表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢、ブラコンにジョブチェンジします  作者: 浜千鳥


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

212/357

先帝と悪役令嬢

オリガとレナートのことを気にして舞台を振り返るエカテリーナに、皇太后が微笑む。


「音楽神様は『今一度』と仰せでした。あの者たちだけでなく、そなたのあの曲もお気に召したのでしょう。曲をお聞かせすれば、ここへ帰してくださいますよ。ずっとあの二人をお側に置かれるおつもりではないはず」

「お教えありがとう存じますわ、安心いたしました」


経験者は語る、であるから、間違いないだろう。ほっとして、エカテリーナは皇太后に笑顔を返した。


「よい曲でした。旋律も歌詞も奥深く、味わい深い。そなたの才能も素晴らしいと思いますよ」


あああ。

私の才能とかでは全然ないんですうう!


「い、いえ。実は、セレザール様にいろいろ直していただいたのですわ。わたくしの才能などでは……」


おほほ、と笑ってごまかすエカテリーナに温かい視線を注いだ皇太后は、ふと表情をあらためる。


「エカテリーナ……あの娘、オリガといいましたか。あの者の縁者に、イリーナという名前の者はおりませんか」


思いがけない言葉に、エカテリーナは目を見張った。首を横に振る。


「申し訳ございません、わたくし、オリガ様のご親戚について、詳しくは存じ上げませんの……」

「そう。突然尋ねて、驚かせてしまいましたね。気にしないでおくれ」




皇太后に従って貴賓席に戻ると、先帝とミハイルが微笑んで迎えてくれた。

しばらく二人きりだったはずだけど、祖父と孫で何の話をしていたんだろう。そう気にしながらも、席につく前にエカテリーナは両陛下とミハイルに礼をとる。


「先ほどお許しも得ず席を離れましたこと、心よりお詫び申し上げます。両陛下の御前でこのような無礼……お恥ずかしい限りにございます」

「よい。リーディヤは皇太后の親族であり、この離宮にもたびたび訪れてくれた娘ゆえ、そなたの対応を嬉しく思っておる。そもそも内輪の席だ、気楽にせよ」


先帝ヴァレンティンが微笑んだ。


「だが、礼儀正しいのはよいことだ。そういうところは、そなたはアレクセイと似ておるのだな」


わーいお兄様と似てるって言われたー!

常時ブラコンのエカテリーナは、あっさり浮かれる。

お兄様、公爵を継承する前は、ここで先帝陛下に時々会っていたのかな。いや、お祖父様が亡くなってからは、基本的にはユールノヴァ領で仕事をしていたはず。お祖父様がまだ生きていた頃に、まだ皇帝だった陛下に会っていたんだろう。

お兄様はその当時から、本当に子供?とか思われるような、大人顔負けな言動をしていたんだろうな。可愛かっただろうなー。ふふ、見たい。


「そなたとアレクセイは、離れて育ったと聞いておるが……」


先帝の声音に、憂わしげな響きが混じる。エカテリーナは思わずミハイルに目をやった。

君、何をお話ししたの?

ミハイルはただ、穏やかに微笑みを返す。

どう応えるか少し悩み、エカテリーナは口を開いた。


「はい、離れて育ちましたので、今は共に暮らすことができて幸せにございます」


無難な返答ができたと思ったが、先帝は沈黙している。と、深いため息をついた。


「最後にアレクサンドルに会うた時、義兄セルゲイ亡き今そなたが妻子をしかと守るようにと、申し付けたのであったが……余は、ユールノヴァの内向きのことには、干渉できなんだ」


その呟きに、エカテリーナは目を見張る。

先帝陛下、お母様と私やお兄様のこと、気にかけてくれていたのか。親父と最後に会った時ということは、譲位してこの離宮へ移る直前のことかな。譲位した後は、公爵である親父と会うことはなかったはずだから。

ほんとにね……親父がその言葉に従っていれば。


お祖父様がご存命のうちは、お母様と私の暮らしはそう悪くはなかった。とはいえお母様は私とずっと公爵領の別邸にいたから、本来は夫と共にいるべき公爵夫人が人前に現れないことは、スキャンダルだったに違いない。

暮らしが本当に悲惨になったのは、お祖父様の没後しばらくしてから。その頃には先帝陛下はここで隠棲していて、有力貴族と会うこともなくなっていたから、そんなことは知るよしもなかっただろう。


そもそも、家庭内での虐待は外部からの干渉が難しい。それは、二十一世紀の日本でも同じだった。お祖父様がご存命の頃に、お母様が親父に見切りをつけていれば変わっていただろうけど……お母様はずっと親父に恋していて、親父から離れようとはしなかったから、誰であろうと助けることはできなかったはず。


一番悪いのは親父より祖母ババアなんですけどね。実の姉があそこまで悪辣な真似をしていたなんて知ったら、陛下はショックを受けちゃうだろうな。

でも先帝陛下は、祖母ババアよりセルゲイお祖父様の方を慕っていたみたいだった。お祖父様が亡くなってすぐ、お祖父様の愛馬ゼフィロスが殺され、それを反省する様子もなかった祖母ババア……退位後はほとんど交渉がなかったのかも。


「陛下にそのようにお気に留めていただき、恐悦至極に存じます。……わたくしは今は、本当に幸せでございますわ」


先帝はうなずいた。


「優しい娘だ。今度こたびの訪問も、友人のためであったな。才能ある人間を見出し育てることを楽しむ姿、義兄セルゲイによく似ておる。懐かしいことだ……これからも、いつなりと訪ねて来てもらいたい。セルゲイに代わって、余がそなたの幸せを願っていることを、心に留めておくがよい」

「温かいお言葉、ありがとう存じます」


頭を下げて、エカテリーナはちらりとミハイルに目をやった。

君、陛下に何を話したの?君は本当に聡いから、ユールノヴァ領で思った以上にいろいろ気付いちゃってたのかな。


エカテリーナと目を合わせたミハイルが、小声で言った。


「さっき……君が行ってしまうかと思った。怖かったよ」


……。

……。

……。

ななな、なんだろう、この感じ。

はっ!そうか、そりゃそうだ!私がここから突然消えたりしたら、シスコンお兄様がどんな暴発をすることか!そりゃ怖いよね!


何かから全力で目をそらすエカテリーナである。まあアレクセイの暴発は、かなり確度が高いと言えるが。

ともあれエカテリーナは言葉を返すこともできず、ひたすらおろおろと目を泳がせている。

ミハイルはそんなエカテリーナを、苦笑しつつも優しく見ている。


そして孫世代のそんなやりとりを、先帝と皇太后がほのぼのとしたまなざしで見守っていたのだった。




着替えを終えたリーディヤが戻って来た時には、エカテリーナはなにやらほっとしてしまった。

皇太后の昔の服を借りたそうだが、シンプルで上質なドレスは、先ほどまで着ていたものよりリーディヤに似合っているようだ。


「わたくしの若い頃を見るようだこと。リーディヤ、その衣装はそなたにあげましょうね」


皇太后は優しく言った。

リーディヤのほうは、賜り物の礼を言い先程取り乱したことを詫びて席に着いた後は、伏し目がちで人形のようにおとなしくしている。ただ時々、ちらとエカテリーナを盗み見ているようだった。

怒りや憎しみの視線ではなさそうで、エカテリーナは安堵しつつも、どうするか悩む。こちらからリーディヤに声をかけるべきか、なんと言って声をかけるべきか、励ますならやっぱり日めくりカレンダーを召喚するべきか。


アホな方向に思考が迷走しかけた時。

舞台に、五彩の光が湧き上がった。


光は珠になり、大きく膨れ上がる。大人の一抱え……いや、もっと大きく。

そして、弾けた。

乱舞する色と光。それが薄れると、舞台にはオリガとレナートが戻っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 皇子はエカテリーナに胸キュン(本人は目を逸らそうとしてるけど)させられるのが、兄推しの自分的に羨ましいし寂しい…兄妹はそっち方面は行けないから。(このお話的にはないかと)どんどん皇子との外堀…
[良い点] やっぱりミハイルがヒーローなんですかね お兄様とのブラコンシスコンをいつまでも見ていたい、、
[良い点] 幸せしか見えてこない主人公の松岡マインド(爆笑) こうしてお祖父様の志を受け継いでプロデューサーへの道をかけあがるのですね。 ほっこりしました。 情熱の歴女は異世界でプロデューサーへと…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ