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12話 コージー村に帰りたい

「この国で女性が絵で成功するのは、とても難しいと言われています。でもこんな大きな章もとれて…」


 ソニアは感極まって泣き始めた。代わりにブラッドリーが、王都の国立美術館でソニアの作品が展示される事を伝える。

 めでたい話であるのに、なぜか会場は白けていた。


「どうせ枕営業かコネだろ」


 一人の男はヤジまで飛ばている。こちらもイケメンだった。目鼻立ちが整い、ウエーブがかかった髪の毛がよく似合っている。柔和な雰囲気なイケメンではあるが、吐く言葉は毒に満ちている。


「この結婚だって、打算かもな?」


 皮肉っぽく笑い、会場の雰囲気は完全に冷えた。

 ブラッドリーはムッツリとし、腕を組み明らかにイライラとそているし、ソニアは泣きそうだ。


 一方、ブラッドリーの秘書のモニカはニヤニヤと笑っている。クラウスは顔を顰め、「嫌な感じ」と呟いていたが、同感である。


「おい、ヘクター。いい加減にしろよ」


 ブラッドリーは怒りはじめた。ヘクターと呼ばれた男だが、この状況の空気を全く読めていないのかニヤニヤ笑っている。ヘクターについてはよく知らない。プラムもクラリッサも知らない人物のようだが、やっぱり良い印象は持てない。


「まあ、女遊びが激しい御曹司と頭おかしい画家もどきの結婚なんて興味ないわ」


 捨て台詞も忘れず、ヘクターは会場か出て行ってしまった。


「ふざけんな。ぶち壊しやがって!」


 ブラッドリーは顔を真っ赤にして怒っていた。


「全部お前のせいだ!」


 なぜかブラッドリーはソニアに全ての責任を押し付けて、会場の外に出て行ってしまう。


「そんな…」


 ソニアはすでに泣きそうであったが、会場の女達は一様に冷たい視線を投げている。特にブラッドリーの秘書のモニカは、冷たい表情だった。


「マスミ、プラム、クラリッサ…」


 ついにソニアは我慢出来なくなり、私達の方にやってきた。


「大丈夫?」

「もう無理よ、マスミ…」


 私は泣きそうなソニアの背をさすってやったが、まるで落ち着かない。


「もうコージー村に帰りたい…」

「そうね。帰りましょうか?」


 クラリッサはこの状況を意外と楽しんでいる。おそらく後で小説のネタにするんだろう。彼女のポケットの中のは、こういう時に備えて小さなメモ帳とペンが常備されている。


「まあ、パーティーは台無しね。どうするの? ソニア」


 プラムはぐるりと会場を見回すが、客達はすっかり白けていた。会場に用意された豪華な料理も誰も手につけvらいない。気持ちはわかる。私も泣きそうなソニアの側でソーセージやローストチキンを食べる気分にはなれない。


「うぅ、もうこの結婚は嫌」


 ソニアの泣き言は止まらない。ブラッドリーの態度からして、あれは典型的なモラハラ夫になりそうだ。自由な雰囲気のソニアとは相性が悪いだろう。何で二人は結婚まで至ったのか不思議でならない。ヘクターは言った「枕営業」「コネ」もあながち嘘では無い?そんな嫌な事を考えるのも嫌になる。


「そんな泣き言言わないのよ」


 プラムはソニアに結構手厳しい。まあ、誰に対しても甘い顔は見せないが。


「でも、もうこんなんでパーティーなんかできない。ジェイクに会いたい」


 何故ここでジェイクの名が?やっぱりソニアのは、ジェイクに何らかの感情が残っているようである。まあ、あのブラッドリーの比べれば、多少健康ヲタクではあるし、恋愛脳だがジェイクの方がよく見えるのはわかる気がした。


「まあ、じゃあもう帰りましょうか」

「そうね。もうパーティーやってもしょうがないでしょ」

「そうね、プラム」


 私が帰る事を提案し、結局プラムもクラリッサも頷いた。ソニアはここでようやく笑顔を見せた。


 結局王都では、不快な婚約パーティーに中途半端に参加して終わってしまった。王都にあるカフェにも映画館にも行けなかった。おまけに帰りの電車は普通席で、1時間以上立ったまま。行きはあんなに楽しかったのに、帰りは不満ばかり残ってしまった。


「それにしてもあんな状況でソニアは大丈夫かな?」


 私は心配していたが、プラムやクラリッサは別にそんな事はなかった。プラムはソニアの事には興味がないし、クラリッサもメモ帳に小説のネタをニヤニヤと笑いながら書きつけていた。


 どうも嫌な予感がするが、気のせいなのかもしれない。

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