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ヤクザとタピオカ

作者: 逢坂十七年蝉

「ヤス、道具持ってこい! ありったけだ!」


 夜更けの新宿歌舞伎町にヤクザの叫びが木霊(こだま)する。

 金曜夜の雑踏が、(にわか)に騒がしくなった。

 キャーなにーと嬌声をあげたスパンコールドレスのキャバ嬢が、あっと言う間に“ソレ”に呑まれる。


 タピオカの親だ。

 別名、黑糖珍珠粉圓母蟲。

 大型コンクリートミキサー車ほどの巨体が、プレミアムフライデーで賑わう街を阿鼻叫喚に突き落とす。


 中華人民共和国とミャンマー連邦共和国ビルマのシャン州の境界に棲む珍獣だ。

 いや、獣と呼んでいいのかは、定かではない。


 一見すると両棲類に見える黑糖珍珠粉圓母蟲だが、そのDNAは地球上のありとあらゆる生物と似ても似つかぬ八重螺旋構造を持つ。

 現在の学説では、エッジワースカイパーベルトよりも外側の、太陽系外からやって来た生物とされていた。


 これこそが現在、(ちまた)で女子高生に大流行のタピオカの母体である。

 雌雄同体の母体が食餌によって得たエネルギーの余剰分を卵として産卵。

 日本での通常飼育環境下の栄養状態で一日当たりの産卵量は十五トンから二十七トン。

 遺伝子型は一個一個の卵で異なるため、駆除方法はほとんど存在しない。


 その生命力は強靱の一言に尽きる。


「兄貴、トカレフの弾が効かねぇ!」

「馬鹿やろぉ! 眼ぇ狙うんだよ!」


 十三本の逆関節支持肢と三十七個の複眼を持つこの生物は乾燥に強いぬらぬらとした皮膚に覆われており、高い対衝撃性を有していた。

 辛うじて眼球はトカレフTT-33自動拳銃の弾で射貫くことができるが、(まぶた)を閉じられてしまえば、RPGでもダメージを与えられない。


「シゲ、応援を寄越したぜ!」

「北岡の叔父貴! 助かりやす!」


 指定暴力団上州安中組系三次団体、カルタ組の組員が手に手に武器を携えて現場に到着する。

 もちろん、通報を受けた警察も拳銃で射撃を開始しているが、SAKURA M360Jでは焼け石に水だ。


「兄貴、ジエータイは来てくれねぇんすか?」


 トカレフを撃ちながら泣き言を上げるヤスに、北岡が応じる。


「鳥害獣駆除を目的とした災害派遣の対象に、地球外生命体である可能性の高い黑糖珍珠粉圓母蟲が含まれるかどうかは、国会で審議中だ」

「叔父貴、詳しいっすね」

「北岡の叔父貴は二回懲役喰らってるから、読書家なンだよ!」


 繁谷も説明を加えながら5.56mm軽機関銃M249を連射して、敵の侵攻の阻止に余念がない。

 しかし、決定打がなかった。


 北岡の持ち込んだ69式40毫米反坦克火箭筒でも怯ませることしかできない相手には、有効な攻撃手段がない。




「タピオカは儲かる」


 そう言って縄張り(シマ)が隣の繁谷たちとは対立する東村山会系十三不塔組がタピオカ養殖に手を染めたのは、三日前。

 組員全員が喰われたのが、今日の夕方だ。

 繁谷が事態に気付いたときには、既に手遅れになっていた。


「クソ、もうすぐタイムリミットが……」


 黑糖珍珠粉圓母蟲は、タピオカの親だ。

 つまり、タピオカを産む。

 今も繁岡たちと戦いながら、東京都新宿区歌舞伎町一丁目の路上に垂れ流すように産卵を続けていた。


 これらが、孵化する。

 そうなれば、全てが終わりだ。

 自衛隊のF-2戦闘機が爆撃しても、黑糖珍珠粉圓母蟲に効果があるかどうか分からない。


 いったい、どうすればいいのか……




 その時、不思議なことが起こった!


 これまで一切の攻撃に反応らしい反応を示さなかった黑糖珍珠粉圓母蟲が、恐怖したように立ち竦んだのだ。


「見てあれ! タピオカじゃん!!」


 マックの女子高生だ!


 有名ハンバーガーチェーン店から現れた数十人の女子高生たちは、地面に散らばる無数のタピオカを、手で掬いながら次々と食べていく!


「マジうめぇし。今月、金欠だったんだよねぇ」

「やべぇ、食べ放題じゃん。ミカも呼ぼう!」


 ついには地面に直接口を付けて啜るようにしてタピオカを食べ始める女子高生たち。

 驚き呆れる繁岡たちの目の前で、タピオカがあっという間になくなっていく。


「ね、タピオカの親って、食べれるらしいよ?」

「マジで? 私食べたことない!」


 ついに女子高生たちが黑糖珍珠粉圓母蟲に躍りかかった。

 断末魔を上げる黑糖珍珠粉圓母蟲。


 恐るべき勢いで消滅していく黑糖珍珠粉圓母蟲の声を聞きながら、繁岡は煙草に火をつけた。


「マックの女子高生って、すげぇ」 


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― 新着の感想 ―
女子高生すげえ
[一言] タピオカの親、というパワーワードが表示されたかと思ったら一番パワフルだったのは女子高生だった
[良い点] 女子高生つおい [一言] なぜか今までで一番ブームのタピオカで思い付いたネタを短編にしちまうのが面白いところですね
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