異能力軍、戦前演説~8番隊の場合~
早く!お家へ!
陽は既に沈み冷えきった深夜。
吐く息は白くなり、冬将軍の訪れを感じさせている。
日本特殊異能力部異能課、異能力軍はとある講堂に集まっていた。
さすがにこの時期、外で集会するなど考えられない。それに、何処で演説しようと今回の作戦に影響はないのだ。
今回、異能力軍が実行する作戦は、情報収集である。
ところで、異能力軍とは自衛隊から派生する形で産まれた組織である。そして、過去から見れば、驚くほどの変化を遂げた日本国が運営する組織でもある。
それはつまり、やろうと思えば監視カメラの映像を洗いだし、機器等の操作履歴を確認する事が出来る。
なのに何故異能力軍に頼るのかと言うと、情報収集を探る相手に問題がある。
相手は俗に政治家と呼ばれ、重鎮と称しても差し支えの無い人物なのだ。
その政治家に、他国へ情報を横流ししていると疑いが掛けられた。しかしそれを悟られるのは何かと不都合で、表向きは何も起こっていないとされている。その為、調べた時に動きが大きくなる、もしくは記録が残る方法は使えない。
細かく言うならまだまだ理由はあるのだが、それなりに色々あり今回は異能力軍に、その中の8番隊に白羽の矢が立ったのだ。
今回の作戦は、8番隊がメインに実行する。
補助として6番隊と9番隊の一部が参加しているが、人数は少ない。
因みに、同じ異能力軍なのに、8番隊員の顔を知っている者が極端に少ない。6番隊と7番隊は割りと顔見知りが多いらしいが、それでも隊の2割程の人数である。
8番隊の影が薄い訳ではない。
むしろ濃い。超濃い。影が立体になってポーズを決めている程に際立っている。存在感の塊の様に有名である。
だが、個人を特定出来る者は少ない。
これは異能力軍七不思議に数えても問題ないだろう。
…まあその……あれだ…8番隊は、ちょっとアレな人達がアレしてしまう集団なのである。
そんなアレな8番隊を分かりやすく言うならば、ニンジャである。
忍ぶ者、と書く忍者では無い。
それはNinnja・slayerと呼ばれ、正義執行の為にはどんな悪辣な手段も厭わない者。それは侍……いや、ジャパニーズ・サムライと双璧を成す存在、そうジャパニーズ・ニンジャとは彼らの事である。
すり鉢状に造られた講堂の中央に立つ人物、彼が8番隊の隊長である。
群青色の忍装束に、紫の無駄に長い襟巻きで着飾ったこいつが、その親玉だ。
大体予想がつくと思うが、8番隊員の7割程が同じ様な格好をしている。残りはまともなのかと言うとそうではなく、各々がアニメや特撮をモチーフにしたコスプレをしている。たまにきちんとスーツを着ている者も居るが、曰くスーツを着たコスプレなのだとか。
尚、8番隊に制服を着ろと命じると、全員が漏れなく忍装束を着てくる事が最近判明した。解せぬ。
その8番隊隊長が、徐にマイクを手に取ると、講堂は静寂に包まれた。
「………………………………………………」
「喋れや!」
スパーン! と響く破裂音、マイク無しで講堂に轟く怒号。黄金色の忍装束を着こみ、ハリセンを片手に持つこの男。元8番隊隊長にして現在は隊長補佐。8番隊で唯一常識的思考をすることが可能な、希少かつ重要な人物だ。
8番隊隊長は金色忍者を一瞥すると、マイクを口許へ持っていき呟いた。
「………………ニンニン…」
『ニンニン』
今この瞬間、集まっている隊員達の心は1つになった。
やはり大切なのは心である。
それは相手の数など障害たり得ないもので、誠心誠意、心を込めて接すれば、その気持ちは必ず伝わるのだ。
更に、ここに集う者達は|同じ組織に所属している。辛い時も悲しい時も、嬉しいときも楽しい時も、病める時も健やかなる時だって、概ねは一緒に居るのだ。
もはや親友…いや、家族である。
そんな彼等に、今さら飾る言葉など必要無いのである!
「……ニン…」
『…ニン……ニンニン』
再度伝心を確認。
やはり完璧である。あの金色ハリセン忍者でさえも、心を1つにしているのだ。
この一体感を出すためにどれ程の時間を掛けたことか、8番隊は結成時から終結を目指して行動してきたのである。
何処かから、吹き出す様な音が聴こえる。
「アハッ……無理、もうハハッ…無理……アッハハハハハ!
フゥー…いやホントこれやって正解、お前らマジ最高だわw
神部さんもツッコミありがとね。
ハァ…ウハッ…すぅーはぁー……ハハッ!
うしっやるか。
お前らの殆どが知っての通り、俺が隊長だ!
8番隊で最高の御馬鹿を自負する隊長、つまり俺、青井 忍がここに立つ!
おいおい止してはくれないか、流石の俺でもこの量の喝采は照れるってもんだ。
さて今回の仕事はアレだ、本気出せば5分で終わる。
てか作戦とか大袈裟な、俺らの異能力を使えば行って帰ってくるだけで任務完了。超余裕。
やることは既に通達してるから、まぁ良いな。
とっとと情報パクって帰ろうぜ!」
目元しか見えないが、おそらくニヤニヤしながら喋っていた隊長、青井は高らかに宣言すると、柏手を1つ。
ウォーだのフォーだのイヤッフーだのと吼えていた隊員達を黙らせた。
これが隊員の風格か。
いや違う、これはまだ御巫山戯けの途中である。どうにも隊長の口角は、未だ上がったままだからだ。襟巻きで隠れているが、間違いなく笑っている。
異能力軍8番隊。彼等が最も大切にしている事は、遊び心。それは仕事中でさえも例外はなく、楽しくなければ生きている意味が無い、とまで考えている。
しかし、ただ無邪気に巫山戯るのではない。
仮にも軍と言う組織に属している彼等は、良くも悪くも内外から評価が付き纏う。
よって、多少の御巫山戯けは見逃される程度には働かなければいけない。それはつまり、±0になると言う事。彼等は常に100%以上の成果を求め、そしてそれを実現させてきたのだ。
抑、仕事中に巫山戯るなという話なのだが、それは言わないお約束だ。
隊長青井、群青忍者はバッと腕を振るった。
するとどうだろう。隊長等は寸分の狂いもなく、サングラスを取り出して装着した。
満足気にそれを確認した群青忍者も同様に、サングラスを取り出して装着した。
これで、不審者集団の完成である。
念のため再び明記しておくと、現在は深夜。灯りがなければ暗いのは当然、そこにサングラス。そういう事である。
この楽しさは、やっている本人にしか分からないだろう。
故に8番隊は、アレな人達がアレしてしまうアレな集団だと認識されてしまうのだ。更に8番隊全体の異能力の傾向として、陰湿なものが多い。これによって、ただでさえアレなのに尚更アレだと思われるのである。
アレな集団代表、群青忍者は、顔全体が隠れているため分からないが、軽く笑うと、号令をかけた。
「夜明までだ!
同胞達よ……散開!」
その1時間後、全ての情報が揃ったらしい。
無駄に優秀な8番隊だ。
今回も御偉いさん達は、苦虫を100匹位噛み潰した様な顔でご苦労と言っていた。眉間のシワが取れなくなるのは、時間の問題だ。
地の文多めです。
何故って?
隊長さんは早く帰りたいかららしい。
個人的な悩みなんですけど、連載するために色々考えてるんです。
主人公を誰にするべきか……シリーズで出したキャラか、はたまた新キャラか。
ま、ボチボチ頑張っています。