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元お嬢様とキモオタ幽霊、希望の未来へDraw Go!(前)

よろしくお願いします。

「麗華、おまえの手番(ターン)だぞ」


それは父に、稽古を付けてもらっている風景だった。


父の盤面には、私のライフを削り切るだけの攻撃力(クロック)が揃っていた。


解決できる策を引きあてなければ、私はまた敗北する。


意を決し、カードを引く。






そして降参の意を示した。

目当てのカードは引けなかった。


「なんだ、その腑抜けたドローは!ふざけているのか!」


激昂した父が手を振り上げた。


まただ。


私はそれを、他人事のように眺めていた。


  ♦

金髪ドリルがトレードマーク、北条麗華はまた昔の悪夢を見ていた。

彼女はカードゲームの名門一族である北条家の長女として生まれた。

しかし、麗華はカードゲームの才能『ギフト』を持たない無能者であった。



『ギフト』

それは神から授かる超常の力。一ゲームに一度だけ、魔力を捧げて盤上に奇跡を起こす異能。

現代のカードゲーム、ケイメストと呼ばれるそれでは己の得た異能に沿ったデッキを構築するのが基本戦略(セオリー)になる。

今を生きるカードゲーマー達の、絶対的な生命線こそギフトなのだ。




麗華は決闘(デュエル)の前から大きなハンデを背負っていた。

それは、カードの強さを常に競い合い切磋琢磨したいた北条家においてあまりに致命的な欠点。



分家筋に人間からはサンドバック代わりに対戦させられイジメにあい、父からは折檻ともいえる激しすぎる修行を付けられた。


ギフトの強さは遺伝するというのが通説。まともな結婚相手など見つかる筈もなく、強くなることだけが北条家で生きるためのか細い、麗華にとって唯一の道だった。


でも結局、無能者が強くなれる筈もなく。


結局彼女が15歳の時に行われた、北条家当主に代々伝わるレアカード『ファイアライトニング・エンペラー・ドラゴン』継承の儀式において分家筋の少年に敗れた折に、遂に見放され実家を追放された。



幾ばくかのお金を渡されて、麗華は遠縁の親戚の家へと預けられることになった。

二度と屋敷を跨ぐことは許さんとだけ言われて。



それが、昨日の事である。



預けられることになた家のおじさんも、おばさんも、優しい人で彼女の事を気遣ってくれた。

でも家が少し貧相だった。裕福な家と言うわけではないらしい。ベッドも硬かった。

硬いベッドの上で泣いて、寝て、悪夢にうなされて、起きて、ベッドが硬いことを確認して、麗華は決意した。



(人生詰みましたわ…。死にましょう。)



不遇であったとはいえお嬢様な麗華に、硬いベッドには耐えられなかった。



 ♦

死のうと決意したは良かったが、どうするべきかが問題だった。死に方がわからない。

父にはよくぶたれていたが、死ぬにしても痛いのは嫌だった。

首吊りや飛び降り、新幹線など論外である。

出来ればバラの花園で、優雅に華麗に静かに息を引き取りたいと思った。


「分からない時は何事も経験と練習だ」と麗華にカードを教えてくれた人は良く言っていたが、彼女に死んだ経験なっどなかった。当然である。そして練習する事も難しかった。


困ったことになった。



 ♦

「麗華ちゃん、お出かけかい?」

「はい、少しお花畑に。」

「そうか、それはいい。こんな事になったんだ。気分転換も必要だろう。」


おじさんと軽くお話をし、家を出る。

追放されてフットワークが軽くなった麗華は地元では有名らしい花畑へと、死に場所の下見に足を運ぶことにした。

死ぬ練習は出来ないけれど、イメージトレーニングぐらいはできるかもしれない。

何気に彼女の人生で初めての一人での外出である。麗華は少しワクワクしていた。


 ♦

目的のお花畑についた。

その美しい光景にハッと息を飲む。それは絵画にも出てきそうな美しい光景。

居場所無く、惨めな思いをし続けていた麗華は、心洗われる心地で景色を眺めていた。


「綺麗…。でも…。」



でもそんな美しい風景の中央に、小汚い中年男性が一人。

生え際の後退が生々しい哀愁を感じさせるオジサンが、花畑の幻想的な風景を著しく乱していた。


「ちょっとあなた!そこでなにしてるんですか!」


麗華は我慢ならなかった。自分が美しく散る場所(予定)を年中毛根と格闘してそうな中年に汚されるわけにはいかない。意を決して声をかける。花畑には立ち入り禁止の文字。正義は麗華にあった。


「この花畑は立ち入り禁止ですわ!その汚らしい脚をどけなさ…。」


言いかけて、気づく。


「キャー!ゆゆゆ、幽霊ーーーッ!?」


その中年男性には、()()()()()()()()


『驚いた!貴殿には拙者が見えるのですかな…!?』


そして、あろうことかその幽霊は、驚いた様子で声をかけた麗華のほうへと詰め寄ってくる。


「いやーーーー!こないでーーーー!」


『待って!待つんですな!拙者の話をどうか聞き届けてたもーーー!』


幻想的な花畑を舞台に、中年男性の霊と少女の本気の追いかけっこが始まった。

犯罪的な絵面であった。



 ♦

一分後、息を荒らげ怯える麗華とすまし顔の中年男性の霊の姿があった。

かたや幽霊、かたや運動などとは縁遠い元お嬢様とあっては勝負は始まる前から決していたと言えよう。


「ハァ…、ハァ…。それで私を追い回して一体どうするつもりですの…?」

『べ、別にどうもしないですな。ただ初めて僕が見える人が見つかったので、ちょっと話がしたかっただけでして…。』


逃げることは出来ないと悟った麗華は、諦めて変な口調の幽霊の話を聞くことにした。

よくよく考えると相手は幽霊。言うなれば死のスペシャリストである。話を聞けば何か得る者があるかもしれない。


「それで、話ってなんですの?」

『いやあ、話すと長くなるんですがな…』


―――曰く、この幽霊はおよそ300年前のカードゲーマーの篠原倉之助という人物の霊だという。

当時、『ギフト』等といった特殊能力が未だ無かった旧時代。

人々は己の力のみで切磋琢磨し、様々なルールの元で覇を競い合ったという混沌の時代。

その時代を生きたトッププレイヤーの一人だった、らしい。


『しかし、幸せにカードをプレイし生きていた拙者にも一つの転機が訪れたのですな。』


―――30も後半を迎え、独身だった倉之助にもついに春が訪れた。とある女性TCG配信者の配信との出会い。ガチ恋。生活費を削って画面の向こうの彼女に貢ぎに貢いで破産。そして彼女の結婚報告。世の無常を儚みながら真冬の寒空の下、脳内では彼女と結婚式を挙げる予定の場所だった花畑で三日三晩号泣……


『というわけで、気が付けばこの花園で死んでしまったのですな。』


倉之助の自分語りを聞かされ、麗華の中でこの霊への評価が急降下していく。あとこの花畑で死ぬのだけは絶対やめようと決意した。美しかった筈の景色が爆速で色あせていくのを感じた。



「…。もう、いいですか?何もないなら帰らせていただきますが…。」


麗華は一刻も早くこの下らない幽霊と、曰くつきの花畑から離れたかった。初めての一人での外出は地獄であった。


『ちょっと、ちょっと待つでござる!本題はここからですぞ!実は拙者が見える貴殿に恥を忍んで頼みがあるんですな!』

「頼み…ですか?」

『そうでござる。貴殿には、拙者の成仏を手伝って欲しいのでござる。』



麗華は、血の気が引く思いだった。目の前には結婚できなかった中年キモオタ、妄想と現実の区別が付かずに自殺。麗華は幼い頃より、お嬢様として世の男性の恐ろしさを偏った形で教えられてきた。


倉之助の願いとはつまり―――。



「汚らわしいですわ!近寄らないで!乱暴するつもりでしょう、エ口同人みたいに!」

『ちょ、違うでござる!何を勘違いしているか知らないでござるが、貴殿に頼みたい我が願いとは―――』




『カードゲームで、拙者の最強を証明したい。ということなんですな!』




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