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元お嬢様とキモオタ幽霊、希望の未来へDraw Go!(後)

「待つのですわ!」

麗華は今にも金目の物を物色し終え、帰ろうとしていたグラサンスキンヘッド関西弁を呼び止めた。

「どないしたんや、お嬢ちゃん」

「あなたに決闘(デュエル)を挑みますわ!私が勝ったらこの家の借金を無かったことにすること!掛け金は、この私自身ですわ!」


これには、おじさんも驚いた様子で家から出てくる。


「や、やめるんだ麗華ちゃん!さっきの勝負を見ていただろう!彼は強い!というのに君は無能者じゃないか!勝てるわけがない!それに、ここに来るとき君デッキなんて持ってなかっただろう!」

「大丈夫、今組みましたわ!」

「くは、くははは!嬢ちゃん無能者で即席デッキで、このワイに啖呵切ったんか!気に入ったわ。ええで、受けちゃる。」


スキンヘッドは笑いがこらえられない様子だった。もう勝ったものだと思っているのだろう。


「決闘成立や…。今日はカモがよう釣れるわ!」


 ♦


「先行はくれてやるで。サービスっちゅう奴やな。」

『麗華殿わかってますな。』

「ええ。先行、マナをチャージしてターンエンドですわ。」


このカードゲーム、"ケイメスト"の大まかなルールを説明しよう。デッキからカードを引き、マナをチャージし、カードをプレイするという一連の動作を行う手番を、それぞれ先行後攻交互に分かれて行い、結果初期ライフである20ポイントをどちらかが全て失う事で決着する。


「じゃあワイの番やな。ドロー。マナをチャージしてターンエンドや。」

「私の番ね。2ターン目、ドローしてマナをチャージしてターンエンドよ。」

「わぁぁ!なにをやっているんだ麗華君!」


現代戦術において、2ターン目は初動として重要な意味があるとされていた。そこを動かずパスする姿は、手札事故を起していると思われても仕方ないものであった。


「クハハ、即席デッキなら仕方あらへんて。ワイの番やな。〈ソルジャーラビット〉を召喚や。」


〈ソルジャー・ラビット〉は戦闘に勝利した時にカードを引くことが出来る低コストユニットだった。


『読み通りで御座るな、麗華殿!』

「ワイはこれでターンエンドや。」

「そのエンド時に、私は手札から〈灼熱の裁き〉を発動!〈ソルジャーラビット〉にダメージを与え破壊しますわ!」


空かさず、私は除去を繰り出す。


「ほお、運がよかったな。除去を握ってるなんて。」

スキンヘッドはこう口にしていたが、内心では貴重な除去を低コストユニットに当てる行為を馬鹿にしていた。

(この嬢ちゃん、シロウトやな!もろたで)


「私のターンですわね。ドロー、チャージ、ターンエンド。」

「そんな!さっきは都合よく除去を持っていたけど立て続けにパスなんて!もうおしまいだ…!」

「そこが限界みたいやな嬢ちゃん!俺のターン、俺は〈グレート・ベア―〉を召喚してエンドや!」

「エンド時、グレートベア―に除去を当てますわ。私のターン。ドロー、チャージ、ターンエンド。」

「チッ、俺のターン!もう一度〈グレート・ベア―〉を…」

「通りませんわ!除去そして私のターン!ドロー、チャージ、ターンエンドですわ!」



 ♦

幾度、同じやり取りが繰り返されただろうか。ついにお互いのマナプールがチャージできる最大値に達し、チャージすることもできなくなった。


「また、私のターンですわね。ドロー(draw)ターンエンド(go)……ですわ!」


「そうか……、なるほどな……。これはコントロールタイプのデッキ……。それも自ターンの行動を極端に廃した(いにしえ)のアーキタイプ『ドロー・ゴー』……やなァ!?」

「な、なんだってぇぇぇぇぇ!?」


ようやく気が付くスキンヘッドと、その指摘に驚くおじさん。


現代ではギフトの登場により多くのデッキの突破力が向上したため、コントロール系等のデッキはあまり選択されることはない。


ギフトを絡めた多様な相手の戦略全てを、受けきる事は不可能に近い。故に、受け身のデッキは流行らない。


そしてその少ないコントロールデッキが使われる場合でも、自発的なアクションが戦略の主体になることが多い。「ドローゴー」などといったハードパーミッションデッキはロストテクノロジーであり現代ではもはや理論上の存在とされていた。


「そんな昔のデッキを即席で組むなんて…。麗華ちゃん、いったい何者なんだ…?」


だが、


「確かに!確かに、ワイに対しては有効や!現代のギフト戦を主眼に据えた俺のコンバットトリックの6割はそのデッキに全く通用せん。してやられたわ。」


この勝負。このスキンヘッドのデッキコンセプトとの相性は最高だった。彼の手札には麗華相手に何の意味もなさない死に札が次々と溜まってゆく。戦闘が起こらないのであれば、コンバットトリックなどなんの意味もなさない。


「でもや、そんな昔のデッキが好きなら思い出させてやるだけや。何故パーミッションは今のカード界から姿を消したかを、な!〈キング・ベーア〉召喚!」

「それに対して、除去マジックはつど……」

「甘い、さらに上から対応でギフトを発動や!こい、絶対守護の盾!ワイのギフト!"イージス″」


召喚された王冠を被った熊が彼の能力でできた盾を装備する。


「この盾〈イージス〉は特別製でな。装備してるユニットに『対象に取ることが出来ない』と『破壊されない』の能力を付与するんや。あんさんの除去では突破できへん。ギフト込みの現代カードでは受けれる範囲は限られる。嬢ちゃんはようやった。だが、ここが限界や。」


 ♦

麗華は戦慄していた。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。



倉之助は戦う前、麗華にこう告げていた。


『間違いなくあの手の極端なデッキには対策の対策が入っているんですな。おそらくそれが奴のギフト、とやらの正体でござろう。故に、決してこのカードは最後まで手札に残しておくでござる』



私は、倉之助のほうを伺う。私にしか見えない幽霊は、笑顔で頷いた。


「マジックを発動しますわ!〈龍の裁き〉!ユニットを一体選んで追放いたしますわーッ!」



 ♦

「血迷ったか、嬢ちゃん。ワイの〈キング・ベア―〉は対象に取ることが出来な、…、…、…、なんでや!ワイのイージスが追放されている!?」

「言ったはずですわよ。私は選んで、と」

「なんでや!どっちもおんなじやろが!」


そこであっけにとられていたおじさんが、はっとしたように口を開いた。


「聞いたことがある……。このカードゲーム、ケイメストは元々神々の遊び。それを無理やり翻訳したものだから我々の言語理解外にある挙動を示すことがあるって…!」

「な、な、な、なんやてえええええ!」

「でもその異常挙動を纏めた目録は、300年前に失われたと聞いたよ!それを実践で使いこなすなんて……!す、凄すぎるよ!」

「太古のデッキと、太古の知識と使いこなす無能者のお嬢様……。一体あんさん何者なんや…ッ!?」


その問いに、少し考え麗華はこう答えた。


「未来のチャンピオン、ですわ!」



 ♦

「それで、まだ続けるんですの?」

「いや、もうワイに勝ち目は無い…。この決闘(デュエル)、続けたところで、ワイの負けや。このおじさんの借金もたった今無くなった。あとは、好きにせえ。」

「思ったよりあっさりしてますのね。」

「なに、珍しいもん見せてもらったしな。勉強料みたいなもんじゃと思っといたるわ。じゃあの。」


そう言ってグラサンスキンヘッド関西弁は帰っていった。




おじさんは大はしゃぎした様子で。、

「凄い、凄いよ!麗華ちゃん!もう返しきれないくらいの恩が出来ちゃった。僕に出来る事なら何でも言ってくれよ!」

としきりに同じような事を繰り返していた。

麗華もさっきの試合の興奮が抜けないのか方針気味におじさんの言葉を聞き流していた。

だが、次の言葉で、現実に戻る。


「それにしても、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()…。」



(私は追放されたんだった…。カードが、弱くて。でも、もし、今なら・・・?)


今は倉之助がいた。彼の読みと試合に対する理解度は群を抜いている。異常と言ってもいい。それになにより、古のカードゲームの知識はともすればチートとも呼ぶべきアドバンテージになり得る。

ならば。


気が付けば夜になっていた。まだ興奮冷めやらぬ叔父さんに一言断りを入れて外出する。


「少し、夜風にあたってきますわ。」

「わかったよ、麗華ちゃん。行ってらっしゃい。」



 ♦

夜、私は再び近くの花畑を訪れていた。


「不思議ですわね、倉之助。夜の暗がりでも光ってるかのようにちゃんと見えますわ。」

『不思議、ですか?拙者自分の事はよくわからんのでござる。そ・れ・よ・り・も麗華殿!先ほどの試合最後の言葉!』


――――未来のチャンピオン、ですわ!

未来のチャンピオンか…。

実家にいるときは考えもしなかった可能性。

もしも棚ぼたでも、偶然でも、チートでも、あいつらを見返せし、上から高笑いしながら見下す、そんな日が来るのなら。

死ぬのはその後でもいいかもしれない、麗華はそう思った。


「いいでしょう。あなたの願い、この北条麗華が聞き届けてさしあげますわーッ!」


喜ぶ変な幽霊の倉之助の姿を尻目に麗華は決意する。

(わたし、何としても成り上がってみせますわ!)


そう、この日から麗華と倉之助は、未来へむかって歩き始めたのだ。



 

『元お嬢様とキモオタ幽霊、希望の未来へDraw Go!(完)』






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