第58話 レトの冒険 ⑤
いつもより少し長いです
目が覚めたらクロムが居なかった。
近くでお菓子を食べてたアリストに聞いたら、女王様や他の管理者と手合わせをしに行ったと。
朝っぱらから何をやってんだか。
私も見学しに行こうかなとか考えていたら、急に声が聞こえた。
『レトー、おはようさん。今暇?』
その声を聞いて、私は急いで辺りを見回した。
「にぃにぃ?どこ?」
この声はにぃにぃだ。
『あぁ、そこには居ないよ。ちゃんと見えてるから慌てるな。笑えるから』
「…………今忙しいから。じゃ」
あのアホは……まったく。
声を無視して行こうとしたら、アリストが自分の横をチョイチョイと指さしていた。
「取り敢えず座って聞いてみるのも良いんじゃないかの?」
「アリストにも聞こえてたの?」
「一応の。ほれ、こっちに座るのじゃ」
言われるがままに横に座ってお菓子に手を伸ばす。
「それで、どうしたのじゃ?」
私の変わりにアリストが聞いた。
『今エルフの王城でしょ?その近くにメタルカラーのスライムがいるっぽいから捕まえて欲しいんよ』
「……は?」
ニールにぃがお願いして来たのは有り得ない事だった。
だってメタルカラーのスライムだよ!?この世界じゃ神とさえ言われてるんだよ?それを捕まえる?どんな無理ゲーだよ!
『あぁ、一応言っておくけど危険は無いから安心して良いよー。ただただ面倒くさいだけだろうから』
…………面倒くさがりなにぃにぃが面倒くさいって言うのは、あんまり面倒くさくないんじゃないの?
て事は、普通の人からしたら片手間に終わる様な事なんじゃ?
あれ?文字通り朝飯前に終わるんじゃないの!?
「……良いけど、貸し1つだからね?」
『オッケー。じゃあ具体的な場所送るからよろしくねー』
「それは妾にも貸し1つで良いのか?」
『全然、問題無し』
そう言ってにぃにぃからの通信?は途切れたけど、変わりにフワリと浮かぶ銀色の玉が現れた。
空中でグネグネと形を変えたかと思うと、矢印の形になりドアを指していた。
「あー、コレで案内するって事ね」
私もアリストも互いを見て頷き合ってから、ドアの外へと向かう。
暫く矢印の指し示す通りに進んでいたけど、急にアリストが矢印を突きながら話した。
「あ奴はとんでもない物を平気で創り出すんじゃな」
私には言っている意味が分からなくて首を傾げた。
「え?コレが?」
「そうじゃ。恐らくこれ1つで、この国位なら簡単に殲滅出来るのではないか?」
そう言ったアリストの顔は、とても冗談を言っているようには見えなかった。
試しに矢印を突いてみても、プヨプヨするだけで、そんな危険な物には見えない。
「ふーん……まぁ、にぃにぃのする事だからね。多分何も考えてないと思うよ?強いて言えば、面白そうってだけじゃないかな?」
実際そんなもんだろう。
たまによく分からんことをやらかすけど、大抵が面白そう。もしくは何となく。
それが分かってる家族は良いけど、にぃにぃの事を余り知らない人が見ると、凄い頭の良い奴か、凄いバカに見られる。
極めつけがあの性格だ。
面倒くさがりだから、周りにどう思われるのか気にしない為言い訳等は一切無い。
「そうなのか?……変わった奴じゃの」
アリストとそんな話をしながら矢印の通りに進んでいると、前方から騒々しい音が鳴り響いている部屋の前に辿り着いた。
矢印は部屋の中を指しているけど、ドアの前で右に左にと忙しなく動いている。
…………凄く嫌な予感がするんだけど。
一応、部屋の前に居た兵士……と言うか野次馬?に声をかけてみよう。
「あのー、すいません。この中って入れますか?」
声をかけられた兵士が一瞬、「チッ」と舌打ちしたのはスルーして置こう。更にこちらを見て驚いた顔をしているのもスルーしよう。うん。
「………………はっ!……え?中ですか?入れますが……只今模擬戦の最中でして」
反応が遅かったのもスルーしとこうか。
なんか、聞くのが嫌だし。
使用中なら後で良いかなと思ってたら、アリストが構わず扉に手を掛けた。
「問題ないのじゃ」
言いながら開けられた扉の先では信じられない光景が広がっていた。
地面のあちこちが抉れ、弾け、現在進行形で大小様々なクレーターが出来上がっていってる。
そして、それをやっているのがマーサ女王と、うちのクロム。
意味が分かんない。
状況は模擬戦って聞いてたから分かるけど…………何、あの二人の戦い方。
方やマーサ女王は、魔法をブッパしながらクロムに接近して拳打の嵐。そのスピードがアホみたいに早い。
女王は固定砲台みたいな戦法だとイメージしてたから、その違いに理解が追い付かない。しかも笑い声を上げながら。
…………完全にバーサーカーです。ありがとうございます。
方やクロムは、そんなマーサ女王の魔法を刀で弾いたり、打ち返したり、切り裂いたり。
接近されると、至近距離から魔法をブッパして無理やり距離を取る。
こっちもニヤニヤと楽しそうに笑っている。
……何なのコイツ等?
今やりあってる事をスポーツか何かだと思ってない?
二人を眺めていたら更に有り得ない事に気付いた。
…………矢印が右に左にと、忙しそうに振れている。
まさかと思って、二人の邪魔にならない様に練兵場の端っこをグルッと周ったけど…………変わらずあの二人のどちらかを指している。
いや、普通に考えるとクロムは有り得ないから、多分女王何だろうけど……。
私がどのタイミングで声を掛けようか悩んで居ると、横からアリストが進み出した。
「どれ。妾がいい加減に終わらせるかの」
「え?」
そのまま二人に向かって歩いて行くアリストを見ていると…………。
「んぎゃ!」
…………コケた。それはもう、盛大にコケた。
そりゃあ、クロム達のせいで地面はボコボコしてるからね。
そのアリストの悲鳴で、二人共動きを止めてコチラを見ているから、終わらせる事は出来たと思うけど。
「……んぐっ…………ひっ」
うわー。必死に泣くのを我慢してる。
何だろう、この微笑ましい感じ。
「おま…………何してんの?レトー、泣かしたら駄目だろ?」
「泣いてなどないわ!ちょっと、目にゴミが入っただけじゃ!」
「私何もしてないんですけど?」
「まったく。あ、一時中止で良いですか?」
「ええ。中々に楽しめたから良いわよ」
「よいか!妾は泣いてないからな!絶対泣いてないのじゃ!」
涙目で言われても、説得力皆無なのは黙っておこう。
皆の視線が生暖かいのも仕方ないでしょ。
…………後ろの兵士達の中には『何あの幼女……はぁはぁ』とか、『クソっ!可愛すぎる!』とか、『駄目だ、俺には嫁が……でもアレは……』なんてブツブツ言っているのが聞こえるけど。
その気持ちは凄く分かるから何にも言えない。
「で?どうしたん?」
私がアリストを生暖かい目で見てたら、クロムが要件を聞いてきた。
直ぐ近くに女王も居る為、どう言おうかと悩んで居ると、その女王が言葉を発した。
「……なるほど。それなら話しやすい場所に移りましょうか」
「あーね。ニールから何かお願いされた感じか」
二人は空気を察したのか、私の雰囲気で大体の事を理解したみたい。
まぁ、昔からにぃにぃは気持ち悪いぐらい空気を読むと言うか、察しが良かったからね。
にぃにぃはクロムの事を俺って言ってたから、そんな所も一緒なんだろうなー。
そんなんで良く彼女が出来ないよね。と、にぃにぃに聞いた事があったけど、『え?めんどくせぇじゃん?一々相手の機嫌気にしながらデート行くんだろ?しかも、コッチのやりたい事やるのにも相手を考えないといけないし。そんなんクッソアホらしいじゃん。めんど』と言って、ずっと独り身だった。
「レト?行くぞー」
おっと。変な事考えちゃった。
「…………クロム?どうしたのそれ」
私が指差した先には、紐で縛られ引きずられる、エイトとセイントの二人。
しかも、二人共全く動く気配が無く、銅像の様に固まっている。
「あぁ、起こしたら面倒だからそのまま連れてく」
この感じはアレね。詳細は聞かれないと答えないってやつ。
どこまでニリサーなんだか。
そうして前を歩く二人に付いて行く事暫く。
レト達は城の地下にある、広い空間に辿り着いた。
次回はまたまた遅れます。
お読み頂きありがとうございます。




