初体験
「勇太君、私の生まれたままの姿を見て」
そう言って彼女の朱里は身体に纏わりついた小さな白い布切れを取りさる。
そこに現れたのは彼女の一番大切な場所であり、薄桜色の艶光する唇を露にした。
彼女と出会ったのは今から一年と半年前の高校の入学式の日。
真新しい制服に身を包み、靴紐が切れてしまって歩けなくなっている女の子を見つけた。
女の子は周りの見知らぬ生徒に助けを求めようとするが、言い出せずに困り果てていた。
僕は思わず助け舟を出す。
「さあ乗って」
彼女の前に座りおんぶを促す。
「いいの?」
「困ってるんだろ?」
「うん」
彼女は遠慮がちに僕の背に身体の重みを預けてきた。
それが彼女との出会いだった。
同じ委員会だったこともあって話す機会もあり、気が付くと彼女と付き合いを始めていて、今日のような関係にまで上りつめたのだ。
夏の夜空に花火が瞬く。
「私の生まれたままの姿はどう?」
人気のいない、林の前で朱里が僕に聞いてくる。
あまりに綺麗で言葉を失ってしまう。
「見せたのは雄太君だけなんだからね……」
そういうと朱里はうつむき
「ちょっと恥ずかしい」
と小さな声でつぶやく。
僕は朱里の肩を持ち思いを伝える。
「凄く綺麗だよ」
そして
「朱里の初めてを僕にくれるかな?」
「うん」
朱里がこくんと頷いたので僕は朱里に覆いかぶさる。
粘膜同士の接触。
体液が混ざり合う。
僕らは初めてのキス『ファースト・キス』をしたのだった。
2020年に始まったコロナ禍により僕らは生まれてからずっと当たり前のようにマスクをしていた。
素顔は家族にしか見せたことは無い。
朱里の素顔を見るのも今回が初めてだった。
僕の想像していた以上にとても可愛くとても綺麗な素顔。
完全に僕は朱里の素顔に心を惹かれてしまった。
ちゅぱちゅぱと朱里が僕の唇をついばむ音が聞こえてくる。
「勇太君とキスが出来るなんて夢みたい」
「僕もだよ」
また明日になれば僕らはマスクをした生活に戻る。
もう、朱里の素顔も見れないだろう。
でも……。
僕は朱里と家族となって素顔を見せあえる、そんな未来を手に入れたい。
僕はそう心に決めたのであった。