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試験が終わっておりまして

「フローラ様、お急ぎになって」

「はい、エカテリーナ様。でも、そんなに急がなくても」


令嬢として可能な限りの早歩きで玄関ホールへの廊下を進むエカテリーナに、付き合いながらフローラは笑っている。


「初めての試験結果ですもの。気になりますの」

「貼り出されるくらい、良い点が取れているといいですね」

「フローラ様なら大丈夫ですわ!」


そう、本日は学園に入学して初めての試験結果が発表される日。乙女ゲームの大事なイベント。

うまくいっていれば、フローラちゃんが一位、皇子が二位のはず。これで皇子からのロックオンが完了して、いろいろちょっかいをかけられたり、のちの舞踏会でパートナーとして誘われたりする、はず。

……なんかもう公爵家のほうのイベントがインパクトありすぎて、乙女ゲームのイベントが頭から飛びそうなんですけどね……。でも公爵家の皆さんのためにも、破滅フラグは絶対回避だー!


「答え合わせでエカテリーナ様とほとんどの解答が同じでしたから、きっと似た結果ですね」

「そうでしたら嬉しゅうございますわ」


魔法学園では、試験成績の上位十名までが、発表日の放課後に名前と順位を玄関ホールに貼り出される。フローラちゃんの言う通り、試験の解答を二人で答え合わせしてみたら、ほんのちょっと違うだけだった。だから、私もけっこう成績いいかもしれない。お兄様に喜んでもらえるかも!

そんな気持ちもあって、エカテリーナの早足は止まらない。


玄関ホールに着いてみると、試験結果はすでに貼り出されており、一団の生徒たちがそれを囲んでざわついていた。

これを「おどきあそばせ!」とか言って蹴散らしたらすごく悪役令嬢だな。とか思いつつ、エカテリーナはフローラと共に生徒たちの後ろにつく。

と、二人に気付いた生徒たちが、お互いをつつきあって間をあけてくれた。


「まあ、おそれいりますわ。ありがとう存じます」


ありがたく入れてもらって、どきどきしながら一年生の名前を見る。フローラちゃんは一位だろうか。


……ん?


「エカテリーナ様!おめでとうございます」


はしゃいだ声を上げて、フローラはエカテリーナに抱きついた。


いや待て。ちょっと待って。なんか変なもんが見えてる。

十位から見直していく。知らない名前が並んでいる。

三位まできて知っている名前にたどり着いた。


三位。ミハイル・ユールグラン。


二位。フローラ・チェルニー。


一位。エカテリーナ・ユールノヴァ。


……。


思わずエカテリーナは脳内に、幻の相方を召喚した。ずびし!と伝統的ツッコミで相方の胸に裏拳を入れる。


なんでやねん!


ツッコミで裏拳っていいのか。

いやそこじゃなく。

私が一位っておかしいだろ。前日に皇室御一家の行幸をお迎えしてたんだよ?

終わった後、学園の寮に戻ったとたんまた疲れが出て、試験準備なんかゼロで爆睡しちゃったんだよ?

前日だけじゃなく、行幸までの土日は準備で潰れてたし、平日だってついついあっちに気を取られて勉強に集中できないことあったし。

それでもフローラちゃんと解答が近くて、それだけでも自分すげえとか思ってたのにーーー。


はっ!これはもしや!


「フローラ様。職員室へ抗議にまいりましょう」

「えっ?抗議、ですか。なぜでしょう」

「わたくしがフローラ様より上の順位など、おかしいですわ。これは、身分についての不適切な操作がなされたためと考えられますの。このようなこと、あってはなりません。正すべきですわ」


思わず握り拳になったエカテリーナに、フローラは満開の花のように笑った。


「落ち着いてくださいエカテリーナ様。操作があったはずはありません」

「いえ!それしか考えられませんわ」

「でしたら私が二位のはずがありません。だって、三位が」


あ。

三位は皇子。私より上の身分。

そ、そうか。先生方すみません、濡れ衣を着せました。

あれ?


ってマジで私が一位⁉︎


…………。


あああやらかしたー‼︎


頭を抱えてうずくまりそうになる自分を、エカテリーナは必死でとめる。


だだだだって!普通の貴族は五歳から教育を受けるっていうから、やべえブッチギリの最下位になっちゃう!って危機感ハンパなかったから!必死こいて全力で勉強してきたんだけど!

……今回、定期テストだから出題範囲が限られてるわけで、入学してから今までに授業で習った範囲内なら、追い付けるっつー話だわ。

教科によっちゃ前世の記憶で周りの子達より先行してたんだわ私。

そして自慢じゃないけど、エカテリーナはお兄様の妹な訳で。記憶力やら理解力やら、ポテンシャル高かったつーことだ!


わかってなかったよ!一緒に勉強してるフローラちゃんも似たようなレベルだったし!でも思えばフローラちゃんこそ、前世ボーナスも幼少期からの英才教育もなく一位が取れるはずだった、ポテンシャルの塊だった……。


やべえやらかした!どうしようどうしたらいい⁉︎

いやでもフローラちゃんも皇子より上の順位だし!かろうじてセーフ⁉︎セーフだよね⁉︎うわーん!


「エカテリーナ、フローラ、おめでとう」


ぎゃー、出たーっ!


内心絶叫しつつ、エカテリーナは振り返る。もちろんそこには、皇子がいる。


ああっ、すまん!

皇子、正直すまんかった!気を悪くせんといて!


ビビりまくるエカテリーナ。

しかし皇子は、エカテリーナとフローラに穏やかな笑顔を向けた。


「二人とも素晴らしいよ。特にフローラ、慣れない教科もあっただろうに、これほどの結果を出すなんてすごいね」


あ、フローラちゃんを褒めた。よかったセーフだよかったー!


安心のあまり、キラッキラの笑顔で皇子とフローラを見比べるエカテリーナであった。

フローラは慎ましやかに首を振る。


「慣れないからこそやらざるを得なかっただけですから、褒めていただくほどのことではないんです。それに」


悪戯っぽい笑顔になって、フローラはエカテリーナの腕に腕をからめる。

おおう、可愛い。


「エカテリーナ様が毎日寮のお部屋へ呼んでくださって、一緒に授業の予習復習をしているんです。こんな成績が出せたのは、そのおかげです」

「学年一位と二位の勉強会か。それは有意義だね」


笑顔で言った皇子はしかし、順位表へ目をやってふっと嘆息した。


「……恥じ入るね」


すまん。前世ボーナスなんていうズルみたいなもんで君の順位を下げてしまって、ほんとすまん。


でも君は、偉いよ。

お兄様ほどじゃなくても、忙しいよね。公爵家に来たのも皇室の行事のうちだし、学生でありながら他にも役目を担っていることがいろいろあるはず。それでも、当然自分がトップ取らなければと思ってるんだよね。

皇子だからね。それこそ幼少の頃から最高の教師がついて、英才教育を受けてきただろう。それなのに、ぽっと出の女子二人に上を取られて三位になっちゃって。並みの十五歳なら、不機嫌になってあたりまえ。不貞腐れたり、いちゃもんつけてきたりしても無理はない。

にもかかわらず、この大人な対応。さすがロイヤルプリンス。

いや、ロイヤルプリンスだからこそ偉いのかもしれない。ちやほやされて、鼻持ちならない勘違い野郎になる危険性が高い立場だもの。皇室ほどの身分ではない、その辺の貴族にそういうのがけっこういるくらいだ。フローラちゃんを差別してきた連中とかね。でも、皇子はフローラちゃんにも最初から優しかったもんなあ。


きっと、次回は本腰入れて来るんだろうな。最高の教育を受けてきた、トップをとって当然の立場に生まれた者として。三位になった自分を恥じるほど、その立場に逃げも隠れもなく向き合ってきたこのプリンスに、ちょっと勝てる気しないや。


あ……この、ナチュラルにノブレス・オブリージュが身に染み付いているところ、お兄様と同じだ。全然似てないようで、近い立場だけあってやっぱり似てるもんだなあ。


「ミハイル様は、重いお立場にしっかりと向き合っておられて、ご立派ですわ」


エカテリーナが言うと、ミハイルは少し複雑そうに微笑んだ。


うん、君は本当にいい子だ。

だから、遠慮なくヒロイン・フローラちゃんに攻略されて、とっとと幸せになってくれたまえ!

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― 新着の感想 ―
[一言] 某ゲームの隠しアイテムで電光の指差棒というのがありました(ビシッ、ビリビリ)。
[一言] 確かに貴族は五歳から……ではあるのだろう。 しかしフル装備で戦場駆ける前提の貴族の教育なんて教科時間の半分が体育とマナーのはず。 例え女子でも音楽、家庭科、ダンスが代わりに入るわけで。 そ…
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