第66話 一つの選択って感じ
今年ラストになります。
そこそこ大きい声量で歌を歌いながら愛車のバイクを走らせるニールの本体。
周りに誰か居たとしても、彼が何を言っているのか上手く聞き取れないだろう。
それ程までにデカイ音を出しているバイクは、気のせいか地球にあった頃よりも綺麗に、そしてしっかりしていた。
「ン"ギモ"ヂイ"ィィィー!!」
日本では出来ないノーヘルでの乗車に、テンションが上がりまくって変な事を叫ぶ。
そんなニールの大分先に、土煙を上げながらやって来る大部隊が居た。
カートスの出現から撤退中の人族部隊だ。
「…………うっわ。にりー。ほか行こっと」
蛇行運転から、部隊から遠ざかる様にハンドルを切って加速する。
そのスピードは原付バイクの枠を超えて、大型バイク並みだ。
またも歌を歌いながら遠ざかる彼を、撤退中の部隊は気付かなかった。
それは幸か不幸か。
全滅せずに帰り着いたのだから幸いだったのだろうが……。
そしてこの日以降、各地で馬鹿デカイ音を出しながら疾走する魔物や悪魔の目撃情報が出たが、ニールはそれを知っても笑うだけで訂正等はしなかった。
カートスとマーサ女王が地上で戦闘を繰り広げる中、上空でそれを見ていたニールはふと考えた。
(……カートスって最近作ったよな?何なら実体を持って現れたのは今回が初のはず…………。何であんなに戦えてるんだ?しかもカッコイイ技迄使って)
ニール自身から作られた、文字通り分身のカートスが刀をあれ程迄に、意のままに操っているのが理解できなかった。
実際、刀何て秋葉に旅行に行った時に買った模造刀しか持った事無いし、何ならその模造刀すら1回持って眺めただけで、それ以降は襖のつっかえ棒として使っていただけだ。
と、そこ迄考えた時にふと思い至った。
「もしかして…………カートスがあんなに戦えるのも、冒険者ギルドの近未来的な掲示板とか、色んな超文明的なやつって………………俺がやったのか?」
誰に言うともなく呟いたニールの言葉。
以前見かけた冒険者ギルドの掲示板や、その依頼を受ける際のシステム面を言っているのだろう。
その言葉も考えも大当たりで、そこ迄考えたニールは視線をリリトへと向けた。
地上のマーサ女王を見て、自身も戦いたいのかウズウズしている。
視線に気付いてニールに意識を向ける。
「どうかしましたか?マスター?」
暫く見つめるだけだったが、思い至った可能性を確かめる為に口を開いた。
「リリトって俺と初対面じゃないよな?昔に会ったか?」
一瞬、驚愕に目を見開き、次いで微笑んだ。
「思い出した……訳じゃ無いんですよね。…………私がまだ小さい時に会ってますよ」
やっぱりかと呟くニールは、納得8割無理解2割と言った顔で考えていた。
そもそも、マーサ女王の事はサチを過去に行かせて確認している。
その際にニールと全く同じ外見の人物と行動を共にしていたと聞いていた。
だが、リリトについては何も聞いてなかったのだ。
「…………約束したんですよ?だから、私からは何も教えられないんです」
俯きがちに言ったリリトは「でも……」と続けて
「伝言を預かってます。『楽しめ』と。私には何の事か分からないんですが、こう言えば伝わるさって」
その言葉を聞いたニールはコロコロと表情を変えた。
考え込む様にした表情から驚き、納得、そして笑った。
「あははははは!オッケーオッケー!ナイス俺!!」
突然笑い出したニールに、その場に居た管理者達と、レトに話をしていた鋼詞達が振り向く。
何事かと身構える管理者達と違って鋼詞達はニールを一瞥し、小さく笑うとそのままレトに話の続きを聞かせた。
ニール以外の暇人君達は、こっそりストークから色々リークされて知っていた。何故笑ったのか。
それを知らない管理者、その中でもアリストは比較的すぐに視線を下に戻したが、それでも意識は鋼詞達に向いていた。
レトの質問に答えている鋼詞だが、その内容が暴露大会になっているのだ。
「じゃあ楽しみますかね!」
気持ちを切り替える様に声を発したニールは、ポケットからタバコを取り出し、火を付けて吸い込む。
紫煙を吐き出し、眼下に向けて更に声を上げた。
「カートス!マーサ!自由行動だ!!楽しめ!!…………鈴木に加藤。お前らもだ」
「よっしゃ!面白スキルをバラ撒いてくるぜー!」
「俺も行くってばよ!」
鈴木と加藤はそのままどこぞへと飛んで行った。
残った鋼詞はレトと一緒にその場に残り、下を眺めていた。
「御意」
短く発せられた言葉はカートスからだった。
その姿は無傷で、眼前にある黒いドームを見ていた。
「そのまま、果てぬ闘いに溺れるがいい。哀れな龍族よ」
翳した手を握る様に閉じると、黒いドームも小さくなりやがて消えた。
チラリと視線をマーサに向ければ、彼女もまたこちらを見ていた。
激しく動き回り、シーガンと拳打の応酬をしながらも視線を逸らす余裕があるようだ。
視線が交差したのは刹那にも満たない僅かな時間。
だが…………。
「良いだろう」
呟いたカートスは刀を抜き放ち、背後へと横凪に振り抜いた。
その刀風は鎌鼬となり、後方にある木々をなぎ倒した。
上から見ていた鋼詞が「うっわ、パネェー」と言葉を漏らす程に凄まじく、鎌鼬が通った場所は遙か先まで全ての物が両断されていた。
そのまま刀を鞘に戻し、腕を組んでマーサへと向き直る。
木々の間に真っ二つになった魔族が居たが、それはもうどうでもいい事だろう。死者は何も出来ないのだから。
薄く微笑んだマーサ女王は、両手による掌底でシーガンを吹き飛ばす。
空中で姿勢を整え着地したシーガン。その身体には赤い紋様が浮かび上がっていた。
「なんだ、やっぱトカゲだな。全然持たねぇじゃねぇか」
マーサ女王の攻撃は全く効いてないと、拳同士を打ち付ける。
最初は大剣を担いでいたが、それはシーガン本来の戦い方では無かった。
己の肉体で戦う。魔法すら使わずに。それこそが力だと、強さだと信じて疑わなかった。
大剣を使っていたのはその力を抑える為。
それが無くなった今、本来の力を出し始めている。
それでもマーサ女王とシーガンは全力では無かった。
今年もありがとうございました。
世間は色々大変ですが、来年はいい年になると良いですね。
来年も月1更新になると思いますが、変わらず読んでくれて本当に感謝です!!
ブクマ数や閲覧数が増えるのは何気ににやついてしまいます。
ちょくちょくそれを見てニヤけてる位にはw
こんな拙い作品ですがお読み頂き有難うございます。
来年もよろしくお願いします!




