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23話 能天気で平和ボケな日本人みたいです

 クラリッサの家の雪かきが終わると、ジミーの家に向かう。いつもより早く家を出た。この田舎の畦道に雪が積もっている。いつもより足元は悪いにで、念のために早く出た。

 どうやらジミーに家は雪かきはされtらいる良うだった。


 ジミーの家の前に着くと、大きなシャベルを片手にしがヘクターに会う。雪かきをして居たのか、額には汗が浮いている。雪が降るような寒さではあるが、雪かきは意外と重労働だった。身にしみて思う。


「マスミじゃないか。元気か?」

「ええ、元気よ」


 ヘクターの印象はよくないので、気さくに話しかけられてもいい気はしない。上から目線で口説いてきた事を思いだし、腹の底がムカムカとしてくる。


「マスミ、無視すんなよ」

「仕事中よ」


 私はヘクターを無視して、ジミーの家に上がる。


「ジミー、こんにちは」

「ああ、マスミかい。しかし酷い雪だな。身体の底から冷えるわ」

「今日は何作りましょう?」


 ジミーは、この雪に参っているのかちょっと具合が悪そうだった。あのヘクターと一緒にいてストレスが溜まっている事も考えられるが。


「今日は珍しいモンじゃなくて、芋粥が食べたいな」

「わかりました。そうしましょう」


 私は一人、キッチンに向かい芋粥の作成に取り掛かる。食糧の棚や冷蔵庫の中はまだ多く食糧がある。雪で流通は麻痺しているようだが、ジミーの家は当分大丈夫そうである。


 ただ、芋粥に使う麦はないので白米で代用した。この国の白米は日本のもののようにモチモチはしていないが、やっぱり冬の寒い日には温かいお粥は良いだろう。芋の下ごしらえは意外と骨が折れるが、ソニアの家で教えて貰ったジェイクのレシピ通りの作り何とか完成させてリビングに持っていく。


「おぉ、あつあつ!」


 地味な料理なのに、ジミーは美味しそうに芋粥を食べていた。ジミーは子供の頃、飢饉があり碌な食べ物が無かったらしい。こんな芋粥もご馳走だったと目を細めている。


「ふうん、そんな思い出話があるのか」


 ジミーの思い出話にヘクターも大人しく芋粥を啜っていた。てっきり地味な料理だと文句を言われるだろうろ予想して居たので、拍子抜けしてしまった。


「意外とうまいな」

「こら、ヘクター。そんな上から目線で言うんじゃないよ」


 ヘクターはジミーに注意されて、子供のようにシュンとして居た。こうしてみると意外と悪い人物では無いにも見えた。


「芋粥はソニアも好物よね」


 私は何の気なしに言う。するとヘクターは明らかに表情が曇りはじめる。


「ソニア? あの画家に若い子か。私はあんまり会った事ないが」

「ヘクターは会わなくていいさ」


 そんな事まで言っていて、よっぽどソニアが嫌いのようだ。女性にあまり好かれないソニアだが、男性のヘクターにこんな嫌われているのは驚く。確かにあのパーティーでソニアにヤジを飛ばしていたが。


「ソニアが嫌いのようね。一体なぜそんなに嫌っているの?」


 単純に疑問に思う。村の女達がソニアを嫌う理由は想像つくが、ヘクターが嫌っている理由はよくわからない。


「俺は不正をする女は嫌いなんだよ」

「不正?」


 私もジミーも同時に声を上げる。呑気な食卓であまりにも不釣り合いな言葉だった。


「そうさ。あの女は別に才能はない。権力ある男を渡り歩いて、今の地位についたのさ」


 美味しく感じていた芋粥が途端に不味く感じる。


「本当? もしかしてブラッドリーとの結婚も?」


 考えたくなかったが、ソニアが急に結婚したのも絵の成功と引き換えとなら納得できる気がした。いわゆる枕営業というやつだろう。あまり良い気分はしない。


「まさにそうだ。ブラッドリーは権力も金もあるからな。売れない画家一人成功させるのは簡単」


 その話題に意外とジミーは食いついている。ジミーは意外と噂好きで、村に噂も聞きたがっていた。


「でも証拠はないじゃない。ブラッドリーとの結婚は、単なる恋愛結婚じゃないの?」

「はは」


 ヘクターは、私を見下すように大笑い。


「頭が能天気すぎだよ。この国にもゴシップ雑誌があってね、その噂をかぎつけられていたよ。秘書のモニカはゴシップ記者によく接触してたしね」


 それは新情報だった。今は仕事中で事件ノートに書き込もは出来ないが、モニカがゴシップ記者と接触していた事は大きな手がかりである。だとしたら、ソニアはますます動機がある事になる。枕営業のような事をしていたことが世間にバレたら、一番ダメージを受けるには彼女だ。まあ、ブラッドリーもかなり困るだろう。


 子供の頃、足長おじさんを読んで胸をときめかせたが、実際はこんな物なのか。才能のある女性と金持ちの男との恋愛に夢など見られない気分である。


「あなたは絵が好きなの?」


 ヘクターがソニアにここまで怒りをもつのは、それ以外考えられない。


「そうさ。美術鑑賞クラブを作っているんだ。ブラッドリーやクラウスともそこで知り合った」

「ヘクターは子供の頃から絵が好きなんだよ」

「画家になりたいぐらいだったけど、結局パイロットになってしまったよ」


 ヘクターは乾いた笑いをあげていた。ソニアに複雑な感情を持っているのが、明らかに伝わってくる。


「ヘクターがどんな絵を描くの?」


 ソニアにそこまで感情があるのなら、どんな絵を描くのか気になる。


「こいつの絵は意外と繊細で美しいんだよな」


 ジミーはヘクターの絵を見た事あるらしい。


「そういえばあの絵もヘクターが描いたもんだったよ」


 ジミーは、リビングの壁にかけてある一枚の絵を指さす。

花と少女の絵だ。確かに繊細だ。昔の少女漫画風とも言える。毎日このリビングにいるの意外と意識して見ていなかった。人間の脳は必要のないものは、無意識に省くように出来ているらしい。そうじゃ無いとニュースで報道される遠い国の可哀想な子供にもいちいち気を揉んでしまい、まともに生活出来ないぐらいメンタルが弱ったりもするらしい。大学時代に一般教養で取った心理学の授業の内容を思い出す。


「へぇ。綺麗な絵ね。まるで女性が描いたみたい」


 そう言った後、失言だったかもしれないと気づく。今朝、クラウスにも似たような事を言ってしまったのに。日本人の感覚のままずっといる事はできない。郷に入っては郷に従えだ。他所から来た私のような人間が「私は日本人なので、文化の違いは察して接して下さい」なんて言うのは、やっぱり相手に敬意がない行為だと思う。自分が逆の立場だったら、あまりいい気分はしない。


「ごめん、ヘクター。絵があまりにも綺麗だったから言っただけ。あなたを馬鹿にするような意図はないのよ」


 言い訳かと思われるかもしれないが、私は一応理由を説明した。


「いや、別にいいよ」


 なぜかわからないが、ヘクターは全く気に留めていなかった。むしろ、機嫌が良さそうに笑っている。


「絵が褒められるのは嬉しいよ」

「私もヘクターの絵は嫌いではないよ」


 ジミーにも煽てられ、ヘクターはさらに機嫌が良さそうび芋粥を啜っていた。


「芋粥、意外といける」


 自分の料理も褒められてしまった。確かに褒められると嬉しい気持ちはわかる。


 ヘクターは最初の印象は最悪だったが、根から悪い人間では無さそうである。


 頭能天気で平和ボケの日本人らしく、ヘクターについてはあまり悪く思わないでおこうと思った。

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