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火花

エカテリーナは、エリザヴェータににっこりと笑いかけ、淑女の礼をとった。


「お初にお目もじいたします」


エリザヴェータはさっと表情を引き締め、淑女の礼を返す。


「お会いできて嬉しゅう存じます」


さすが、十歳にして動きの隅々まで美しい。

けれど淑やかな中にも少しわくわくしているように見えるのは、子供扱いされなかったのが嬉しいのかもしれない。


「ご健康が優れなかったと、聞き及んでおりますわ。もう、お元気になられましたの?」


エリザヴェータが言う。さすが、十歳にして典雅な言葉遣い。幼い声とのギャップが、また可愛い。


「もともと、やまいというほどではございませんでしたの。すっかり元気ですわ」


エカテリーナが答え、これで公爵令嬢同士が引き合わされた時の礼儀正しい受け答えは、ひと区切りとなった。


エリザヴェータは、ほんのり頬を染めてミハイルを見上げる。両手がそわそわと動いてぎゅっとスカートを握り、大きな目をこぼれ落ちそうなほど見開いて、話しかけようとしているのに言葉を見つけられずにいるようだ。


これは可愛い。


ユールマグナ家に対しては思うところは多々あれど、十歳の女の子が困った様子でいたら、助ける以外の選択肢はないだろう。人として。

思わずミハイルをジト目で見て、早く君から話しかけてあげて!と圧をかけてしまうエカテリーナであった。


「久しぶりだね。学園に入学してから、忙しくてなかなか会えなかった」


苦笑まじりに、圧に屈するミハイルである。

話しかけられて、ぱあ、とエリザヴェータの顔が輝いた。


「はい……寂しゅうございました」

「ウラジーミルも寮生活だものね」


そんな会話をよしよしと聞きながら、エカテリーナは慎ましやかに控えていたフローラに、そっと囁く。


「フローラ様、わたくし、教室に着くのが遅くなるやもしれませんわ。お三方とご一緒に、先に向かっていただけまして?展示の準備を進めてくださるよう、マリーナ様にお伝えくださいまし」

「……わかりました」


気がかりそうな表情ながら、フローラはうなずく。


「エカテリーナ様、お疲れでしたら公爵閣下がおっしゃった通り、寮でお休みになってください」

「お気遣いありがとう存じますわ」


フローラちゃんまで過保護に……いや前から優しいけども。

ともあれフローラはユーリたちと一緒にそっと離れてゆき、この場には皇子ミハイルと、ユールノヴァ公爵家の関係者、そしてエリザヴェータという図になった。




同じ三大公爵家の一角であり、ユールノヴァ公爵家の宿敵とも言える、ユールマグナ家の令嬢。

ウラジーミルの妹。


そうと知った時、エカテリーナはまず不思議に思った。エリザヴェータが一人のようだったので。

公爵令嬢たるもの、一人で出歩くはずはない。しかも彼女はまだ十歳、乳母がついて歩いていてもそうおかしくはない年齢だ。

なんなら前世でさえ、高校の文化祭に小学生女子が一人で来ていたら、不思議な感じがしただろう。


周囲を見回す。エリザヴェータの側仕えらしき人間は見当たらない。

が、やけに人が多いので、まぎれてしまっているのかもしれない。ここは講堂の裏手にあたる場所で、普段は人気ひとけがないのに、気が付くと不思議なほど大勢の人がたむろしていた。


魔法学園の学園祭って、こんなに大勢の人が来るものなんだなあ……。ここがこの状態だったら、模擬店が並んでいるあたりなんて大混雑なんじゃないの?


などと思っている本人こそが、この場所に多くの人がやって来た理由なのだが。

もともと噂の公爵令嬢の劇を目当てに講堂に来ていた人々が、思いがけず本人が劇に登場したこと、劇の画期的な演出や見事な歌と演技にすっかり感動したことで、もっと彼女を見たい、あわよくば話をしたい、と思ってここへ来ている。彼らのほとんどが魔法学園の卒業生だから、終演後の流れは見当がつくのだ。


さらに、皇子ミハイルもここに向かったのを、目撃した人々がいた。次代の皇后最有力候補と言われるエカテリーナ・ユールノヴァ。その噂は事実なのか?彼女と皇子の関係を、見定めることができるかもしれない。

貴族たちの生き残りをかけた情報収集と、貴族も人の子であるがゆえの野次馬精神。その両方により、彼らはここに詰めかけているのだった。


エリザヴェータちゃん、まさか迷子じゃないよね?そういえばお兄さんのウラジーミル君も、お兄様と初めて会った時、迷子になっていたと聞いたような。


そんな気持ちで、エカテリーナは思わず傍らの兄を見上げる。

アレクセイは、エリザヴェータを見てはいなかった。

周囲にたむろする人々の中にできた、一人の人物を中心とする大きな一団を見ていた。


エカテリーナも兄の視線を追う。

一団の中心は、遠くからでも目についた。ひときわ背が高い、大柄な壮年の男性だ。身分の高さが知れる見事な仕立ての衣服の上からでも、鍛え上げているのであろう肉体が見て取れる。髪の色は青紫だが、ウラジーミルよりずっと暗い色をしていた。

前世ハリウッドのアクション映画スターにも引けを取らなそうな、堂々たる存在感。他の三大公爵家当主とは系統は違えど劣りはしない、優れた容姿の持ち主だ。


そう、言われずとも解る。あれが、ユールマグナ公爵家当主。ゲオルギー・ユールマグナ。


周囲を囲む人々の言葉に豪快に笑ったゲオルギーが、ふと、こちらを見た。側近たちを従え皇子ミハイルの側近くに立つアレクセイと、一瞬、視線が交錯する。


ユールノヴァとユールマグナ。

薔薇と水仙。青き花の紋章を戴く皇国きっての名家を率いる、二人の公爵。


――両者の間に、激烈な火花が散ったようだった。




このあとがきの下に、いろいろリンクを貼ってみました。

いろいろ貼れるものがあって嬉しいです……皆様、本当にありがとうございます。

もし興味をひかれるものがありましたら、リンク先をご覧いただければ幸いです。


なおこのリンクは「割烹エディター」というツールを使わせていただいて作成しました。HTMLやCSSに慣れていなくて、文字の色指定とかに手間取っていたのですが、そのツールで超簡単に作成できました。小説家になろうで活動されている方が、活動報告などで使えるようにと作成して公開してくださっているものです。ありがたい!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 自分としては流石お兄様!派なので、ミハイル君はどうでもいいなーと思ってしまったり(失敬) [一言] やはり個人としてはエリザヴェータはまだまだ子供らしさがありますね、姪っ子を見ているような…
[一言] お兄様頑張って!負けないで!
[一言] こ、怖い! マグナとノヴァの争いが怖い! セインは穏やかというか影が薄いというか(⟵失礼) あ、でもイケメンさんだどいう兄弟は気になってますよ??
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