勝利を掴みて
画面を埋め尽くす白。壁に映した映像は、今行われている種目である。
剣と剣のぶつかり合い。幾度と無く、火花を散らす剣の舞い。
誰かが行動を起こす度に、歓声の声が盛り上がる。誰もがこの種目に抱いた気持ち、この高揚を満たしてくれると信頼をもって、長く続くほどその楽しみが膨れ上がる。
三人の姿動きに魅せられる者達は歓声を上げる周りなど気にせず。ここに心あらずと。
惹き付けられる魅力を放つ、種目が映し出されるここは幾つものベッドが規則正しく並んでいる。壁には小さな棚が無いよりまし程度の薬品しか置かれている。
その一つのベッドに、私だけが寝ている。
他に誰もいない、清潔に保たれた医務室。医師は常時ここに居るわけでなく、緊急時に動けるように別の場所で待機をしているから。
本日、この体魔全力祭でベッドの上に寝かされる怪我を負ったのは私一人。
先から盛り上がっているのだろう、種目を見ても心動かされず、騒がしく魅力的な映像に視線が固定されることはなかった。
この部屋に一人、悶々とした感情の波に浮かび揺らされた小舟のように揺らいでいた。
壁に向かい、体をぐっと縮込ませる。
照らされる海を隠すように両手で覆い、その隙間から見える。壁なんか、見えない。
ポツリと苦しそうに、でもどこか嬉しい気持ちが入り交じった呟き。
「どうして、あんなこといったのかな」
少し目蓋を閉じれば、脳裏に浮かぶ。あの光景。
私の様態を確認しに来た友達が次の種目に向かう中、一人だけ残った男の子。
たわいもない会話の中、自然とナガクラくんは告げた。
「なら明日はーーデートに行こう」
差し出された手、私はその手をーー
取れずにいた。
彼はじゃあと、微笑み。
ーー自分の出る個人種目に勝って、クラスでも一位が取れたら……デートに行こうーー
その瞳から感じ取れる熱。その瞳に見られ続ければ、いつかその瞳に焼かれてしまいそうな程。
答えてしまった、その言葉を聞くと彼は有無を言わせずに行ってしまった。
それから、ずーっと。あの言葉、あの瞳、あの思いはなん何のかと考えてしまい。
言わないように、触れないようにとしているけど、無意識に、たった一つの結論が言葉として現れる。
恋。
一瞬にして頬が熱い、体の芯からじわじわと暖かな熱を帯びるを感じる。
熱く踠き苦しむように感情が溢れてしまう。
考えているだけ恥ずかしくなる。
初めて、デートの誘いでこんな気持ちになった。
初等部の頃から何回かデートに誘われ告白されたこともある、貴族の付き合いでお見合いなどもあった……でも。
今、感じているこの気持ち。どこか嬉しい気持ち困惑する思い、嫌だという自分。初等部の頃には決して抱くことがなかった感情。
自身でも、分からない。これらが何なのか。決して離したくないのに、要らないと切り捨てようとするこの思い。
彼のことを考える。
最初はああだったけど、話すたびに彼という存在が分かる。
彼が話す時はいつも楽しそうに話していて、友達のハルキくんやヒマワリくんと話す時は何時も幸せそうに微笑んでいて、タツガワくんと訓練する時は苦しそうだけど真剣に向き合って、シロミヤさんに振り回される時は困っているけども付き合ってあげていている。
そして、私が何時も困っている時は助けてくれる。
ナガクラくんは、優しく暖かさを与えてくれた。
短い期間だけど思え返せば、ナガクラくんは少し頑固だったり、家族愛だったり、意地悪だったりと。色んなナガクラくんをこの二ヶ月弱ではあるが、色んな姿を見た。
あの時、あの教室、あの夕暮れ、彼の本質が見た。あの瞬間、私だけがこの学校で知っている。
なんで、こんなにも出てくるのだろう。
その笑顔が微笑みが意地悪な時や頑固な時に見せる顔に視線が奪われる。
私は……いつの間にか……私は……。
パッン!
脳髄まで貫く音と衝撃。
頬にじんわりとした痛みと熱に視界が少しぼやけ始める。
少し、強く、叩き過ぎたけど……。
駄目だ。その先は本当に考えちゃいけない。その先はただ苦しみしかない。そんな予感を抱かせる。
もし、彼の言葉があの意味で言ったなら……。
「でも……そういうのじゃない……だけど……違う違う……だって……」
自問自答を繰り返す。
白の掛け布団に包まり、あうあうとゴロゴロと白のスーツをしわしわくちゃにして、肌身を貫く力ような魔力を感じた。
最初までは考えない為に見ていた映像に目を向ける。そこには、ナガクラくんがいた。
多分、ナガクラくんが自分の位を上げたのだろう。だいぶ、遅いと言うべきか。
その一瞬の冷静な思考に、熱々の妄想は冷やされ思考が巡る。
分かっている。分かっていた。
どこか冷静な自分が少しも残らずに熱を冷ますために告げてくる。
ーーあれは、誘い。恋心からくる誘いではなく。あれは……カザクラ・カクチカの闇を引きずり出す為の誘いーー
そうだって、分かっている。
あの時、彼が私の手を触れた時、瞳の奥で何かがより一層と燃えていた。
あれは、決して恋に燃え上がった火の瞳じゃない。
気づいている。そんなことは気づいていた。
ただ、もしそうだったら、と思ってしまう。
本当にそうだったら、私の事を忘れないのかな…………。
「ーー!」
強い嫌悪感に苛まれる。
思わず、吐きそうになる。
そんなことが良いはずがない、それをしたなら、今からやることに意味がなくなる。
でも、私の宝物が忘れれるのが……嫌だ
涙は流さず、でも胸を抑えて、平然を整える為に心を無にする。それは前からやっていたことのはず、だからできる、できる、できる。
明日もあるよ。




