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森林破壊およびラスボス対策

「あの……玄竜がこちらの出方を窺っているとおっしゃいましたけれど、こちらが森の伐採を控える努力を見せたとしたら、玄竜は引く可能性がありますかしら」


全員が驚きの眼差しでエカテリーナを見る。まさかここで令嬢が口出しするとは思わなかったので。


「……可能性で言えば、あるように思いまする。しかし、燃料の需要は増える一方なのです。控えるなど難しゅうございましょう」

「今、森の木を伐採した後、植林はされていらっしゃいまして?」

「は、植林?いや……その言葉は初めて耳にいたします」


やっぱり!


前世で大阪に住んでいた頃、校外学習で奈良県の吉野に行った。桜の花見なら嬉しいけど、見学したのは吉野杉の植林について。吉野の植林は室町時代から始まった、とかって話を聞いて、後でレポート書かされた時、世界の植林の現状と歴史をテーマにした。


その時知ったけど、ヨーロッパでは長らく森は開墾して農地にするもので、伐採後に木を植えるという発想がなかったのよ。それが根付いたのは十九世紀も後半になってからだった。

ここでもそうだったか!


「植林と申し上げたのは、木を植えるということですわ。

農地では、麦を収穫した後にまた作物を植えるのでございましょう。それと同じように、森を伐採した跡に再び森を育てることを、そのように申しましたの」


「森を伐採した跡に、再び森を育てる……?」


フォルリはあっけにとられているようだ。


「お嬢様、木は麦とは違いまする。麦は一年で収穫できますが、森が再び森となるまでに、どれほどの年月がかかることか」


「そうですわね、このような言葉を聞いたことがございますわ。『一年の計は麦を育て、十年の計は木を育て、百年の計は人を育てる』と」


麦じゃなくて稲だっけ?つか前世の格言、こっちで通用するのか?ま、気にしたら負けや!


「ユールノヴァ家は、四百年の歴史を誇る家柄。木を育てる計も立てられないようなことで、どうして皇国を支えることができましょう」


キリっとカッコつけて言ってみる。

プレゼン成功の鍵は自信に満ちた態度。プレゼンの極意は詐欺師に学べ!


「フォルリ様、仰せになりましたわね。玄竜は最古の存在、人間に排除できるものではないと。このまま伐採を進めれば、いつか玄竜の怒りを買うことは避けられないとしたら……。

その怒りに触れれば、わが公爵領のみならず、この皇国そのものが大きな災いに襲われかねませんわ。そのようなこと、絶対に避けねばなりません。お兄様や、皆様、皇国のすべての国民が危険に晒されるなど、わたくし、嫌でございます。

伐採をすぐ止めることは出来ないとしても、今後は木を植え育てて、それを使っていく。住処である森を全て奪うつもりはない。そう示すことで玄竜を宥めることができるかどうか、試してみる価値はございませんでしょうか」


「むう……」


フォルリは唸った。

他の面々は、まじまじとエカテリーナを見つめている。


「エカテリーナ……植林、と言ったか?聞いたこともないが、どこから思い付いた?」

「お兄様、申し上げた通り、麦などと同じように考えただけですわ。森の木も、公爵領の重要な産物と言えるのでございましょう?ならば、刈り取るばかりでなく、植え育てて保つことも考えるべきですわ。時間はかかりますけれど、自分たちの手で植えて手入れをしてやれば、森に生えているものより建材としてよいものが育つかもしれませんことよ」


「……ふむ」


アレクセイは考え込んだ。

が、すぐに顔を上げる。


「いいだろう。玄竜のことを置いても、農地に不向きな急傾斜地などの有効活用になる。将来のためにやって損はない。フォルリ、植林について検討し、可能な限り早く実施しろ。

今回の注文については、注文主に半年の猶予をもらい、玄竜の出方を見る。三カ月待って動きがなければ、再度検討する」

「御意にござります」


さすがお兄様!

聞いたこともない施策でも利点を冷静に判断し、現実的な落とし所へ落とす。本当にできる男でほれぼれします。


……しかし、『北の王と称せられる最古の存在、巨大な竜、玄竜』への対策が、『植林』。

地味。

自分で言い出しといてなんだけど、すーごーく地味。


で、でも玄竜、いや想像通りならゲームでの名前は、魔竜王ヴラドフォーレンなんだけど、あれラスボスだもん!

皇国滅亡ルートに入っちゃったら、あれ、誰にも倒せないもん!


いや、倒すっていうか攻略することはできるらしいんだけどね……。

実は隠し攻略キャラらしいんだけどね……。

お兄様を攻略できるルートがあったりしないかなー、って調べた時に知ったけど、何かの条件をクリアすると魔竜王を攻略対象にすることができる。人間に変身すると、その姿は黒髪赤眼の絶世の美形なのよ。


でも、攻略の仕方とか全くわかりません!そのルートにはお兄様がほとんど出ないと知って、アウトオブ眼中でした!

検索して出てきた魔竜王(人間バージョン)があまりに美形で、ちょっとチャレンジしちゃおっかな、とよろめいてしまったけど、やっぱりどストライクはお兄様。魔竜王はおそらく俺様キャラだろうから、妹に甘々なお兄様を見るような癒しは得られないだろうな、って事で、攻略方法に目を通しもしなかった。

役立たずでごめんなさい!


しかし皇国滅亡ルートに入ってしまった時の、燃え盛る皇城を踏み砕いて咆哮する魔竜王(竜バージョン)、ド迫力だった。

そして城とそう変わらないほどデカかったぞ……推定体長、百メートルを優に超えてるんじゃないかな。たぶんジャンボジェットよりデカい、てか下手するとジャンボの倍ってことだよ……。



考えてみたら、ラスボス襲来の理由ってゲームの中では特に説明されていなかった。ただ、この先の重要イベントをクリアできなかった場合、魔物が次々に襲来するアクション過多なルートに入り、高確率でラスボスが出現する。


だから皇国滅亡フラグを折るにはイベントをクリアしなきゃ、と思っていたけど、この世界ではラスボスや魔物の襲来までに、森林破壊により生息地を奪われたという理由があったのなら、そこをケアすることで襲来を止められるかもしれない。


それに前世の知識では、森林の乱伐をやってしまうと悪い影響が山ほどあるはずだしね。

山の保水力が落ちて鉄砲水や土石流が発生したり、地滑りや山崩れといった災害が多発したり。地下水の減少や乾燥化、生物多様性も失われるし、果ては川から海へ流れ込む栄養が変わって海の生態系にまで影響するとかなんとか。

そういえば、どこかの村でガケ崩れが起きたという報告がお兄様のところに来ていたな。


だから、ストップ森林破壊!


植林なら平和だもん!ええやん別に!

そして皇国滅亡ルートに入らないよう、イベントクリアも頑張ろう。

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― 新着の感想 ―
[一言] 主人公(※悪役)を一方的に溺愛してくれる 恋愛要素の心配がないお兄様の存在につきましては 一定数の需要があると思われます!!
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