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後半、ルカ視点となります。ご容赦ください。





「あらためて、僕から申し込むよ。フローラ、舞踏会での僕のパートナーをお願いしたい」


はっきりとミハイルが言い、エカテリーナは目を見張った。


「エカテリーナの言う通り、君に申し込みたい男子は大勢いると思う。彼らには恨まれてしまうだろうな。でも、正直言ってありがたい申し出なんだ。僕は確かに……相手の立場を考えて、慎重になるべき時がある」


その言葉に、やっぱりとエカテリーナはうなずく。


「でも君は、ユールノヴァの庇護下にあるからね。アレクセイを怒らせる愚か者は、この学園にはそういない。それに君は、貴重な聖の魔力を持つ聖女でもある。歴史ある名家ほどそういう存在を重んじるから、僕のパートナーになってもらったからといって、君に迷惑がかかることは無いと思う。無いようにする」


ミハイルの最後の一言には、ずしりとした重みがあった。が、すぐに彼はにこりと笑う。


「君たちと一緒に今だけの催しを楽しむことができるなら、僕もそのほうが嬉しいよ」

「ありがとうございます。光栄です」


フローラが頭を下げた。


ミハイルとフローラのやりとりを見守ったエカテリーナは、懸念を吹っ切るように大きな笑顔になる。


「そうですわね、人生にたった三回しかない機会ですもの。誰も欠けることなく楽しみとうございます。当日はぜひ、皆で仲良く、楽しいひとときを過ごしましょう」


うむ!

高校時代の楽しい思い出は、宝物。自分の立場をしっかり考えている皇子は偉いけど、大人の事情で参加を遠慮なんて、やっぱり悲しい。


ユールノヴァでの歓迎の宴では、主賓である皇子は自分の役割を果たすのに忙しくて、あまり話もできなかった。楽しんでもらえたか、ちょっと自信がない。でも学園の舞踏会なら、皇子も生徒の一人として、楽しむことができるはず。

フローラちゃんのパートナーがどうなるかちょっと心配していたこともあるし、皇子とフローラちゃん、気心の知れた二人が一緒に参加してくれるのは、ある意味では安心。これはこれで、いい形になったのかもしれない。


そしてエカテリーナは、あらためて心で拳を握っている。

フローラちゃんは私が守ります!


……守るために何をすべきか、考えないと。

公爵令嬢だからただくっついていれば守れる、だけではそろそろ、駄目な気がするから。


皇子はそういうの、ちゃんと解っているんだろうな。偉いなあ。

って、勝手に解っているって決め込んではいかんやろ。なんだか私、最近、皇子をなんでも出来る人みたいに思い始めてるかも。

いかん。皇子もまだ十六歳なんだから。アラサーとして、友達として、一人の少年である彼を見守ってあげなければ。


子供のくせに立派すぎるんだよ、君は。

少しは高校生男子っぽい隙とか、しょうもないところも見せてみなさい。お姉さんはどーんと受け止めてみせるぞ!


などと思うエカテリーナはもちろん、ついさっきフリーズしたことを、忘れ去っているのだった。




それから程なく、エカテリーナとフローラ、ミハイルの集まりは解散となり、三人は寮へと戻っていった。


寮の特別室へ戻ったミハイルは、無言だ。

そんな主君に合わせるように沈黙したまま、ルカは手早く着替えを用意した。しかし室内着を差し出しても、ミハイルは気付く様子すらなく、もの思いにふけったままでいる。

とうとう、ルカは声をかけた。


「エカテリーナ様が、美味しいと仰せでしたね。頑張った甲斐があったのでは」

「ああ」


我に返ったミハイルが、ぎこちなく微笑する。


「お前には、ずいぶん厄介をかけた」


なにしろ山ほど試作をしたのだ。

この特別室には、飲み物を淹れたり軽食を作ったりできる、小さなキッチンが付いている。学園祭が終わってからも、エカテリーナとフローラに出して恥ずかしくない、むしろ感心されるくらいのものを作りたいと、ミハイルはここで涙ぐましい努力を重ねたのだった。

その試作品の大半は、ルカの胃におさまったのだったりする。細目……はともかく、細身のルカの体形が少しも変わりないのが、不思議なほどだった。


「役得というものですよ。また機会があれば喜んで」


けろりとルカは言う。ようやく、ミハイルは笑った。


「エカテリーナはきっと今年はアレクセイと、と言うだろうと思っていた。来年の約束ができたんだから、最善だ」

「はい」


ルカはうなずく。


が、そこで突然ミハイルは身を翻して、食卓の椅子に座った。

そして、テーブルに突っ伏した。


「でも、『はい』って言ってほしかった……」


『エカテリーナ……その、来月の、舞踏会なんだけど。

僕と一緒に参加してくれないかな。

君と参加したい……僕の、パートナーになってほしいんだ』


「もっと格好良く言う予定だったのに。言えるはずだったのに……用意していた言葉が、どこかへ飛んで行ってしまったんだ。うまく言えていたら……いや、結果は変わらなかっただろうってわかってる。けど、格好悪いと思われただろうな。ああ、やり直したい」


うじうじと、言わずにいられない様子でミハイルは言い続けている。

ルカは、ほのかに微笑んだ。幼い頃にはわがままなところもあったと聞くこの主君だが、ルカが仕えるようになった頃には、誰がどこから見ても非の打ちどころのない皇帝の後継者だった。

だから、こんな姿は貴重だ。


よく覚えておいて、将来この方が玉座に即かれたのちに、持ち出して揶揄って差し上げよう。


などと、ルカは人の悪いことを考えている。

けれどもそれは、出来の良すぎる主君がかえって心配だからだ。人間らしい接し方ができる相手が、この方には必要ではないかと、前から思っていた。


あの美しい公爵令嬢は、浮世離れしているようでいて、人間らしい思いやりに満ちているように思える。

そして、どうやらとてつもなくニブい。見聞きしていると時々笑えてくるほどに。


身分も何もかも主君とは釣り合いが取れているのに、追い求めても手が届かないというこの状況を、ルカは面白がる気満々でいた。

最後にはきっと、殿下の望みは叶うだろう。ルカにはそうとしか思えないから、面白がっていられる。


けれど駄目だったら……それはそれで面白い。もとい、いい経験になるに違いない。この主君を一回り大きくしてくれるような。


「甘いものより、食事になるもののほうがお喜びになったかもしれませんよ。料理が好きになったと言って、これからも作ってお誘いになっては?一緒に食事ができますよ」

「それ、お前が食べたいから言っているだけだろう」


従僕を睨んで、ミハイルはとうとうむくれた。


格好をつけるより、こういう表情をもっと見せたほうが、あの令嬢には効果があるかもしれない。


けれどそれを口にはせず、ルカはただ、糸のように細い目をいっそう細めて笑った。




次回更新ですが、一回お休みとさせてください。

上期末が近付いて繁忙期な上、職場で自宅待機が続出して、てんてこ舞いなのです……。


皆様、なにとぞご自愛ください。

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― 新着の感想 ―
お兄さまが至高ですが、皇子もがんばれー!! お兄さまと皇子がエカテリーナちゃんの気がつかないところで火花バチバチしてるの楽しいです!
[良い点] 恋に悩むわんこが可愛い。二人の距離がもっと近づいてニヤニヤしたいです! [一言] エカテリーナが無自覚な分、皇子の気持ちがはっきり描かれてキュンとしてとても好きです。
[良い点] 最近書籍を買い始めて熱烈にハマっています。 [一言] エカテリーナが結ばれるなら皇子であって欲しい。そら至高は兄ですが、兄やし‥(泣)。兄以外でエカテリーナを嫁に出せるならわんこしかいない…
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