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短編小説集

ぶつぶつ

作者: 大西洋子

「鏡よ鏡、この世で一番美しいのは誰だ?」

 先生は、録音の声でお妃をするつもりだったみたい。だけど、それを、

「えー、鏡の精役のセリフ、少ない!」

「先生、お妃のセリフも、私達でやっていいですか?」

 こうして、あいちゃんと、私とでお妃の声もすることになったの。年少、年中と、ほとんどセリフがない役だったから、もう飛び上がって喜んだわ。でも、決まってから肝心な事に気づいたの。

「あ、でも、怖い声、上手く出せるかしら」

「大丈夫!」

 私は怖いお話を読む気持ちになって、お妃のセリフを言ったの。

「うん、お妃の声にぴったり! ねぇねぇ、どうやったら、そんな怖い声が出せるの?」

 そんなわけで、鏡の精役のセリフそっちのけで、その日は、お妃のセリフに熱中してしまったの。


 ところが、みんなで劇に使う背景の色塗りが始まると、一人、二人、と、保育園を休むようになったの。

「あいちゃん、大丈夫かな?」

 先生の話では、一週間程休まないといけないらしい。あいちゃん、早くよくなって欲しいな。


 先生の言葉通り、あいちゃんは元気に保育園にやって来た。でも、あいちゃん、それ、どうしたの?

「ああ、やっぱり目立っちゃう? 掻いちゃダメだと言われたんだけど、ついついね。これでも綺麗に治ったんだよ」

「へー」

 あいちゃんの指を突っ込みたくなるえくぼの側に、その小さなかさぶたが、絵の具で落書きしたかのように見えた。

「かさぶた剥がしたら跡が残るかも。っておかあさんに言われて、ずっと触りたいのを我慢しているのよ。だから、もう触らないでね。

 あ、先生! 聞いて、聞いて。お休みしてる間に、お妃の怖い声出せるようになったのよ」

 やった、あいちゃんと一緒に、お妃と鏡の精のセリフが言えるんだ。早く発表会来ないかなぁ。


 ところが……

「ああ、水疱瘡ですね、これは」

 お着替えの時に、私の体にぶつぶつが出始めているのに先生が気づいて、帰り道に病院によったら、この言葉。

 おかあさんは、やっぱりね。と、言い、家に帰るなりあちこちに連絡していた。もちろん、保育園も。

 ええ! 発表会はどうなるの? 


 次の日から、おかあさんは仕事を休んだ。お昼に大好きなオムライスを作ってもらったのだけど、心はどこかにお出かけ中。

 後三日で待ちに待った発表会。それまでに今出ているぶつぶつ、全部かさぶたにならないかなぁ。

 だけど、その日になってもかさぶたにならなかったの。――むしろ増えた?


 残念、残念。つまんない、つまんない。ごろりと横になって手近な絵本をひっぱりだす。よりによって、その本は白雪姫。

「鏡よ鏡、この世で一番美しいのは誰だ?」

 それは、今頃、あいちゃんと一緒に言っていた言葉。

 えぇい、お妃も水疱瘡になあれ。赤ペンでお妃の顔につぶつを書いたの。

 うんうん、そんな顔になったら、当然、鏡の精は白雪姫が美しいと言うよね。でも、その白雪姫の顔にもぶつぶつが出来たら、鏡の精は誰が一番美しいと答えるのかな?

 ページをめくり、小人達にぶつぶつを赤ぺんで書く。ぶつぶつあったら、みんな仲良くベッドの中よね。

 白雪姫を助ける王子様も、ぶつぶつが出来て、お城から出られませーん。

 ……あら、なんだかおもしろくなってきた。他のお話だったら、どうなるかしら。ちょっと想像してみましょう。

 最初はそうね、赤ずきんちゃん。赤ずきんちゃんにぶつぶつが出来たら、お婆ちゃん家に行けなくなるわね。

 次は桃太郎。鬼にぶつぶつ出来きたら、鬼が鬼ヶ島から出て、悪いことができませーん。

 あらおもしろい。もっともっと想像してみましょう。

 手当たり次第絵本をひっぱりだして、考えてみる。面白いと思ったことを次々ノートに書いていく。

 そうだ、保育園に行けるようになったら先生や、あいちゃんにこの想像を話してみよう。面白いって言ってくれるかしら。うふふ。


 ふと顔をあげると、そこには大きな姿見。鏡の中の私の顔はぶつぶつだらけ。私はその鏡に近づき問いかけた。

「鏡よ鏡。何時もの私に戻れますか?」

「戻れますよ」

 お母さんが後ろから私を抱き締めながら、発表会が延びたことを教えてくれた。

 

 

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