8話 実力
「さぁ、着いたぞ。ここがダンジョンだ。」
天斗は大きな洞窟の前に立ち言った。
「これがダンジョンですか・・・。ただの洞穴みたいですけど?」
「入り口はな。ここは惑星オームに唯一存在するダンジョン『試しの洞窟』と言って、地下10階くらいの少し小さめのダンジョンなんだ。出てくるモンスターもそんなに強くなくて、出ても人災級クラスくらいなんで、新人の実力を見るにはちょうどいいところなんだ。」
確かに洞窟からは妖しい気配を感じる。真実は少し緊張しながら天斗に向かって言った。
「わっ、わかりました。ここでこのダンジョンでモンスターを倒せばいいんですね!」
「まぁ、そういう事。研修みたいなもんさ。モンスターと戦うの初めてだろ?とりあえず行ってみようか。」
余裕な天斗に比べ緊張気味の真実。対照的な二人はダンジョンの中へ入っていった。
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「中って思ってたより明るいんですね。」
「あぁ、ダンジョン自体の壁が魔力を帯びてるみたいで発光してるからな。でも油断はするなよ。急に暗くなったりすることもある。ダンジョン内は気を緩めると危険だぞ。」
「はいっ瀬ノ内先輩。」
ダンジョンの中を進んで行く二人。普通の景色と明らかに違う状況にそして初めての状況に驚きと興奮を隠せない真実であった。
「っと、一ノ瀬。そろそろモンスターが来るぞ。準備しとけよ。ちなみに俺は一切手助けしないからな。一人で対応するんだぞ。」
「はっ、はいっ!ガンバリマス!」
ダンジョンの奥からイヤな気配を感じる。天斗ははスッと後ろへ引き、真実は気合いを入れ直し、弓を身構えた。
するとダンジョンの奥から緑色の肌に醜い顔をした人形のモンスターが現れた。
「ひぃ。」
「ゴブリンだな。それも3体か。まぁ様子を伺うにはちょうどいいかな?」
ゴブリンは様子を伺うように立ち止まり、身構えた。
「グリュリュ」
「グシュシュ」
「グギャアアア」
「ひぃ 、きっ、気持ち悪いっ!」
ゴブリンの奇妙な鳴き声に初めてモンスターと対峙する真実は少し引いていた。
「大丈夫だ。ゴブリンはそんなに速くもないから落ち着いてやれば問題ない。」
「は、はいっ!いきます。『予眼』!」
そう言うと真実の左目がぼうっと光った。その左目でゴブリン達をすぅっと見つめると弓を引き絞り、矢を放った。サクッと放たれた矢がゴブリンの額に刺さった。一瞬の出来事に呻き声をあげる事なくゴブリンは絶命した。その様子を見た2体のゴブリンはその場を離れた。
「そこっ!」
しかし真実は離れたゴブリンの1体をまるで予測したかのように弓を引き絞り流れる動きで矢を放った。
「グギャ!」
1体目のゴブリンと同じ額に矢が刺さり、2体目のゴブリンも絶命した。その様子を見た最後のゴブリンは真実が向こうを向いているのを見ると一直線に真実の方へ向かってきた。
「グギャグルルッ!」
「それも『予測』出来てますよっ!」
2本目の矢を放ったあと、流れるような動きで矢を引き絞り、襲ってくるゴブリンに向かって矢を放つ。
「グギャアアアアアッ」
またしても額に矢が刺さり、最後のゴブリンも絶命した。僅か数十秒の出来事であった。
「ふうっ。こんなもんですかね?」
弓の構えをといた真実は一息つき、天斗の方を向きそう呟いた。
(へぇ、なかなかやるじゃないか。2文字の『スキル』とはいえあそこまで使いこなしてるなら確かに課長が新人として入れるだけはある。あれが『4文字』になったら中々に強力だな。)
と天斗は思いながらも、真実に反省点を出した。
「うん、まぁ最初にしては良かったと思うよ。ただ、スキルの発動が少し遅いな。それとあれぐらいのモンスターなら分散する前に一発で倒せるようにならないとな。まだ動きにムラがある。矢を引くまでの動作が少し遅いかな?これから出てくるモンスターはだんだん強くなっていくから、今の対応じゃ追い付かなくなるぞ。」
実はの所初めてのモンスター退治であれなら十分及第点なのだが、あえて厳しめに天斗は評価した。
「ええっ、あれでもダメなんですかっ?ぶー、じゃあ見本見せて下さいよ。瀬ノ内センパイ。」
初めてのモンスター退治、自分では完璧に出来たと思っていたのにダメ出しを食らった真実は不貞腐れながら天斗を挑発してきた。
「ん?見本?まぁいいけど、使う武器も違うから参考になるかな?」
まだまだ若いなと天斗は思いながらもあえて挑発に乗ってみた。
「おっ、ちょうどいい。モンスターがまた来たから今度は俺がやろうか。」
そう言って天斗がダンジョンの奥を見ると10匹ほどのゴブリンが出てきた。しかもそのうちの1匹は他と比べ体が1,5倍ほどでかく強そうであった。
「ゴブリンリーダーが率いている集団かこれなら比較しやすいかな?一ノ瀬、よく見とけよ?」
「えっ、いくらなんでもあれは無理でしょう!」
「『天下無双』発動。初太刀の弐式『乱舞』」
そう言うと、天斗は一瞬にしてゴブリンの群れに入り込み日本刀を片手で抜きくるっと一回転した。
ゴブリンに囲まれる形となった天斗の姿を真実は見えなかった。自分から敵の集団に飛び込んでいく自殺行為にみえる行動に真実は驚きを隠せなかった。
「瀬ノ内センパイっ!」
「終わったぞ。」
急に自分の横から声が聞こえ振り向く真実。すると横には今ゴブリンの集団に飛び込んでいった天下の姿があった。
「えっ?あれ?今あの中に飛び込んでいった?」
「あぁ、そうだよ。で、戻ってきた。」
「ウソッ?」
「嘘じゃねーよ。ほれ見ろ。あれを。」
天下がゴブリンの集団を指差した。するとゴブリンの集団は全く動かずにその場で静止していた。
「2秒くらいかな?こんなもんだろ。」
と言って、日本刀を鞘に戻した。
チンッ。
その音と共にゴブリンの集団は全て首と胴体が離れていた。
「へっ?」
真実は今起こった出来事に頭が追い付かず呆然としていた。
「使う武器も違うしスキルの内容も違うからな。だけどスキルを使いこなせばこれくらいの事は誰でも出来るぞ。」
「はい・・・。勉強になりました・・・。」
そう言いながらも呆然と立ち尽くす事しかできない真実あった。
初太刀の弐式『乱舞』
天下無双のスキルを利用した剣技の一つ。
取り囲まれた際、一回転する際に刀を見えない速度で振り抜き敵を一掃する。
一応先輩の威厳を見せつけた天斗でした。
最近自粛で外に出れない日が続きますね。
少しでも自分の作品が暇潰しになれば嬉しいです。