拝啓、遥か異界の此方より
手紙を残そうと考えたのは、一人になって数日経ってからだった。
空腹を極めた人の行動とは、かくも突飛な所業に至るのだなぁ。などと委細思考も漠然としているうちに筆を執った。意味のある詞がじきに書けなくなるだろうとは、無意識に直感していた。
はてさて、何を書いたものか。書き出しに迷い、何度か紙を破いて捨てる。伝えたいことは一つであるはずなのに、そのために使いたい言葉が山程あふれる。
あらゆる命が別れを告げたこの世界で思い出すのは、かつての仲間の姿。その笑顔。その旅路。
長かったようで、短かったような。楽しかったはずなのに、なぜか寂しい思い出。
潮風が鼻腔をくすぐる。さざ波の音に意識をさらわれそうになる。それを堪えて、この透き通った青い空をにらみつける。睨みつけているとは思えぬほど、穏やかな瞳で。
この旅がずっと続けばよかったのに。
長い、長い時をかけて、こみ上げる感情を一つずつすくい上げる。漸く言葉がまとまると、宛名もなく、差出人名もない、ただあの人の顔だけを思い浮かべた手紙ができた。くぅとお腹が鳴いた。
「___拝啓、遥か異界の此方より」
きっと《たとえ》、どこにも届かないのに《届かなくとも》
気づけば暗くなった空と足の下に、流れ星が煌めいていた。