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イベントクリアと誓言

実習場に、しんと静寂が落ちた。


ふらりとフローラの身体が揺れ、エカテリーナはあわてて後ろから抱きとめる。しかしこちらも足に力が入らず、二人共にへなへなと座り込むことになった。


半泣きで、ガクガク震えながら、エカテリーナはフローラを抱きしめる。



ありがとう、ありがとう。

あんな怖い奴の前に出て、庇ってくれるなんて。

フローラちゃん、なんて勇敢なんだ。

あなただって、怖かったろうに。

すごいよ。

やっぱり、ヒロインてすごいよ。



「フ、フ、フローラ様、お、お身体は、大丈夫?」


カミカミで、エカテリーナはフローラを気遣う。



「大丈夫……です」


ため息のように答えて、フローラは自分に回されたエカテリーナの腕に、そっと手を重ねた。


「エカテリーナ様こそ、お怪我はありませんか」

「わ、わたくしは、大丈夫……」


そう返してから、エカテリーナはフローラから初めて名前を呼ばれたことに気付く。


そこへ、


「エカテリーナ!」


駆け寄ったアレクセイが妹の肩に触れた。


「お兄様ーっ!」


振り返りざま、エカテリーナは兄の腕の中に飛び込んだ。



わあああん、怖かったよーっ‼︎


子供のように声を上げて泣き出した妹を、アレクセイは加減も忘れて力の限り抱きしめた。


「エカテリーナ……エカテリーナ」


痛い。身体が軋むくらい痛いけど、今はそれが嬉しい。

痛いよー生きてるよー!


アラサーでも社畜でも怖いもんは怖いよ、もう死ぬんだと思ったよ!

前世でシステム障害起きて、あと三時間以内に復旧させないと数十億の賠償請求されるって言われて、手が震えて動悸すごくて死ぬかと思ったことあったけど。あれだって、本当に死ぬわけじゃなかったもん!

あの牙!

思い出しても怖いよ、怖かったよーっ‼︎



掠れる声で妹の名を繰り返していたアレクセイは、エカテリーナが小さく呻くのを聞いて我に返り、ようやく腕を緩めた。


「すまない、苦しかったか」


兄にしがみついたまま、エカテリーナは首を振る。


「お兄様、ありがとう……来て、くださって……ありがとう……」


ぐすぐす鼻を鳴らしながら、やっとのことでエカテリーナが言うと、アレクセイは妹を抱く腕に少しだけ力を込め直し、囁いた。



「お前の為なら、何処へでも行く。地獄へだろうと助けに行く。必ず」



…………………………………………………………きゅう。



死んだ!あらゆる要素に萌え死んだ!


抱きしめられて!耳元で!囁かれましたよ、お兄様の素敵ボイスで!

声が切なげに掠れてたせいで効果倍増!ブラコンゆえにさらに倍!

言葉がまた、J-POPの歌詞ですかそれもアニメの主題歌に採用されるやつですかと!でもこれが何一つ格好つけているわけでなく、本気で思ってることをできるだけ的確に表明してるだけという!

なにより、言葉の通り生命の危険も顧みず、本当に駆けつけてくれたんだから!


もうダメ、妹はどこにもお嫁に行けません!お兄様責任とってー!


ってアホなこと言ってんじゃない自分。

しっかし萌え死んだらかえって足に力が入るようになったよ。萌えって生命力だな!



「お兄様……フローラ様が、助けてくださいましたの」


まだ立てないままのフローラが、微笑んで二人を見上げているのに気付いてエカテリーナは言った。


頷いて、アレクセイは妹を抱く腕を解く。

そして、フローラの前に片膝を突き、彼女の手を取った。


「フローラ・チェルニー嬢」


うやうやしく呼びかけて、その手を押し戴くようにこうべを垂れる。



美少女にひざまずく美青年!

なんという眼福!まさに一幅の絵画!



内心でエカテリーナは大盛り上がりだ。


「我が妹を救ってくれた貴女の勇気に、心から感謝する。そしてあらためて、先日の私の非礼をお詫びしたい。私が愚かだった」

「そんな」


目を丸くして、フローラは首を横に振る。しかしアレクセイは言葉を続けた。


「当家ユールノヴァは貴女に、決して返せぬ恩義を受けた。よって、この誓言を受けていただきたい」



誓言!

確か、ゲームで皇子もやってた!



「我、アレクセイはユールノヴァの当主として、フローラ・チェルニーをユールノヴァの友と定める。ユールノヴァの名に連なる者はことごとく、友の幸いを己れの幸いとして歓び、友の敵を己れの敵として戦う。

貴女の敵は我が敵、貴女の歓びは我が歓び。

かくのごとく、当主アレクセイがここに誓言する」



わあ……。

建国期の名残りっぽい、戦国チックな言い回しに歴女の血が騒ぐわー。



「公爵閣下……!どうか、お気になさらないでください。エカテリーナ様に、返せないくらいの恩があるのは私の方です。私なんかに膝をつかないで」

「誓言を受けていただけるまで、立つことは出来ない。誓言とは、そういうものだから」


首を振るフローラに、アレクセイは穏やかに言う。その穏やかさがかえって、梃子でも動かせない揺るぎなさを感じさせる。


「わ、わかりました。お受けします。だから、どうか立って。立ってください」


困り果てた様子でフローラが言うと、アレクセイは微かに笑った。そして立ち上がると、フローラの手をそっと引く。

目を見開きながらも、フローラはアレクセイの手にすがり、ゆっくりと立ち上がった。



ああ、お兄様素敵!ほんとに絵になる美男美少女!


しかし……これって……。

フラグ?

なのかなあ。どうなんだろう……。


ヒロインがお兄様を攻略できるルートはなかったはずなのに。でも、ゲームではお兄様はこのイベントには現れなかったなあ。ゲームと違ってこうして駆け付けてくれたから、新たなルートが生まれたとか?

リアルの恋愛は黒歴史しかない残念女だったんで、ゲームの流れから逸れてしまってはお手上げです。


もしそうなら、お兄様の為には嬉しいけどやっぱり寂しいなあ……。お兄様の妹に生まれ変われて幸せだけど。せめて、前世のゲームでお兄様を攻略してみたかったなー。

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