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悪役令嬢、ブラコンにジョブチェンジします  作者: 浜千鳥


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回想、そして

思い返せば、濃い夏休みだった。



皇都への帰路の最初の夜。自分に与えられた部屋で、メイドのミナもすでに下がって一人きり。灯りも消した部屋で窓から夜空を見上げながら、エカテリーナはしみじみしている。


ここは、ユールノヴァ領へやって来た時にも世話になった、小領主の屋敷だ。エカテリーナ、アレクセイ、ミハイル、フローラの四人で泊めてもらっている。初老の領主は、丸顔を感激に震わせて四人を迎えてくれた。

来た時と同様に窓から手を振ったりしたが、今回はミハイルも一緒なので歓声が桁違いだ。こういうのに慣れきっているミハイルを、軽く尊敬したエカテリーナである。

が、往路よりも今回の方が歓声が大きいのには、エカテリーナお嬢様の人気が領内で盛り上がっているせいもあるのだが。さっぱり気付いていないところは、相変わらずである。



ほんっと、ユールノヴァではいろいろありました。


来たばかりの時には、この地の風の匂いや空の色を懐かしいと思いながらも、前世のスイスや北欧に来たみたいな異国情緒を感じていたんだったなあ。

今はもう、すっかり見慣れた。石造りと木材やレンガが混在した建物、洗練と素朴が調和する美しい街の風景。外出するたびに笑顔を向けて、手を振ってくれる人々。公爵令嬢、領主の妹として、彼らに手を振るのにもすっかり慣れたのが、あらためて考えると面映い。

アラサー社畜なんぞが手なんて振っててすみません。



そしてユールノヴァ城に着いたら、お兄様への抵抗勢力、ノヴァダインたちが待ち構えていて。ローカル悪役令嬢、キーラとも顔を合わせたんだった。

祝宴で、お兄様があっさり返り討ちにしてくれたけど。

いや、あっさりなんて言ったらバチが当たるか。お兄様たちが前々から情報収集して、連中の出方も手札も把握し対応の準備ができていたからこその、あの結果だったもの。

あらためて、私のお兄様は世界一素敵です!


ノヴァダイン家は爵位も財産も没収されて、ローカル悪役令嬢は平民落ち。……やっぱり、悪役令嬢が目立つことすると、そうなるんだ……。ぶるぶる。

身につまされたのもあって、実はキーラ嬢には仕事を斡旋しました。

貴族令嬢、それもあまり人生経験のない十五歳にできる仕事って悩ましくて――作法や教養が優れていれば家庭教師が没落令嬢の定番職なんだけど、キーラ嬢はねえ。仕事よりお嫁に行く方がこの世界の常識に合っているかな、と思ったけど、いくら元伯爵令嬢でも、今はノヴァダインの名前が負の資産すぎてまっとうな嫁ぎ先はありそうもなかった――本人に仕事内容の見当がつくであろう、メイドをやってもらおうかと。

予想通りかなり抵抗されたけど、ま、現実として他に行き場がないし。縦ロールを三つ編みに変えて、弁護士のダニールさん家で、ギャーギャー反抗しながらも意外に頑張って働いているみたい。負けず嫌いだから。


私も没落することになったら、メイドになって働いて、お兄様を養ってさしあげよう。そんな希望をもらいました、ありがとう。



そのあと、山岳神殿への代参の旅へ――。

これこそいろいろあったわ……森の民の居住地で、死の乙女セレーネ様と死の神様に会って、アイザック大叔父様と初めて会って、山岳神殿で山岳神様に会って、噴火の神託をいただいて。


そうそう、噴火すると神託のあった山を視察に行ったフォルリさんが帰って来ましたよ。なんとか皇都へ帰る前に会えて、報告を聞くことができてよかった。

近隣の村の村人たちが、言われてみれば前より噴煙が多かったり地震が多くて、ちょっと不安に思っていたと言っていたそうで、過去の噴火時の兆候から考えて、明日明後日ということはないけれどそんなに余裕はないのでは……とのことだった。


それで、アーロンさんが避難先として提案してくれた旧鉱山の鉱夫の宿舎を急ぎ修繕して、村人たちに移住してもらうことに。生活基盤をすべて置いての移住は大変だろうけれど、何しろ神様が噴火を伝えてくれたわけで、多くの村人は移住に同意しているそうだ。

移住後は鉱山の仕事をしてもらうか、山に慣れている人たちなので植林の仕事にたずさわってもらってはどうだろう、とフォルリさんと相談中。村人の意見も聞いて方針を決めたら、しかるべき部署へ引き継いで対応していただきます。



そして、神託をいただいた帰り道で、ついにラスボスと遭遇。

魔竜王、ヴラドフォーレン様。


あらためて、絶世の美形でしたよ人間バージョン。美しすぎて細部が思い出せない。黎明期のハリウッド映画では、女優を美しく見せるためにカメラに薄布をかけて画面をぼかしたそうだけど、記憶が勝手にそれをやってます。そうしないと実物の凄さを表現できないせいだと思う。

しかしなんで勝手に演出家になっているんだ、私の記憶。器用か。


しかしそれほどまでに美しい人間バージョンだったけど、それ以上にかっこ良かったのが竜バージョンだったなー。ファンタジーのドラゴンそのものの姿、そしてあの巨きさ。いつもジャンボジェットに例えるけど、ジャンボジェットを真下から見たら、巨きさだけで感動するよね。

でも、それが生きてるんだから。神々にも近いほど強力なエネルギーに満ちた存在が、翼を広げて宙にいたんだから。あの感動。うまく表現できないけど、雄大な自然を見た時くらい圧倒された。


……そんなお方に、えらいこと言われましたよ……伴侶……やめようフリーズする。


うん、考えまい。

だって私のドストライクは――お兄様だっ!

人生全部、お兄様のために使って悔いなし!


例によって、エカテリーナはこぶしを握る。


結婚だって、お兄様の都合のいい相手とでいいもん。ていうかその方が楽……。

と、エカテリーナが遠い目をした時。


「エカテリーナ」


二階の窓の外から、低い美声が呼びかけた。

バスバリトンか、バスボイスに分類される声だった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 浜千鳥さま ここ最近のお話がミハイル様が沢山お話してるので、もったいなくて、少しづつ読んでいますwww 1日数行を繰り返し繰り返し味わってますwww 実はまだこの回まで辿り着いておりませ…
[一言] 次回は魔竜王様の出番でしょうか?? アレクセイ様やミハイル殿下とは対峙するのかな?? 魔竜王様のお姿を見たらお二人とも大慌てでしょうね(笑) 浜千鳥様 いつもお返事を返してくださっている…
[一言] これは……もしやついていくフラグなんですか……!!? いやめっっっっっっっっちゃくちゃ嬉しいんですけども!! え、これお兄様とも皇子とも対峙するんです……??? まだ半年以上先かな〜って思っ…
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