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報連相「報告と相談と暴走」

今さらですがエカテリーナ・ユールノヴァは、前世ド庶民アラサー社畜、今生は幽閉のち引きこもり令嬢。

どっちの属性でも、高位貴族との権力争いなんて経験値ゼロ。そんな初心者が自力で問題解決しようなんて、思ったらあかん。


というわけで、まずは報連相しなければ。


とはいえ、事態の打開を望むのであれば、報告先におんぶに抱っこで「策を教えてください」なんて言ってはいけない。自分でも精一杯考えて、打開策の案は出すべき。それを叩き台にして具体的な形にするか、案をけちょんけちょんに言われて別の策を教えてもらうかは、相手と状況次第だけど。

若手の頃ならともかく、それなりに年季の入った社会人なら、当然の心得ですよ。


そんな考えから、エカテリーナは社会人の経験値と歴女の知識と今生の知識とを総動員して、自分なりのプランを立ててみた。

そして、報告に時間がかかることを見越して、放課後に時間をもらいたいとアレクセイにお願いした。




「わたくしが至らぬばかりに、このようなお話をお伝えせねばならないこと、心苦しく思っております。お許しくださいまし」


アレクセイと執務室の面々、そしてフローラを前にして、エカテリーナは頭を下げる。

オリガとレナートを心配しながらも、二人から話を聞くときには空気を読んで来なかったフローラは、初めて事情を知って目を見張っていた。領法改定など、彼女にとっては別世界の話に思えるだろう。


「よく話してくれた」


アレクセイが妹の手を取った。


「至らぬなどと、口にすることはないんだよ。お前は少しも悪くない。お前は天の高みで輝く存在だ、そのような下劣な策になど、むしろ関わることなくいてほしい」

「お兄様……」


ずっと昔のことみたいに思えるけど、一学期の最初の頃には、近い身分の者と付き合って身分にふさわしい考え方を身につけてほしい、って言っていたのに。

うーん、お兄様が順調にシスコンを極めていることが、あらためて解る。さすがお兄様。感心していいのか、よくわからないけど。

あああ、私のブラコンが追いつけない!


「お兄様、わたくしは」

「解っている。お前のことだ、友人にそのような攻撃をされて、さぞ心を痛めているだろう。だが安心してほしい……セレズノアめ、たかが一度皇后を出した程度の家が、我ら誇り高きユールの一族に楯突こうなどとは、思い上がりもはなはだしい。あげく、お前の心を煩わせるとは。

私がしかと、身の程を思い知らせてくれよう」


アレクセイの形良い唇に、酷薄な笑みが浮かぶ。

麗しき氷の魔王、再臨である。


「お兄様、それは」


し、しまった。前世の社会人スキルを発動してセレズノア対策を考えてたから、上司への報告想定になってしまっていた。よって、シスコン対策が無策だったー!

私のバカバカー!


「閣下、お嬢様」


ノヴァクが声をかけてきたので、エカテリーナはほっとした。

ノヴァクさんなら、お兄様を諫めてくれるはず。


「セレズノアは政治思想的には旧守派ですが、その派閥を率いているのはユールマグナです。三大公爵家に成り代わる野心が見えることで、セレズノアはユールマグナからは睨まれております。現状の家格は三大公爵家に次ぐためか、排除はされておりませんが。

実質、セレズノア派は皇太后陛下だけが頼りの、孤立した小派閥にすぎません。その程度のお家がどう動こうと、当家は痛痒を感じませんな。遠慮は無用かと」

「そうか」


アレクセイの笑みは揺るぎなく、エカテリーナはカクッとこけそうになった。


ちょ……まさかの火に油!

いやお兄様の場合、氷に吹雪とか?

いやどうでもええわ。うわーん、御意見番ノヴァクさんが機能してくれない!


「お嬢様、ご心配なく」


商業流通長のハリルが、異国の美貌に柔らかな笑みを浮かべた。

あ、ハリルさんが止めてくれる。


「今のお言葉では恐ろしげに聞こえてしまったかと思いますが、同じ皇国の貴族です。思い知らせると言っても、物騒な話ではないのです。

やりようは、いくらでもありますとも。そうですね、たとえば、ユールノヴァ産のワインがセレズノア領の食卓には届かなくなるかもしれません。当家から直接買い入れているのでなくても、なぜか出入りの商人のもとには入ってこなくなるわけです。

貴族の宴には、相応の格のワインが不可欠です。それがなければ、家格にふさわしい宴を開くことはできない。人付き合いもままならないでしょうね。別にこちらは、いささか在庫が不足していて売れないというだけですから、誰に咎められることもありません。が……意味が解らないなら、侯爵家を名乗る資格が問われるというもの」


えっと……確かに物騒ではないですが。止めてくれないんですね……。


「あとはお話しいたしませんが、ご心配なく。ユールノヴァ家とセレズノア家では、経済規模が違います。あちらには痛手でも、こちらにとってはどうということはありませんので、お嬢様はどうぞお気になさらず」


最後で台無し!私に話さないやりようって、一体どんな⁉︎

ひええ、ハリルさんが黒い!


と、鉱山長のアーロンがふっとため息をついた。


「私の業務領域、鉱山関係ではお役に立てそうになく、残念です」


よかったです!


「ですが、アイザック博士のフィールドワークで国中を歩き回った時、いろいろと思わぬものを見聞きしたり、交流をつちかったりいたしまして。セレズノアでしたら、辿ればそれなりに」


……一体何を見聞きして、どういう方面の交流を培ったんでしょうか。

やだー、アーロンさんまで笑顔が黒いよう。

うわーん!執務室にシスコンウィルスが蔓延してるー!ノヴァクさんまで発症してしまった、さすがお兄様のシスコンウィルス、超有能!


なんて感心してる場合じゃない、そんな大掛かりに皆さんの手を煩わせたいわけじゃないんだから。

頑張れ自分、報告の次は相談だ!


「お兄様、皆様、お待ちくださいまし。わたくし、この件に関して、やりたいことがございますの。お兄様には、そのお許しをいただきたいと、思っておりました」


思いがけない言葉に、アレクセイがネオンブルーの目を見張る。


「ほう……やりたいこととは何かな?」


尋ねたアレクセイの目を見て、エカテリーナは言った。


「お会いしたいと思っておりますの。恐れ多くも、お兄様とわたくしの、親族であられるお方に」

本作はこれで200話となりました。読んでくださる皆様のおかげで続けることができています。ありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
[一言] そりゃあ、エカテリーナのことが無かったとしても最初から対抗陣営側に属する貴族家(しかも家格は下)。 その上でユールノヴァの至宝(エカテリーナ)に絡んだゴタゴタが起こったとなれば蹴飛ばしに…
[気になる点] フローラちゃんは何の役目があって同席しているんでしょう…?必要ないのでは…?と読んでいる間ずーーーっと気になってしまいました。
2022/10/17 22:25 退会済み
管理
[一言] うん。タイトルは 『報連走』 だったな。
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