第60話 能力の秘密って感じ
大分遅れました。
時は遡り、ニールが龍王に殺られて異世界館に戻った頃。
『ちょっと良いか?』
今からリベンジだ!と、意気込んでいたニールに話し掛けたのは彼自身の分身、索敵や情報収集を担当するストークだった。
「ん?なんぞ?」
『大体想像できるだろうけど、色々分かったから、ね』
それを聞いたニールは実に嫌らしい笑みを浮かべた。
「ほほぅ……。じゃあ龍王には隔離空間で待っててもらうか」
「お、何何?面白い事でもあった?」
入り口へと向かうニールを見て、ドッペルゲンガーの鋼詩は身を乗り出すように聞いてきた。
「ちょっちねー」
そんな返事を残して異世界へと戻ったニール。
何が起こるのかと期待しながら、鋼詩はモニターに視線を移した。
そこには傍若無人に暴れ回る龍王と、遠巻きに監視しているサチが映っている。
暫くモニターを眺めていると、サチの横にニールが現れた。
「あー、転移かー。良いなー、俺もやってみてー。お!何か詠唱しだしたな」
見逃すまいと、更に食い入るようにモニターを見つめる先で、ニールが魔法を行使。龍王の周囲に巨大な魔法陣が現れ、その巨体を一瞬で消し去った。
「え?あっけなさすぎじゃね?…………ん?お、おお?何だこれ?」
モニターを見ていた鋼詩は、新たに現れた4つ目のモニターを注視した。
画面は殆ど真白。そんな中に龍王だけがポツンと存在する空間。
知ってか、知らずか、ニールは新たな世界を創造していた。
初代管理者が作った2つの世界。それらは創造にかなりの年月を要していた。
その世界とは比べるべくも無い、質素な世界だが、創り出した。
いや、創り出してしまった。
本来、一つの世界に対して、管理者は一人と決まっていた。
理由は単純。管理者のキャパオーバーだからだ。
一つの世界を管理するので限界。それを初代管理者は地球含めて三つの世界を管理してのけた。
もちろんそれを他の管理者達が黙っている訳もなく。
抗議する者ややり方を教えろと言う者が後を絶たなかった。
それだけであればまだ良かったのだが、中には無理をして複数の世界を創り出し、管理する事が出来ずに滅んで行く者も出だした。
異世界の急激な増加と減少。
その皺寄せは、全ての世界の根幹、元となった世界に現れた。
死者が蘇ったり、他の世界から魔物が来たり、逆に異世界へと飛ばされたり…………。
凡そ現実には起こり得ない事象が多発したため、管理者達で一つのルールが決められた。
『勝手に世界を創り出してはならぬ』と。
では、何故初代管理者と言われている者は、複数の世界を管理出来たのか。
それは、端から管理などしていないからだ。
管理者となれば、その世界と運命を共にする。世界が滅べば管理者も滅ぶ。その為、滅びを迎えない様にと世界の維持に全力を尽くすのは当たり前だろう。
そもそも、世界の維持には膨大なエネルギーを必要とする。
大抵はその世界で巡り巡ってエネルギーが枯渇する事は有り得ない。
だが、管理者が世界に干渉すればそのエネルギーは消費され、根幹となる世界へ還っていく。
初代管理者は、その根幹となる世界、『地球』を管理していた為、どんなにエネルギーを消費しようと自身に戻って来るからと、新たに世界を創造。その世界は管理などせずに、放置すればどうなるかと、創り出すだけで終わった。
もちろん、その事に気付き言い寄る管理者も居る。
それらから逃れる為に、スケープゴートを用意して、一般人に紛れる事で雲隠れをしている。
『…………取り敢えず、初代管理者について調べて分かった事はこれぐらいだねー。ただ、曖昧な部分が多かったから推測で補完してる所もあるし、余り信用はしないでねー』
「あー。て事は、今ヤバイ事した?」
ニールのその返事を、ストークは笑うだけでキレイに流した。
『はっはっはっ。でだ。ここも推測何だか、多分初代管理者は俺自身だと思う』
それを聞いたニールは、さして驚くことも無くその話題を先程のストークと同じ様に流した。
「へー。んで?他には無いの?」
『……まぁ、別にどうでも良いっちゃ、どうでも良い話だけど。他に有るとしたら、リリトとは以前会ってるし、エルフの国にも行った事あるね』
自分自身が初代管理者かも知れない。と言う情報がどうでも良いと言うのは、異世界広しと言えど、ニール位なのでは無いだろうか?
そして、既にリリトと会っているし、エルフの国にも行ったことが有ると。
「んー…………て事は、だ。過去に行って、色々やってる?」
『そゆことー。後、運命の神も見つけたよ』
それを聞き、ニールは一番の驚きをその顔に浮かべた。
「マジで!?どんなだった?この後は?」
直ぐ側にストークが居れば、掴みかかりそうな勢いで語りかける。
彼らが言う運命の神とは、この世界含めた自分達を創造した人物だ。
『この後は分からんね。その場その場で書いているから予測できん。後、俺等と同じ位ニリサーだね』
ニール達がその存在に思い至るのは、自然な流れだった。
他の異世界は、地球に居る誰かが創り出した物語が元になっている。
有名な映画やドラマ、アニメに漫画と言った物まで、異世界として存在する。
ならば、自分達を創った人物が居るのでは無いか?そう考え、ストークに探させていた。
そして見つけたのは、趣味でラノベを書く、全く普通の人物。
自分達が今後どうなるのかを知る為に、設定等を確認しようとしたが、そんなのは一切無かった。
ストークが見た印象では、その場のノリと勢いで書いている様にしか見えなかった。
「んー…………。それじゃあ、初代を探すのは止めるか」
『だよねー。探すだけ無駄だろうし。一応捜索隊は引き上げさせといたよー』
すぐさま探すのを諦めたのには理由があった。
相手が自分自身となれば、確実に本体は先ず見つからないからだ。
例え見つけたとしても、それは影武者であり、本体には絶対に辿り着かない。
ニールが隠れるとしたらそうするからだ。
絶対に自身を含めた他者を信用しない。少なく無い人生経験で学んだ、ニールの、鋼詩としての経験から来る物。
もちろん今も暇人君達や、ドッペルゲンガーの鋼詩の事も信用していない。
………………まぁ、それが当たっているのは今のニールなら、だが。
実際は、意外と近くに居たりする。…………間近でこんなイベントを見逃すまいと。
と、そうこう話しているうちに、隔離空間の龍王も無事処理が終わった。
『あ、忘れてた。もう一つあったんだった。メタルカラーのスライムが居るじゃん?あれもニールが創った暇人君達だよー』
「…………俺ってば何やってんの?バカなの?………………あぁ、大馬鹿だったわ」
未来の自身がやらかす数々の事に、頭を抱え、次いで酷く凹むニールだった。
その頃エルフの国のとある森の中では。
「クソっ!急に現れたかと思えば、儂の事を忘れおって!」
地に体を横たえ、木々の間から微かに見える空を見上げながら、忌々しげに吐き捨てる国王が居た。
その体は正に満身創痍と言うぐらいボロボロになっており、国王はただ息をするだけで、その体を動かす事が出来ずにいた。
一つ大きく深呼吸をして落ち着いた国王は、悲しい様な寂しい様な、そんな表情をした。
「……もう少し優しくしてくれても良いだろうに。儂だってリリトが無事に帰って来るのは嬉しいんだぞ?あの時だって、無事なリリトを見た時はメチャクチャ嬉しかったし、強い表情であ奴の元に居ると言った時は、強くなったのーと、嬉しかったんだし。全く、儂の嫁は恐いのー」
一人愚痴を漏らす国王だが、彼がこんなにボロボロになっているのは嫁であり、女王のスパルタ教育を受けたからだ。
その内容は単純でありながら、正に地獄。
全ての属性の上位精霊との死闘。
火や風、水と言った基本属性はもちろん、希少な光に闇、複合属性の時空や生命と、ありとあらゆる精霊達。
今も国王の周囲を取り囲み、彼が回復するのを待っている。
そんな精霊達をチラリと見やり大きく溜息を吐き出すと、彼等に愚痴を零す。
「…………はぁー。もう少し手を抜いても良いんじゃないか?コレでは寿命が縮むぞ」
『なに、多少寿命が縮むぐらいなら我等がどうとでもするさ。諦めて扱かれろ』
クツクツと笑いながら話すのは、生命を司る精霊だ。
それに同意する様に、周囲の精霊達も頷いた。
国王のお仕置き……いや、折檻……いやいや、扱きはまだまだ続きそうであった。
所変わってこちらはドワーフ王国の王都。
ゴツゴツとした岩の様な家が軒を連ね、あちらこちらから鉄を打つ音と、炉から立ち上がる煙と熱気が漂っている。
そんな鉄火場と化した王都を、一組の冒険者パーティーが歩いていた。
「っかー!!いつ来ても熱いっすねー!」
「全くよ!汗が止まらないし、ベタベタするしで無理!」
「それに煙いし!早いとこ他の国に行くわよ!」
「お前らうっせー!余計に熱くなんだろうが!ちっとは黙ってろ!」
姦しく騒ぎ立てるメンバーに辟易としながらも、冒険者ギルドを目指す『守銭の魔狼』のリーダー、ゼルファー。
彼等がここに来たのは装備品の一新と、腕輪越しにニールから頼まれたからだ。
ドワーフの国に行って、王に会ってきてくれ。と。
一介の冒険者が会えるとは思って無いが、ニールからは『その辺は気にしないで良いよー』と、何とも軽い返事を受けた。
ゼルファー達としても臨時収入があった為、欲しかったオーダーメイドの装備を作ってもらう為に、ドワーフの国に行くのに異論は無かった。
そんな思いもあり、ギャーギャー騒ぐメンバーを連れてギルドへ出向いた。
ゴツゴツとした無骨なギルドのドアを開けると、中にいた冒険者の視線が一斉にゼル達に注がれる。
「うーっす。久しぶりだな」
ゼルファーが気軽にそう声を上げると。
「おー!ゼルファーじゃねえか!」
「久しぶりだなー!いつ来たんだ?」
「今は儲かる依頼は無いぞ!」
「また飲み比べしようぜ!」
そんな声があちこちから上がった。
また、別の所では。
「ララさん!一緒に飲みましょうぜ!」
「レーヤル!いい男は見つかったのかい?」
「やっぱあの二人は可愛いよなー」
「だよなー。あれで強いってんだからなー」
一気に賑わいを見せたギルド内を、適当に返事をしながら受付に向かう。
受付についたゼルファーは、そこに座っていた筋骨隆々の男に向かって拳を突き出した。
それを見た男も同じ様に拳を突き出し、ぶつけ合う。
二人が口元を緩めると、受付の男が笑い出した。
「がっはっはっはっ!!随分久しぶりじゃねぇか!相変わらずあの二人には尻に敷かれてんのか?」
「そっちも相変わらずだな。後、俺は尻に敷かれてないからな?」
「そう言ってんのはお前だけだって!なぁ、タロム!」
「そうっすね。敷かれまくって潰れてますよ」
「はぁ!?潰れてねぇし!てか、敷かれてねぇって言ってんだろ!」
「がははは!まぁ、そんな事はどうでも良い!今日はどうしたよ?」
ゼルファーにとってはどうでも良くないが、それをここで言ったところで時間の無駄だと思い、溜息を吐き出すと要件を告げた。
「はぁー。今日はドドリコの爺さんに会いに来たんだよ」
「お前も懲りねぇなー!まぁ、爺さんなら工房に居るだろうから勝手に行って来い!」
「あとな、ちょいと国王に会いたいんだが、取り次ぎ出来るか?」
「国王にか?そいつは構わねぇが…………まず会えねぇと思うぞ?」
「あぁ、会えなければそれで良いんだ。こっちも会えればラッキー位にしか思ってねぇからな」
少し考え頷くと、「先に爺さんの所に行って来い」と言い残し、そのまま奥の部屋へと消えて行った。
ゼルファーも用事は済ませたので、他の冒険者と駄弁っていたメンバーに声をかけてギルドを後にした。
そして、彼等が向かったのは王都の外れ、一際高い壁と門番が居る一角だった。
王城かと疑うかも知れないが、ここは名工ドドリコの工房が有る場所だ。
「相変わらず無駄にデケェ門っすねー」
「爺さんに武具を作ってもらいたいって奴が後を絶たないからな」
「有名になるってのも考え物よね」
「でも実際、ドドリコさんが作る武具は世界一って言われてるし、そうなるのも仕方無いわよ」
四人が門に近付くと、門番がその進路を塞ぐが守銭の魔狼だと気付き、門を開けて先へ促す。
既にギルドから連絡は来ているのだろう。
そのまま門を抜け、奥の工房へと向う。
工房は静まり返っており、人が居るのか疑う程だが…………。
「お?今は何も作ってねぇみたいだな」
「これなら直ぐに作ってくれそうっすね」
ゼルファーとタロムが口にした様に、名工ドドリコは常に何かを作っていると言う訳ではなく、依頼が有り、その依頼が気に入った時と、自身の興が乗った時のみ作る。
そして、製作中は工房から鉄を打つ音と、街の工房よりも更に上を行く熱気が辺りに漂う。
「今回は大丈夫かしら?」
「流石に前回みたいに門前払いじゃないからね」
四人が工房を見ながらお喋りをしていると、その横から誰かが近付いて来てるのに気付く。
足音が大きくなり、姿が見える所まで来てから四人はその人物に頭を下げた。
「「「「お久しぶりです!ドドリコさん!」」」」
「うぉわった!」
ガシャーン!と音が鳴り、驚いたドドリコが、その手に持っていたであろう酒壺が、短い生涯を終え大地にその酒を飲ませていた。
暫く沈黙が続くが…………。
冷や汗を流しながら見つめる四人に、笑顔でドドリコは告げた。
「帰れ。二度と来んな」
三度場所を移し、今度はニールの創り出した村。
規模だけで言うなら、既に村と言うよりは都市と言ったほうがしっくり来るだろう。
日々、世界の至る所から奴隷や重症者、または瀕死の者に善意の押し売りをしてこの場所へと拉致してきている。
そんな事をしていれば、自然と増改築が繰り返され…………。
「また増やしたの?」
そう言って寝そべっていたソファから身体を起こし、今しがた部屋に入って来た人物に愚痴るのは、転生系を管理しているリンテンだ。
「上限は聞いてないし、大丈夫っしょ?てか、あんたも転生者を結構増やしてるから大概だと思うよ?」
リンテンにそう返すのは、この村を管理しているホーキーだ。
「いやいや、俺のは実験も兼ねてるから良いんだよ」
二人はこの村に残り、村人の増員と、世界をリセットする事になった際の避難者の確保をしていた。
所謂、ノアの箱舟に乗せる人員の確保である。
「それよりも。そろそろ奴隷とか居なくなるんじゃないか?」
「俺もそう思ってたんだけどなー。逆に奴隷に成りたいとか言い出す奴がチラホラ居るんよ」
「あー。まぁ、予想通りっちゃあ予想通りだなー」
「だろ?だから一旦増やすのは止めとくわ」
それも仕方無しと言う感じでリンテンが手を振った。
「で?そっちはどんな感じなん?」
ホーキーが聞けば、リンテンはよくぞ聞いてくれました!と言わんばかりの笑顔になった。
「無事に『無敵』を作れたよ!まぁ、現時点でってのは有るけど」
「下を見出したらきりが無いからなー」
「そうそう。上ならある程度限度も分かるんだけど、下は正に底無し沼。深淵だね」
「その『無敵』のステータスは?」
「もちろん、オール1!魔法は要らないからそれ系は0!最弱の無敵だ!」
「おー!いい感じじゃん!」
彼等の話す無敵とは、向かう所敵無しの意味の無敵では無く…………敵になる者が居ない程に弱い、と言う意味の無敵だった。
弱過ぎて誰からも敵と認識されない……なかなかに捻くれた考えだが、ニールはそんな『無敵』が居ても良いんじゃね?と、ラノベを読む様になって思い始めた。
最強!とか、天下無敵!とか。ニールからすると、強さは皆が簡単に想像出来るし、最弱からの最強ってのも良くある物だった。
そして、リンテンの能力によって転生させられた不幸な人物。
もちろん村に居るが、彼が活躍する事は無いだろう。
「ところで。ニール達のスキルが通用しなかったり無効化される原因は分かったん?」
ホーキーは龍王戦の事を言っているのだろう。
物理や魔法等のダメージを受ける攻撃は彼等には効かない筈だ。
にも関わらず、ニール達は龍王からダメージを受けた。
その事から、何か原因が有るのではと疑っていた。
「それなら分かったよ」
そう、あっけらかんと語るリンテンの言葉は、ホーキーを、そしてニール達を納得させるには十分だった。
「まず、この世界の伝説や伝承に必ず残ってるんだけど、スキルや魔法は使用者の気持ち、覚悟かな?それで性能が大きく変わるんよ。だから龍王戦の時はこっちのスキルを貫通して来たし、逆にニール達は余りダメージを与えられなかったし」
「あー……それだと不死なんてスキル作っても意味ないなー」
「そそ。俺等って良くも悪くも、熱くならないからねー」
「悟りを開いた仙人かって位、死ぬとしても何とも思わないもんなー」
「どんな状態でも『まぁ、いっか』って受け入れるしな」
カラカラと笑う彼等は、本当にそれをどうとも思って無いのだろう。
ニールにも既に教えており、その打開策としてニールは自分の分身を複数創り、本体は雲隠れしている。
…………奇しくも、初代管理者と同じ様に。
皆さんコロナに負けずに頑張りましょう!
ここまでお読み頂きありがとうございます!
でわ、また次回!




