第55話 レトの冒険 ④
いやはや、かなり遅れました。
エルフの王城で一夜を明かした朝。
クロムが居る部屋は朝から凄まじい喧騒に包まれていた。
「だから、何で私が相手をしないといけないんだよ!」
声を張り上げるのはこの部屋の主、クロム。
「少し位良いじゃねーかよ!減るもんでもねぇーし!」
「そうよ。朝の軽い運動だと思えば良いじゃない」
そのクロムに抗議するのは、前日に会った管理者の一人、エイトとこの国の女王マーサの二人だ。
いや、二人からやや離れた所で腕を組んで頷いてる全身鎧のセイントを加えれば三人か。
クロムの横ではそんな喧騒など露知らずと、レトが眠りこけている。
…………図太い神経なのか、気にならない性格なのか。
ちなみに。リリトは未だに自室で寝ている。寝坊と言う訳ではなく、単にクロム達が起きるのが早いだけだ。
まぁ、昨日夜遅くまで女王に扱かれていたのも理由になるだろうが。
「な!良いだろ?ちょっと手合わせするだけじゃねぇか」
「それがめんどくさいし、やる意味が無いから嫌だっつってんの!」
「あら。やる意味ならあるわよ?私達の世界を任せるんですから、少なくとも私よりは強くないといけないじゃない?」
ガシガシと頭を掻いたクロムは僅かな可能性にかけて、チラリと横で眠るレトを見る。
「……んなぁ…………」
むにゃむにゃと口元を動かして布団に包まる様を見て僅かながら苛立ちを覚えたクロムだが、大きな溜め息と共にそれを吐き出す。
そもそも何故クロムがこうまで消極的なのか。
それはニールや目の前にいる管理者達に関係している。
一つがニールの自由っぷり。
何をしているか等はリアルタイムで知る事が出来る為、面白い事をやっている向こうに行きたいのだ。
そしてもう一つがエイトやセイントの管理する異世界だ。
滅びかけの世界などそうそうお目にかかれ無い。
さっさとその世紀末な世界に行ってヒャッハーしたいのだ。
それが、めんどうな手合わせをしろと。
しかも、クロムの見立てではこの三人は確実に脳筋でバトルジャンキー……セイントは少し違うだろうが、少なくとも目の前の二人は絶対に1回で満足するタイプでは無いだろう。
そうクロムは考えるが、あながち間違ってはいない。
事実、エイトもマーサも自身が満足するまで付き合わせようと考えている。
ただ一つ、クロムが余り警戒していないセイントが1番やる気満々なのが間違いだろう。
表情があるのか分からない頭をしているから、分からないのだろうが。
そんな言い合いも長くは続かず、遂にクロムが折れた。
「だぁー!分かった、分かったわよ!!但し!1回だけでどちらかが動けなくなったら終わりだからな!」
この言葉に喜んだのは1人だけ。
「っしゃー!!」
そう。1番バカっぽいエイトだけだ。
マーサは暫し考え込んだ後に頷いた。その顔は何やら不敵に笑っていたが……。
そして、セイントはただ一言「……なるほど」と呟いた限り何も言葉を発さなくなった。ただ、その佇まいは先程とは打って変わり、鋭い切れ味を誇る抜き身の刀の様だ。
未だ寝ているレトは、黙って事の成り行きを見ていたアリストに任せて、4人で練兵場へと向かう。
アリストは最初から起きていたが、強さにはこだわりが無くエイト達の話には入らなかった。
アリスト曰く『強さとは己を然と認識し、如何なる時も己を見失わない事』だそうだ。
クロムには何と無く理解出来る話だった。地球に居た時に見た様々な物語で時折出てくる、力に飲み込まれたキャラクターの事だろうと。
元は優しい人物が大き過ぎる力を手にして、次第に狂気に染まって行くやつだ。
ただ、クロムはこの世界の事をニールから聞いて知った時になるほどと思った事がある。
「力に飲まれるってのは魂の容量をオーバーするから、精神や身体に異常をきたすんだよ。逆に、飲まれない奴はそれだけ容量があるからか、自分の中でうまい具合に圧縮、もしくは最適化してるからだね」
クロムも元はニール自身だから分からない話では無かった。
そんな事を考えていると、やがて練兵場に辿り着く。
「こうまでエルフっぽくしなくても良いのになー」
呟くクロムの前には、所々に木々が生え小さな森を形成した練兵場があった。
地面は勿論、壁まで緑で覆われた場所だ。
そうして練兵場を眺めているとエイトが真っ先に口を開いた。
「よっしゃ!最初は俺からだろ!早速やろうぜ!」
言うや否や、ダンッ!と跳躍してクロムから距離を取るエイト。
その髪は先程よりも幾らか伸びていた。
「はいはい。じゃあ行きますよー」
気のない返事で右手を翳したクロムは、たった一言呟いた。
「時間停止」
そのままマーサとセイントに振り返り「次は?」と言葉をかけた。
あっさりとしたエイトの負けっぷりに二人の反応はと言うと……。
「やはりそう来ましたか。ですが、まだ勝負は終わってませんわよ?」
マーサはクロムの後ろ、エイトを指差す。
視線を戻せばそこには、胸元まで髪が伸びたエイトが構えを取って立っていた。
「まだ始まったばかりだろ?ちゃんと楽しもうぜ!」
振り返ったクロムは驚くかと思いきや……頷いた。
「ま、そりゃそうだよな」
予め想定していたのだろう。その顔は既に次を考えていた。
いや、口元が僅かに動いている為、既に呪文の詠唱に入っていた。
「次は俺の番だぜ!!」
勢い良く踏み込んだエイトは、勢いそのままにクロムに殴りかかる。
振り抜かれた拳はしかし、クロムに当たる事は無く弾かれた。
その後も次々と連撃を叩き込むが、バシッ!バシッ!と音がするだけでクロムにはダメージを与えられていなかった。
「かってーな!おい!…………なら、これでどうよ!」
燃える髪の色が青く変わると、その拳も炎に包まれた。
そのまま拳を振り抜く……次も弾かれると思いきや、クロムのお腹に命中した。
後方に吹き飛ばされるクロムだが、空中で姿勢を整え着地すると両手をエイトに向けた。
その顔は痛みなど微塵も感じて無く、淡々と詠唱する。
「……其は無知を知れ。悠久の時の中で無知と無力さに溺れて嘆く事しか出来ぬと知れ。そこから出る事叶わず。そこから這い上がる事叶わず。時に見捨てられたその地では等しく無力と知れ。時間忘却の地」
クロムが唱えたのは先程と同じ様な時間系の呪文。
だが、詠唱を加えた事によりその効果は先程の呪文とは大きくかけ離れた物になり、効力は絶大。例え相手が管理者だろうと対象から時間の概念を忘れさせる。それは周囲の空間に迄及ぶ。
エイトを中心とした直径3メートル以内の空間から色が無くなる。
色と言うのは光が物体に当たり、その反射光を見る事で色と認識される。
その光さえも止まってしまえば色を認識できなくなる。
止まったままのエイトを暫く見つめ、動かない事を確認したクロムは今度こそと、二人に振り向いた。
管理者エイトとの腕試しは、クロムの勝利に終わった。
魔界の戦記が面白すぎて遅れました(;´∀`)
次は早めに上げれるように頑張ります。
お読みいただきありがとうございますm(_ _)m




