19話 隣国の王子がやってきた
クラリッサのリビングは、外の寒気さが嘘のようにポカポカだった。クラリッサとプラムは、リビングでブラックティーを飲みながら編み物を楽しんでいたようだが、雪だらけのクラウスを見てびっくりしていた。
「ちょっと、クラウスどういうことよ?」
珍しくプラムは狼狽えていた。クラリッサは興味深そうにクラウスを眺めていたが。
「門の前で会ったのよ。ね?」
「うん。マスミに会いに来た!」
どう考えても嘘だ。一同呆れた様のため息をつく。まだ若い青年というか少年のようなクラウスだが、どうもこの屋敷のメンバーはペースを崩されていた。
とりあえず雪だらけのクラウスはこのままでは風邪をひいてしまうので、風呂に入れた。下着や洋服などはデレクが残していったものまだあるので、それを貸す事にした。
デレクには許可は取っていないが緊急事態である。あとで説明すればわかってくれるだろう。プラムや私の女ものの服を着せるわけにはいかな。
クラウスが風呂に入っている間、リビングにみんな集まる。
とりあえず私は、クラウスとあった経緯を説明する。
「…という事なんだけど、クラウスは何でこの屋敷に来たの?」
単純な疑問をクラリッサとプラムにぶつける。二人は、難しい顔をして俯いていた。
「え? 何か深い問題でもあるの?」
「そういうわけじゃないんだけどね…」
プラムは口が重い。しかし、温かいブラックティーを飲んでおちついて来たのか、説明し始めた。
「クラウスは実はこの国の王子なのよ」
「え!?」
プラムの説明には驚く。
聞くとこの国と隣国はいつ戦争になってもおかしくないぐらい仲が悪い。王族には互いのスパイが入り込んで活動しているのが、もはや常識となっている。プラムもその一人だった。プラムは元スパイとは聞いていたが、ガチだったようだ。なんだか小説みたいな話だ。
「でも今の王は、隣の国の王女様と不倫していてね」
「すごいスキャンダル…」
プラムの説明は段々と小説風から昼ドラ風に変わる。プラムの口調は淡々としているが、私の頭の中は昼ドラ風の音楽が思わず流れてしまう。
「その王女様がこっそり産んだのがクラウスよ。血統的には一番ね。だから事情を知ってる王族連中は、クラウスは邪魔よ」
プラムは全く笑っていないので、昼ドラ風と笑う事もできない。そういえば今の王は子供は女の子ばかりで、一番下の男の子も身体に障害があるという噂を聞いた事がある。
「王はクラウスを引き取って継承させたいみたいけど、そんな事許さない王族連中でずーっと揉めてるのよ」
「そうね、プラム。だから、可哀想にクラウスは幼い時からずっと命を狙われているのよ」
クラリッサも珍しく憂鬱そうな表情を見せている。そういえばクラリッサも王族で、一時は王都にあるお城に住んでいたというが、当時の話はあまりしない。あまり良い記憶が無いようだ。
クラウスは訳ありの王子様だった。全体的には昼ドラ風だが、クラウス自体はロマンス小説や日本の少女小説でもあり得そうである。天真爛漫に見えたクラウスにこんな事情があったとは。人は見かけによらないのかもしれない。まあ、クラウスについては全く興味が持てないが。
「でも何でそんなクラウスがこのコージー村に来たの? まさか命狙われて逃げて来たとか?」
私のその憶測を口にしながら、嫌な予感がする。クラリッサやプラムの表情も重いので、その可能性がかなり高そうだった。
「これはモニカの事件と関係ある?」
頭に思い浮かぶのは、その事だった。モニカとクラウスは全く似ていないが間違えられて殺されたとか、モニカが庇って殺されたとかあり得ない話では無いだろうか。
「それは無いんじゃない? さすがにそれは考えすぎよ」
クラリッサは大笑い。
「小説のネタになるかも!」
クラリッサの笑顔でメモを取り出して笑っていた。その笑顔を見ていると、やっぱり考えすぎだったようである。
しかし、あのパーティーの関係者がコージー村に勢揃いではないか。これは偶然だろうか。俳優のイアンはいないわけだが、こんな偶然あるわけが無い。やっぱりモニカの事件に関係があるそうだ。
偶然にも雪のせいで交通が乱れている様だ。王都の警察もすぐにこの村に来れないだろう。この村の保安官のアランに頼るのも論外であるし、やっぱり事件について調べた方が良さそうである。もちろん、犯人を捕まえようとか推理したいとは思っていないが、このまま放っておく事は出来そうに無い。
「私、やっぱりモニカの事件について調べてみようと思うの」
「やっぱり調べるのね! 期待しているわ!」
クラリッサははしゃぎ始めた。おそらくこの事件もネタに小説を書くつもりなのだろう。クラリッサのかいた小説は最近重版がかかり、売れ行きも良い。筆も乗っているようで、最近クラリッサの部屋の灯りは遅くまっで付いている。
「二人は何か変わった事や気づいた事はない? マリーは役所の近くで謎の女を見たって言うんだけど」
「謎の女?」
二人は食いついて来た。私はマリーかr得た情報を二人にも共有する。
「暗殺者かも…」
プラムの呟きは、私もクラリッサも顔を顰める。
「この国にも一人いるのよ。凄腕の美人スナイパーがね」
「そんな…」
私はプラムの説明にやっぱり怖い気持ちになる。
「クラウスを守らないとね」
「そうよ、プラム。あなたは結構強いじゃない」
クラリッサはそう言うが、結構どころでは無いぐらい強い。謎の撃退スプレーもよく開発しているし、カーラの事件では犯人をボコボコにしていた事を思い出す。その点は安心だが。
「でもそんな暗殺者なんて居るかな?」
どうも話が壮大すぎて違和感がある。命を狙われている割にはクラウスの雰囲気は呑気だ。まるでここにも遊びに来たような気楽さがある。
「でも一応暗殺者については調べてみるわよ」
プラムは自信満々に胸を張る。やっぱり頼もしい女だ。とりあえず、この件はプラムに任せておけば安心だろう。




