二人デ
評価しようなんて考えずただ、疑って
何度目かわからないため息を吐きながら今日も帰路に就く。
右手にはお金をためて買ったブランドバッグ、左ひじにはストゼロ。
疲れ切ったOL図鑑なんてものがあればおそらく表紙を飾れるんじゃないだろうか。
「はあ」
また、ため息。
しばらく、ただ歩く。
「この公園も寂れてるっていうか、通りかかるだけでなんか持ってかれそうよね」
街灯に照らされた小さな公園はブランコ、滑り台。あとはたまにおっさんが酒を飲むベンチ。
きっと昼間にはもう少し子供で溢れているんだろうがもうすぐ七時を回る、
そんな時間に子供がいたらそれこそ・・・
「・・・あれ、見間違いよね?」
ベンチには小さな男の子が一人寝転がっていた。
その頬には大きな痣・・・。
きっと私は疲れていたんだ。いや疲れきっている。
だとしてもこんな時間にベンチで寝そべる子供、それも小学生以下なんて・・・。
「んんっ・・・」
思わず近寄ってしまった。
「君?こんなところで寝ていて大丈夫?」
お母さんは?なんて聞くことはできなかった。私自身わかる。
こんな時間に家を飛び出す子供が育つ家などろくなものではない。
私みたいなのが育つような家なのだろうか。だとしたら、嫌だな。
自分はこれでも少しは誰かを見る余裕ができたと思う、自分だけしか目に入らないような年齢ではない。
なら、目の前の子供一人も救えないのだろうか。私はそんな大人になってしまったのだろうか。
まったくどうしようもない私の性分だ。「できるならやる」どんなことでも、ね。
「ねえ、もし行くところがないならお姉さんのところに来ない?」
本当なら警察に連れてってため息吐きながら後はよろしくでいい。
そうやって私は擦り切れた。だから私は、この子を、救って見せるんだ。
「・・・」
まあ普通にこちらは不審者だもんね。
「まずここから移動しようか?」出来るだけ、やさしく語り掛ける。
すると少年はそっと私の袖をつまんだ。なんだこのかわいい生き物は。
しばらく無言でただ歩く。コンビニの安っぽい明るさと走り抜ける車のハイビームが頬を照らした。
栄養が足りないのか少しがさついた肌に大きな痣。さすがにここで一緒に店に入るのは気が引ける。
「一回私のお家で待っててくれる?いろいろ用意してくるから」
「・・・うん」彼はこっくりとうなずく。
このボロアパートだが防犯がずさんでよかった、今日だけは思う。
「ちょっと狭いんだど、ごめんね?」
「・・・あいじょーぶ」
こんな子供をこんな家に放置はしたくないのだけど。それでもご飯くらいは早く食べさせてあげたい。
・・・そこからコンビニとドラッグストアを巡りご飯といわゆるお泊りセットみたいなものを用意しておく。
流石に子供服だの食器だのを一挙にそろえるのは一晩では難しいからね。
・・・悪い癖だ。完全に仕事で疲れ切っているのに自分でタスクを作ってしまってどこからか力をひねり出してしまう。
明日が休日でなければこんなことはしなかったのか。いやきっと私は何度でも同じ過ちを繰り返すだろう。
でもなんか、過ちっていうの嫌だな。少々猫背で滑稽な歩き方をしながら、私はアパートへと戻った。
「ふふ、寝てる。」さすがにこの時間だから寝落ちしてしまったのだろう。常にカフェインで極まっている社畜の私とは違う。
よる、ねむくてねる。そんなことも忘れていたとはね。
布団に横にしてやって毛布を掛ける。
「小さい体」
電気を消してキッチンで私は、ストロング缶の封を切った。
「カシュ」
・・・朝が嫌だと思ったのはいつからだろうか。生きたいって必死にあがいて生きてきたのに
夜には目覚めなければいいのになんて。都合がいいな。
ガサッ、布のこすれる音が無音で膨らんだ部屋に響く。おびえて泣き出したりされると困るのだが。
「・・・?」何も理解していないという顔。いやこのくらいの子なら当たり前なのかも?
「おはよう、君が公園で寝ていたから取りあえず連れてきちゃったというか保護したというか助けたというか取りあえず綿s他紙は怪しいお姉さんじゃない食見に危害を加えたりしないから泣きさけんだら助けを求めたりされると困るなっていうかほら、パン。パンあるよ!?」怪しいお姉さんランキング世界一位です。どーも。
「ん?」かわいらしい声が漏れた。何があったらこの子の顔に痣などつけるのだろうか。
いやどうでもいいか、人が怒りを覚えたとき何をするかなんて一番よくわからないことを一番よく知っているはずだろう。
子供の話す音だけの言葉、喃語。これほどかわいい声があるだろうか。学生のころの夢を思い出す。
私は保育士になりたかった。しかしいうからだろうか、「私のような曲がった人間を見せたくない」
そんな思いとともに夢も捨ててしまった。だから何だって話だ。まずはこの子の世話をしないと。たとえ誘拐犯と
呼ばれることになったしても、一度始めたのだから。やめはしない。
「取りあえず、ご飯にしようか?」「あい・・・」
受け答えはしてくれているが見た目よりずっと幼い受け答えはどこか不安だが食べている間に傷の手当てをしてしまおう。
「痛くない?」聞く意味もないことだがそれでも確認せずにはいられない。
「あい・・・」会話などなくてもいいけど、せめてこの子の平穏な時間がもう少し続いてほしいなと思った。
何かしたいことはあるかきくと無言で窓を指さした。外に出たいみたいだった。
少し不安だった、でも子供が外に出たいという簡単な願い一つもかなえられないならこの子をさらってきた意味がない。
「このテディーベアも持っていこうか」この子の唯一の持ち物であるそれを渡すと、ぎゅっと握りしめた。
外を歩く行為が嫌いだった、いらない言葉ばかりが耳に入り我慢ならなかった。
「ねえお母さん!あの熊さんかわいいね」
「・・・そうだね」
「あれいたそうだな・・・」
「大丈夫かな」
「あー、めんどくせえなあ」
「こわいなあ」
聞きたくない、どうしてそんなことを無駄な言葉をつぶやくのか。言葉は少なくていいと思っている。
伝わればいいのだ、いくら繕っても無駄だと知ってしまったから。
「大丈夫?寒くない?」
「み・・・」
み、ってなんだとは思ったけれど子供の言葉に意味なんかない。意味があったとしてもくみ取ることは大人にはできない。
大人になってしまった私もきっとできないだろう。
「おい、あれ。」
「なんかすげえなー。」
「放課後どこ寄ろうか」
「お前このクエストクリアできた?」
「無理無理、連戦キツイ」
「たの・・しい、ね?」
話しかけてくれた、私に。誘拐犯の私に。
うれしかったさみしかったくるしかったいきぐるしかった。
そんな感情が、表れていくようで。静かに涙を流してしまったのだった。
「だいじょーふ?」
「大丈夫だよ」
帰ったころにはネットで注文した食器や布団などが届いていたので助かった。
「これ、すき」
くまのかいてある食器をだちながら笑ってくれた。
そして私は二人で散歩をしながら考えていたあることを伝えることにした。
「ねえ、私には本当のお名前は教えなくていいからここでだけでお姉さんとだけ使うお名前を考えたんだけど使ってくれる?」
「・・・いいよ」
「これからお姉さんは君のことを「くーくん」って呼ぶね。」
熊の人形だからくーくんとは、我ながら思いついた瞬間だけは天才かと思ったが思い返すとひどいな。
「おなか、すいちゃった」
「ご飯にしよっか」
くーくん。
そこからの毎日はとても楽しかった、歌を歌ったりふたりでおひるねしたり。
びっくりするくらいたのしくてぼく、こんなとこがあるってしらなかった。
ずっと、ずーっとおねえさんといたいな・・・。
「・・・おはようくーくん。いっぱいねれ・・・あれ?」
「くーくん、どこ?」
いない、どこにもいない。
「かくれんぼならちょっとストップして一塊朝ごはんにしよ!お姉さんおなかすいちゃった!!」
無駄に叫べど反応はない。目がくらむ・・・。
「ふああ、おねーさんどこ・・・?」
いない、どこにもいない。おねえさん!どこなの?いない!!いないよ~!!
「どこどこどこどこどこ???
おそとかな?おそとかも!
いってみよう。
「うわ!?怖い」
「キャアアアアーー!」
「おかあさんあのひとこわいよ」
「・・・あの、だいじょ」
だれかな?おねえさんしってるかな?
「あの!あの!おねえさんしりまちぇんか?!ねえ!ねえ!」
「ヒイ!?」
「おかあさんこわいよおお」
おんなのこないてる、ないてるのだめ。ごめんなさいしなきゃ。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
あれ、ふらふらする・・・・。
「すみません、わかりますか?どうして倒れていたのかだけ聞かせてください。それからもうすぐ救急車がつきます。」
高めの男性の声、誰もが一度は見たことある制服。
警察の人だ。まずい、非常にまずい。今はくーくんを探さなきゃいけないのにこんなところで万が一捕まってしまったら・・・。
いや、私は捕まってもいい。警察の力を頼ろう。言葉を尽くして・・・。
「・・・じつは」
「ゆ、誘拐した少年がいなくなった・・・?」
「は、はい」
彼は心配を浮かべた丸い目を絞り鬼を纏い始めた。
「それは、事実ですね?」
「そうです・・・」
「その子の特徴だけ聞かせていただいても」
「名前は、くーくんです。頬に大きな痣と熊の人形を持ってるはずです」
「少し失礼」
そう言って彼は本部かどこかに連絡をし始めた。
安堵した、これであの子は救われる・・・。そっと、目を閉じた。
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少年を誘拐し、逃げられたという女性が目を覚ましたらしく警察の方々が病室に入っていった。
彼女はうちの患者だったから情報はわかっている。しかしあまり刺激してほしくないな。
「先生、このカメラで取り調べを観察するってそんなことしていいんですか?」
看護師の花さんが僕に心配そうに聞いてくる。
「むしろこうでもしないと彼女がどうなってしまうかわからないからこうするしかないんだよ」
「まあ、黙っている私も共犯なので安心してください。患者さんが、一番なので」
「そういう思想に狂信的なところ好きだよ。」
「しっ、始まりますよ」
「それでは高山さん、少しお話を聞かせてください」
「・・・だれそれ」
「な、なにをおっしゃっているのですか?」
「ぼくは「くーくん」だよ?おまわりさん!そうだおまわりさんにきけばよかったんだ!!!」
「ねえ、ぼくのおねえさんさがしてくれませんか!!」
「・・・取り調べは中止だ」
「え?どこから声が!?」
「いいから取り調べを中止してくれ!!」
「これ以上患者に負担をかけるな!!壊れてしまう!!」
「わ、わかりました。今回はあくまで任意聴取ですので。主治医の判断でいったん終了します」
「ありがとう」
その数週間後警察から「くーくんなどいなかった」という報告が来た。
「念のため強い向精神薬を処方したとき一回だけ高山さんと話せたから状況が分かったけどやはりか」
「確かたかやまさんって・・・」
「そう、彼女は自殺かはわからないけど電車と接触事故を起こした際軽い脳障害を起こしてしまったんだ。」
「感知して退院したのでは?」
「ちがうんだ、その脳障害から発生した精神障害によって「くーくん」は生まれてしまったんだ」
「つまり・・・」
「彼女はどれだけ願っても少年には会えないんだよ、・・・」
「そんなのって・・・!」
「仕方ないんだ、仕方な・・・いわけないだろ!?僕は目の前の女性一人救えないだなんて」
「・・・先生、高山さんが希望していたものを支給するか迷ったのですが、いいですか?」
「それはなんだい・・・?」
「菓子パン、子供用の布団と皿。テディーベアだそうです」
ここは狭い閉鎖病棟
「あはは!くーくんおいしい?わたしもたべるね!かわいいおさらだね。やっぱりわたしセンスいいなー!」
女性が立ち上がり向い側へ、そして無理やり子供用の小さな椅子に座ると。
「おいしいよおねえさん!」
その顔に浮かぶ笑みは純真無垢で、とてもいい笑顔だったとか———。
「ねぇ、先生、先生はもちろんそこにいますよね…?」
「さあ、どうなんだろうね……」
疑うことを恐れないで