無いが、人気のない場所はいい気分はしない。マークの事件の時もここで犯人と会い、危うく殺される所だった。その事を思い出すと、あまり寒くも無いのに震えてくるが、ここ待っで来て逃げるわけには行かない。


 アビーとジーンは湖の近くで謎の女を見たと証言していた。もちろん、今もいるとは限らないが、探してみる価値が全く無いとは言えない。


 雪の様子を見ると、確かの二人分の足跡も見えた。やっぱり村の人たとは、あまりこない場所なので、あまり雪は踏み荒らされていない。


 ふと背後から物音がした。鳥の声かとも思ったが、どう考えても雪を踏む音だった。


 私はゆっくりと振り返る。そこには、予想外の人物がいた。


 謎の女でもない。


 なんと、スーツを着た日本人男性だった。見た事は無いが、いかにも公務員といった雰囲気だった。役所の受付にいたらぴったりだろう。歳は30代ぐらいで、自分と同じぐらいだが落ち着き払っていた。中国人かとも思ったが、足の筋肉のつきかた(O脚っぽい)、無表情で何考えて居るのかよくわからない感じが絶対日本人だと思わせる。


「あ、あなた誰?」


 久しぶりに話す日本語は、少し震えていた。もうすっかり喉や舌が英語に慣れてしまって、日本語を発音するのに違和感は残る。


「ははは」


 男はなぜか私を見てニヤニヤと笑っていた。


 この男も転移者?


 その割には妙に落ち着いているし、突然別の世界に来てしまった戸惑いなどは全く匂わせていない。


「どうだい? 夢の気分は?」

「は?」


 しかも意味のわからない事も言っている。日本語を話しているのので、やっぱり日本人である事は間違い無さそうだが、一体誰?


「あなた、転移者でしょ。私はあなたのような人を保護する仕事をしているから、一緒に行きましょう」

「あはは!」


 男はなぜか腹を抱えて笑っていた。キッチリと分けた分けた髪型もどうも嫌味っぽい。私はこの男について良い印象は全く持てなかった。


「どうだい? 夢の気分は」

「は? さっきからあなた何言ってるの?」

「面白いよなぁ。この世界の『神』はこんな事を思いつくなんて! 異世界転生や異世界転移なんて全部作られたブームさ」


 この男は何を話しているのかさっぱりわからない。政府とか異世界転移とか、単語自体は知っているはずなのの、この男が言いたい事が一つもわからない。


「おまえと杏奈が全部悪いんだ!」」

「杏奈? あなた、杏奈先生の事を知ってるの?」

「ああ、お前の頭の中では杏奈は死んでるんだっけ?」

「何言ってるの? 意味不明よ。わかるようの一から話して。あなたは誰? どこから来たの?」

「うーん、俺は陰謀論者。それ以上は言えんな」

「陰謀論者?」


 意味が全くわからない。この男は役所職員にぴったりな雰囲気ではあるが、なぜこのコージー村に?しかもこれ以上説明できないってどういう事?陰謀論ってネットで騒がれてるデマ情報?


 ただ、怪しい男であるのには間違いはない。


「もしかして、モニカを殺したのはあなた?」

「さぁね」


 男はニヤニヤと笑いながら、この場から逃げ始めた。道には雪が積もっているのに、男の動きは俊敏だった。羽でも生えて居るかのようである。


「待って!」

「そんな事を言われて待つわけないだろ!」


 私はよろけながらも逃げていく男の背中を追いかける。この男がモニカを殺した犯人でもおかしくない。


 動機は不明だが、怪しくて仕方ない。日本人ではあるが言っている事も意味不明だし、明らかに私を挑発している。


 男は逃げまわり、ついに森に入る。森には誰も人が入っていないのか、足跡一つついていない。そこに男は容赦なく足を踏み入れる。私は何度もこけそうになっているが、男ぼ動きは俊敏だ。見た目に似合わずウサギのようなすばしっこさがある。この男を追いかける自分は、まりで序盤の不思議の国のアリスのような気分である。


 この男がモニカを殺した犯人かどうかは、もはやどうでも良い。こうして逃げているということは、やましい事があるのだ。犯人でなくてもとっ捕まええて、事情を聞かなければ。今まで転移者保護の役所の仕事は形骸化していたが、はじめて意味を持っている。まさか再び転移者に出くわすとは思わなかった。


「本当に待ってよ! あなた誰?」

「よぉ、アラサーのアリスちゃん! そんな事を教えるもんか」


 アラサーのアリス?


 なぜ私が、不思議の国のアリスについて考えていた事が知っているの?この男は、心が読めるの?


「そうさ、俺は心が読めるんだよ!」


 そんな事まで言っている。

 どういう事?


 心が読める転移者?言っている事もわけが分からないし、男の身体能力も人間以上のものを感じる。


「どういう事?」

「まあ、不思議の国のアリスの真似事はやめてしばらくコージーミステリのヒロインやってるんだな」

「何が言いたいの?」


 男の言っていることは意味不明で、こちらの頭までおかしくなりそうだ。


「残念だが、モニカ殺しの犯人は俺じゃないぞ。最初から考え直すんだな、アリスちゃん」

「あなたは犯人じゃないの?」

「俺は陰謀論者ってさっきからずっと言ってるだろ」


 男はさらにスピードを上げて走る。いつのまにかあの占い師のチェリーの家の前まできていた。マークの事件の余波でまだ立ち入り禁止のテープが貼られているが、男は軽々とそこに入っていく。


「え? どういうこと?」


 男は、立ち入り禁止のテープをくぐった瞬間、跡形もなく消えてしまった。まるで突然蒸発してしまったみたいである。左右や後ろをキョロキョロと見回したが、男の姿はどこにもない。さっきまでイライラするほど挑発きたのの、いざ消えてしまうと梯子を外されたような気分である。


 男どころか、人の声もしない。雪を踏みつける音もなく、遠くで鳥の鳴き声が響くだけ。


 私は思い切ってこの立ち入り禁止のテープを潜る事にした。


 もしかしたら日本に帰れるかもそれなない。正直なところ今は日本に帰りたいとは思えないが、全く帰りたくないわけでも無い。こも土地の料理も慣れて美味しく感じてはいるが、日本の寿司やクリープたっぷりのケーキに未練が無いわけでも無い。


 思い切って、テープをくぐり家の中に入る。驚いた事に家の鍵が空いていた。マークの事件での証拠品もあったはずだが、アラン保安官が杜撰に管理しているのが目に浮かぶ。


 さすがに家の中には当時の証拠品は何も無い。すっかり家の中は片付けられ、チェリーが関わっていた魔術関連のものは跡形も無い。家具も片付けられていて、生活感のあるものは何もない。男の姿もどこにもなく、本当に消えてしまったようである。


 しかし、妙なものがあった。


 白い紙袋だが、パンパンに膨らんでいて不自然だった。

 日本に住んでいた頃は、駅やトイレに不審なものがあると大騒ぎだが、私は躊躇わずに紙袋の中身を漁る。ここに住むようになってすっかり神経も太くなってしまったらしい。


 中身は女ものの洋服だった。レースのワンピースだが、露出度が高い。意外と性に関しては保守的なこの土地では見た事がない。日本では対し珍しくはないが、ここで目立つだろう。他に女ものの下着も入っていた。こちらも露出度が高く、布の意味なんてないんじゃないかと思うほどだった。何となく性的な匂いが充満している。


 実際、薔薇の匂いがする。香水の匂いだろうが、ちょっと気分が悪くなってくる。他にポーチも入っていた。ポーチの中には、アイシャドウ、口紅、ファンデーション。ファンデーションはともかく、アイシャドウも口紅も色が濃い。思わずキャバ嬢をしていたローラの顔が浮かぶが、今は足を洗ったはずだ。


 誰のものかは分からないが、村の女性陣たちはこんなメイクやファッションには無縁である。


 謎の女のもの?


 あの男とも関係があるのだろうか?


 とりあえず、これをもってクラリッサやプラムに意見を聞こう。


 ちょうどそんな事を考えていた時だった。

 頭に強い痛みが走る。


「痛っ…!」


 何者かに殴られた。薄れかけていく意識の中、その人物は吠えるように何か言っていた。


「これ以上、モニカについて調べるな!」


 悲鳴のような声だった。


 しかし、分かったのは声だけだ。意識は途切れ、誰が殴ったのか見えなかった。

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