26話 私の為に争わないで!
・クラウスとイアンには硬いアリバイがある。
ノートに書き込むが、一人容疑者が減ったぐらいでは喜べ無い。犯人に繋がる情報を得なくては。
「他に何か知っている事はないの?担当刑事は何て言ってたの?」
「うーん。僕はモニカ自体よく知らないんだよな。ブラッッドリーと遊んでいた事は知ってたけど」
「ブラッッドリーは男女関係なく遊んんでたっていう噂を聞いたんだけど、この事は何か知らない?」
「まあ、そういう噂もあるけど、本人は否定してたよ。当たり前だよね。そんな差別的な噂するなんてさ」
そう言われてしまうとぐうの音も出ない。ブラッドリーが性的にかなり乱れているのが、事件と関係あるとも思ったが、かなりセンシティブな話題である。本人に直接「あなたは男性とも寝れますか?」などと聞けるわけがない。クラウスをちょっと女扱いしてこんな事になっていると言うのに。
私もよくは知らないが、元いた世界の職場で人権問題のついて外部講師を招いて授業をする事もあったので、この問題はかなり繊細だ。元いた世界では、この性的な問題を抱えている人の割合は1割ぐらいいるらしい。AB型と同じぐらいの割合でいるそうで、決して少なくは無い。先天的、後天的両方の原因で起きるらしく、性的な暴力の被害者もそうなってしまう事があるらしい。日本ではああいった問題はそう大して表面上に上がらないが、迂闊に扱えない空気はあった。もちろんこの土地でもクラウスの反応を見るか限り、迂闊に踏み込めない。
「どうしよう、この問題は思ったより大きそうね…」
私は頭を抱えそうになる。手がかりが掴めそうで、またフワリと逃げられてしまった感覚に襲われる。
「まあ、マスミ頑張ってよ!」
「あんまり応援されている気がしないわね。あなたは誰が犯人だと思うの?」
「ソニアでしょ」
即答だった。クラウスはよっぽどティラミスが気に入ったのか、気づくと皿が空になっている。
「なんで?」
「だって担当刑事も怪しんでたしね。ちょっと担当刑事を問い詰めたけど、ソニア、ブラッドリー、ヘクターはアリバイが無いみたいだった」
「本当?」
クラウスは満足そうに頷く。やっぱり私が怪しんでいる人物も警察が疑っているのは確かのようだ。
「謎の女については心当たりないの?本当に暗殺者?」
どうもそれは納得できないが、怪しい事は怪しい。
「さあ」
「あなた呑気過ぎない?」
「うーん、もう慣れちゃってるし」
「そんなもの?」
「そんなもんだよ。マスミも僕と同じような生い立ちになれば分かるよ」
そうは言ってもこんな特殊な生い立ちは、想像するのも難しい。
ちょうどそこにデレクがニコニコ営業スマイルでやってきた。おかわりの水やブラックティーを持ってきたが、張り付いた笑顔でちっともクラウスに友好的には見えない。クラウスも野生動物のように睨んでいる。
何この状況?
ロマンス小説によくある「私の為に争わないで!」というシチュエーションか?
しかし、いざ現実にその立場にたってもあまり嬉しくない。二人ともどちらかといえば軽薄なタイプで、どうも自分は揶揄われていると感じてしまう。「罰ゲームでした!」と後っで言ってきそうな雰囲気もするし、長年モテ期に縁がなかった自分としては、こんな状況が何が嬉しいのかちっともわからない。
「マスミに手を出すなよ」
クラウスはそんな事まで言っていたが、もはやコントに思えてくる。
「そっちこそ、突然やってきてなんだ?」
デレクもデレクで笑顔で威嚇して居るが、どうも現実感が持てない。しかし、一度この台詞は行ってみたい。どうせコントのようなモテ期と思えば、気が軽くなる。
「ちょっと、やめてよ。私の為に争わないで!」
「ちょっと、マスミ。薄笑い浮かべながら言わないでよ…」
さすがのクラウスも気が抜けていた。
「こういう時、面白がるのがマスミらしいよな…」
デレクもちょっと頭が痛そうにつぶやいていた。
「マスミって面白い」
「そうだな、クラウス…」
やっぱり二人とも私を珍獣扱いの上でモテているようだった。果たしてこの珍獣は誰が仕留めるのか?当の本人の私は、他人事のようにそんな事を考えていた。




