21話 まるで本格ミステリーな状況
この日、雪は深夜まで降り続いた。クラウスは、デレクが使っている部屋に寝泊まりする事になった。意外と世話になってえいる自覚はあるようで、すすんで家事などを手伝い、自分を殺そうとしている暗殺者の似顔絵を描いてくれるという。あまり期待はしていないが、今は手がかりが欲しい。私は、クラウスに似顔絵を描いてもらう事にした。
雪の寒さのせいか、クラウスが急にやってきたせいかはわからないが、神経が高ぶって仲な眠れない。私はベッドの上で事件ノートを読み返した。それにしても今回は犯人が誰だかさっぱり見当がつかない。
前の事件の時は、だんだんと怪しい人物を絞れたわけだが今回は村で起きた事件でもないし、誰もが怪しく感じてしまう。
私はソニアの大袈裟なぶりっ子風笑顔を思い返す。確かに彼女も怪しいし、動機はあるがやっぱり犯人には思えない。芋粥をすすっていた無防備な表情は特に人殺しには見えない。ソニアに第一印象はよくなかったが、別に嫌ってはいない。どうか彼女に害が及ばないようにと願いながら、いつに間にか眠ってしまった。
翌朝、夜の間に降り続いた雪のおかげでクラリッサの庭は真っ白に変わっていた。
クラウスは呑気な事にすやすやと眠っていて、クラリッサは最近の朝の習慣でベストをせっせと編んでいた。
プラムは朝から慌ただしく、どこかに電話をかけていた。
私はリビングでクラリッサの隣に座り、ブラックティーを啜っていた。いつもと雰囲気が違う朝ではあったが、のんびりと編み物をしているクラリッサの隣にいるとちょっとだけ落ち着いてきた。
「ねえ、クラリッサ」
「なに? マスミ」
「こに犯人は誰なのかね。もうさっぱりわからないのよ」
「そうねぇ…」
クラリッサは編み物の手を止める事はなく、考え込んでいた。
「案外単純な動機よ。カーラの事件の時も言ってけど、お金、痴情、プライド。このどれかよ。あるいは全部」
「そうなるとソニアが怪しいんですよ」
「あら、ソニアが犯人じゃ無いと嬉しいみたいじゃない」
「だって…」
ソニアは変な女であるが、とても犯人だとは思いたく無い。
「まあ、きっと犯人はボロを出すって」
「そうかなぁ…」
ちょうどその時、プラムがリビングに入ってきた。珍しくちょっと慌てている。
「大変よ。ハードボイルド村にある橋がこの雪で崩れてしまったわ」
「それって何が問題なの?」
「ちょっとマスミ、呑気すぎよ。あの橋が無いと王都に行けないんだから、物流が全部ストップよ」
「しばらく食糧も手に入らないかもしれないわね」
クラリッサも呑気に笑っていたが、これについてはプラムは文句は言わない。主人でもあるし、クラリッサの明るさ場を和ませる何かがある。
「という事は、この村は閉じ込められてしまったんですかね?」
まるで本格ミステリー小説に出てきそうなシチュエーションである。もしモニカを殺した犯人やクラウスを狙っている暗殺者がこの村にいたとしたら?この状況はやっぱり笑ってはいられない。事件の調査を最優先にした方がいいんじゃないかと思い始めた。
「まあ、とりあえず食糧は当面大丈夫だけどね。マスミはどうするの?」
「クラリッサ、これはやっぱり笑えませんよ」
「そうね。私も暗殺者について調べてみるわ!」
プラムは慌ただしく宣言していた。ちょうどそこへクラウスがやってきた。朝とはいえ、寝癖もつけず、身だしなみもキチンとしていた。
「おはよう、みんな!」
緊張感が漂っていたリビングだが、クラウスの笑顔で一同毒気が抜かれていた。命が狙われている割には、クラウスの雰囲気は呑気そのもので、明るささえ感じられる。
「怪しい女の絵を描いてみたんだよ。見て、見て!」
クラウスは子供のように無邪気に笑い、色鉛筆で書いたと思われる絵を披露した。
女の絵だった。確かにスタイルのいい背の高い女である。ちょっとブリブリとしたレース付きの洋服(コート?)が似合って入る。
「この女? 私が記憶している暗殺者の女とは印象が違うわね」
プラムは刺すような鋭い視線で、クラウスが描いた絵を見ていた。
「わからない。この女の人が暗殺者かどうかは。でも、昨日こんな女の人を見たんだ!」
クラウスはやっぱ呑気で、この絵の色のこだわりやデッサンについて長々と語り、プラムをウンザリさせていた。
「あなた、命を狙われている自覚はあるの?」
クラリッサも呆れていた。私もどうもこの男には裏があるような気がしてしまうのだが。
「生まれた時から食事に毒を仕込まれていたしねぇ。慣れちゃったよ!」
特殊な生い立ちを思えば、それも仕方ないのかもしれないが。
「そういえば明日は日曜日か、僕も礼拝にいっていい?」
「いいんじゃない?」
クラリッサは呆れつつ言う。
「この村の牧師さんはどんな人?」
「いい人よ。ちょっと天然ボケだけれど。マスミは牧師さんにお熱なのね」
クラリッサの言葉にクラウスは大袈裟に悲鳴のような声をあげる。
「嘘だ! どうして!」
「そんな事言われてもね…」
正直困る。しかしクラウスは私をさらに困らせるような事を言った。
「僕のお嫁さんはマスミが良い!」
クラリッサもプラムも目が点になっている。
「いやよ。だってあなたの事情考えるととても背負いきれないわ」
私はため息をつきながら言ったが、クラウスは無視。
「えー、僕だったらマスミをお姫様みたいに着飾ったり、美味しいもの食べさせてあげられるのに!」
子供のように騒ぐクラウスに私はすっかり困り果ててしまった。
「よかったじゃない、マスミ。人生初のモテ期じゃない?」
「プラムの言う通りよ、良かったじゃない?」
クラリッサもプラムもニヤニヤしているだけで、明らかにこの状況を楽しんでいた。




