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入学式

日間異世界転生/転移ランキング、1位になっておりました……!

ありがとうございます。

よく寝てしまった。


今日は運命の乙女ゲームスタート、入学式当日だ。眠れるだろうかと心配しながら横になったのに、我ながらたくましくて複雑。

まだ見慣れない寮の自室を見回して、むしろ解せない気持ちになるエカテリーナであった。


「おはようございます、お嬢様」

「おはよう、ミナ」


ミナがカーテンを開けたので、朝日が広々とした寝室へ差し込んできた。

『広々とした』『寝室』。

おわかりだろうか?

エカテリーナが与えられた部屋は、学生寮という概念から大きく外れた代物なのだ。寝室と、さらに広々としたリビング兼書斎の二間あり、さらにお付きメイド用の小部屋と小さな台所まで付いている。

こういう特別室は、三十棟くらいある寮の建物の中でも歴史が古い十棟に一室ずつ用意されているらしい。皇族か公爵家の子息令嬢だけが入れるそうだ。


「朝食ですが、ベッドで召し上がりますか。それとも書斎へお持ちしますか」

「あら、食堂でいただくのではありませんの」

「特別室のお食事は、厨房から昇降機で運ばれてきます」


なんか……身分制度ってすごいというか。同じ生徒にここまで差をつけるのってどうなんだ。前世の名門校っていうとイギリスのイートン校だけど、王族だろうが留学中の日本の皇太子だろうが他の生徒と区別されないとか聞いたような。

でも将来皇帝や皇后になる人、なるかもしれない人なら、毒殺とかの用心も必要だろうし仕方ない……のか?お兄様は部屋でもがっつり仕事してそうだから、これくらいの広さは必要かもだけど。


ゲームで見た寮の部屋はこぢんまりしたワンルームだった。魔法学園の生徒はほとんどが貴族だから相部屋でなくワンルームなんだなー贅沢だなー、と思っていた前世の自分よ、それどころじゃなかったよ。

まあでも、いざとなったら引きこもるのにはぴったりだな!


ベッドで朝食をとって、制服に着替えて(というか着せてもらって。可愛いデザインだけどそれだけに悪役令嬢に似合うかは微妙)、いざ、入学式へ。




ゲームでは、『入学式』はナレーションでゲームの世界観やストーリーを紹介される導入部だった。


実際に入学する今回はもちろんそんなのではなく、日本の入学式テンプレそのものの行事らしい。新入生はいったん寮ごとに集められ、在校生と来賓の拍手の中を講堂に入場し着席する。

公爵令嬢エカテリーナは当然のように最前列に座らされた。やっぱり昨夜よく眠れて良かった、居眠りでもしたら恥ずかしいぞこれ。

オーケストラボックス(講堂にそんなのあるんかい!)の楽士たちが荘厳な音楽(国歌的なやつ?)を奏でたり、校長来賓が訓辞祝辞を述べたりした後、在校生代表の歓迎の言葉になったのだが。


「在校生代表、アレクセイ・ユールノヴァ公爵閣下」


なっにー⁉︎


(こういうのって生徒会長とかがやるんじゃないの⁉︎なんでお兄様⁉︎一番身分が高くて成績が首席だから⁉︎生徒会長が風邪引いて代役とか⁉︎

そして生徒に爵位や敬称付けて呼んじゃうんだ⁉︎)


アレクセイが壇上に現れる。


(きゃーっ!お兄様かっこいい!)

兄の制服姿を見るのは初めてで、思わずテンション上がるエカテリーナであった。


ゲームの画面ではいつも制服だったけど、同じ世界に生まれ変わって見るのはわけが違う。魔法学園の男子の制服はブレザーながらかっちりとした軍服(装飾も多いから軍礼装?)めいたデザインで、片眼鏡を着けたアレクセイの一見Sっぽい雰囲気によく合っていた。

あらためて背が高い。足長い。先に話をした校長や来賓と比べると、スタイルの良さがはっきりわかる。


お兄様、実は細マッチョだしね!

この世界の貴族男子は乗馬や剣術の習得がマストで、朝稽古では長剣の一閃で的を両断したりもする、胸板やら肩幅やらしっかり筋肉がついた美しい体型なんだよね!

背筋の伸びた姿勢の良さも素敵!


無表情な白皙の美貌に、学生とは思えない威厳を漂わせ、アレクセイは無造作に演壇に歩み寄る。その動きに、講堂の全ての人間が視線を吸い寄せられているのがわかる。


演壇の前に立つと、アレクセイはゆっくりと講堂の端から端まで見渡していった。遠くからでも水色の瞳の色が見て取れる、自ら光を放つようなパライバトルマリンの視線。もともとうるさくはなかった生徒たちだが、気圧されたようにさらに静まり返って、講堂にこの日一番の静寂が落ちる。

そこで、アレクセイはおもむろに口を開いた。


「新入生諸君ーーー」


低い響きの良い声が、講堂を満たす。

内容はこういう場合のテンプレで、栄えある皇国魔法学園の一員として諸君を歓迎する、みたいな話だが、話し方になんとも重みがあった。

有能。なんて有能なんですかお兄様。


長すぎず短すぎずでスピーチを終え、拍手の中アレクセイは演壇を離れ戻ってゆく。

この時になって彼がちらりとこちらを見たので、エカテリーナはこっそり手を振った。

一瞬、アレクセイが微笑んだ。

すぐに消えたがその瞬間だけ、無表情が一変して優しい笑顔になっていた。


きゃーっ!ギャップ萌えキター!


「きゃーっ!」

(どよっ)


はっ!心の声がダダ漏れに!

って違うぞ。なんか後ろの方から聞こえたけど?どよっ、とかどよめいてたし。後ろで何か起きたのかな?


などと思っていたところへ、進行役の声が響き渡った。


「新入生代表、ミハイル・ユールグラン皇子殿下」


ひー⁉︎

在校生代表が公爵で、新入生代表が皇子かよ!なんというノーブルvsロイヤル。入学式がノーブルvsロイヤルて。


「きゃーっ!」


今度はあきらかな歓声の中、ミハイル皇子が壇上に現れた。


夏空のように青い髪、青い瞳。凛としつつも、優しさと快活さを感じる甘い顔立ち。すでに身長は高い方だが、まだ育ちきらないしなやかな身体つき。

全校生徒を前に演壇に立っても、緊張した様子もないのはさすがとしか言いようがない。


ふっ、とエカテリーナは微笑んだ。


(ないわー……あー、良かった)


確かにさすがの美形。超イケメンだ。冷たい印象のアレクセイよりも、ミハイルを選ぶ女子は多いだろう。


でもね!前世でアラサーだった身からすると、十五歳はムリ!

好きなタイプはできる男だし!

今は自分も十五歳でも、あんな可愛いお子様相手に、恋愛感情なんかピクリとも動きませんわ!


お兄様は外見も二十代に見えるし精神的にも落ち着いてるから、心置きなくきゃーきゃー言えるけど、年相応なお子様相手に恋愛フラグは立つどころか、沈む。沈んでどっか消える。

皇子に会ったら好きになっちゃって暴走しないか、少しだけ心配しなくもなかったけど、ないないないわー。良かったわー。


アレクセイの時には静まり返っていた講堂は、今はうるさくはないがどこかきゃわきゃわと浮き立っている。女子のほとんどが一網打尽にファンになったのではあるまいか。登場前に歓声が上がったくらいだし。


いやでも、一回目はタイミング的にやっぱりおかしいな。お兄様への反応だったりして?実は隠れファンがいるのかしらん。お兄様も超イケメンだし、身分高いし、むしろ当然か。


うん。超イケメン、成績は首席、国内トップクラスに身分高くてめっちゃお金持ち。


さらに……両親(つまり姑舅)も難物のクソババア(大姑)もすでにいないのも、結婚相手として見るとむしろ高評価……。

身分は皇子には負けるけど、ゆくゆくは皇后というプレッシャー大きそうな立場より、公爵夫人の方がいいって女子も多いんじゃ……?


こ、これは。

お兄様ーーーなんという優良物件!(婚活市場的な意味で)


間違いない、あれはお兄様狙いの女子の反応!

いけない、お兄様を守らなくちゃ!


……って待て自分。

自分、妹だから。

お兄様いずれ結婚するんだから。

何か困っているならともかく、近寄る女子をやみくもに追い払ったりしたら、かえって迷惑じゃない?


はっ!姑も大姑も舅もいないけど、そういえば自分が小姑やん!

兄嫁になる人を邪魔者みたいにしたら、小姑による嫁いびりになってしまう!


うわーん、辛いけど見守らなきゃ。お兄様を幸せにしてくれるような、性格の優しい人と結婚するようにサポートだけはしたいけど……。たぶん家と家との結婚だろうから、妹が何か言っても相手にされないんじゃ?


……って再び待て自分。

お兄様ほどの立場なら、とっくに婚約者決まってても不思議はないぞ。

わざわざ訊いたことないから教えてもらってないだけで、いつ誰と結婚するか全部決まってる可能性も!あるよ、ある!

だったらどうしよう。確かめなきゃーーー。


周囲から拍手が聞こえて、エカテリーナは我に返った。

皇子の話が終わっていた。


あ……皇子の話、一言たりとも聞いちゃいなかったわ。

皇子、なんかすまん。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 帝室で「皇子」ならロイヤルではなくインペリアルでは?
2022/06/08 16:37 退会済み
管理
[良い点] ないないないわー 良かったわー からの、なんかすまん 皇子に対して不敬過ぎてすこすこのすこ
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