少女の名前と目的
「で、お前は何であんなところで猫を抱きながら倒れていた」
紅は即席で作ったチャーハンを食べながら言った。
「行き倒れて」
少女は目線をチャーハンから放さずに、そして、すばやく動く手を止めずに話した。
「猫はどうしてだ?」
紅は足元で寝ている猫見ながら言った。
「いや、お腹が減って、それで追いかけて捕まえたら倒れました」
「えっ、まさかの食用!」
すごく大きな声が出た。足元の猫は部屋の隅に走っていた。
「ハァー……まぁいい。お前、それ食ったら出て行けよ」
「わかりました、その前にここら辺に紅という男が住んでいると思うんですけど、知りませんか?」
紅は驚いた、こんな普通の少女が自分の名前を知っているからだ。紅は意外と有名だが、それは裏世界でしかも殺し屋としてだ。こんなにも普通の少女がなぜ知っているか、しかも住んでいる場所までが。
「お前はその男に会って、どうするつもりだ」
紅は気がついたら口が動いていた。
「知っているんですか、教えてください! お願いです」
少女はさっきとは違い感情的になった。
「まずは質問に答えろ」
紅は静かに言った。
「殺しを頼みます、父親の敵討ちとして」
少女は堂々と言い放った。
「敵討ちか、そうか、わかった」
紅は微笑んだ。今の世の中にこんなにも濁っているのに敵討ちなんていう理由で殺しを頼まれたのは初めてのような気がした。
「それで、紅はどこに行けば会えるんですか?」
「どこって、ここだよ、ココ」
紅は床を指しながら言った。
「えっ、それってどういう意味ですか?」
今度は自分を指して紅は言い放った。
「だから、紅はオレだよ、オレ」
少女は数分の間を空けて驚きの声を出した。
「まず、あんたの名前は?」
紅はソファーに座りながら言った。
「はい、緋色蒼といいます」
蒼はそう、淡々と言った。
「赤か青か、わからない色だな」
「よくいわれます」
「それじゃあ、単刀直入に聞くが、その父親の敵討ちってのは誰なんだ?」
紅は仕事をさっさと済ませたかった。
「それがわからないんです」
「はぁー」
紅は間の抜けた声を出した。