第45話 苦戦って感じ
「尻尾巻いてトンズラするのはそっちでしょ。良い感じの尻尾も付いてるんだし」
挑発する様に発した言葉だが、その効果は余り無かったようだ。
「この尻尾は巻く為じゃなくて振り回す為にあるんだよ。こんなふうにな!」
その場で勢い良く回転した龍王は、尻尾を叩き付けるようにニールの頭上に放った。
普通に考えればまずあり得ないだろう。
彼我の距離は軽く10メートルは離れている。尻尾の長さはどれだけ多く見積もっても2メートルしか無いのだ。
届く筈が無い。普通ならそう思って油断する。
だがニールからしたらここは異世界で、魔法やスキルと言った不可思議な力が存在する世界。
自身が考え得る事は現実として起こり得るもの。
そう考えている為、油断など全くせずに左手でそれを受け止めた。
「コレがホントの蜥蜴の尻尾切りって……ね?」
受け止めた尻尾を引き千切る様に力を入れたニールの腕に返ってきたのは、空気を引っ張った様な感じだった。
その手を見てみるが、受け止めたはずの尻尾は何処にも無く、視線を尻尾の持ち主に向けて見れば今にもブレスを吐こうと、その大きな口を開けている所だった。
ニールの中に居るカートスが呟く。
『マナジ、掻き消せ』
『あいよっと』
撃ち出されたブレスはニールに届く前に霧散した。
それに驚く事も無く、龍王は次の動作に移っていた。
どうやったのか。
マナジは有り余る魔力をブレスにぶつけ、拡散させて文字通り掻き消した。
『っしゃー!!また熟練度上がったぜー!』
…………その副次的な効果で更に魔力が上がったが、マナジ的にはそちらが本命だろう。さらなる魔法を放とうとウズウズしているのを見れば明らかだ。
……まぁ、見れるのはニールだけだが。
と、今度はニールの背後からブレスが飛んでくる。
こっちは黒龍の方だ。
龍王とは違い、真黒な炎がこちらに迫って来ている。
それも掻き消そうとマナジが魔力を放出しようとした所にカートスが指示を出す。
『マナジは下に居る蜥蜴を叩き落とせ。あの黒龍の相手はお前がやれ』
『ホイさっとー!』
『もう油断しないぜ!』
ニールと黒龍の間に現れた漆黒の焔が、黒龍の吐いたブレスを呑み込んでいく。
「っ!一体何!?」
「マスター!大丈夫ですか!?」
漸く閃光から復帰したレトとリリトが声を上げながら周囲を見渡す。
「慌てずとも問題無かろう」
アリストが二人を落ち着かせる様に声を掛ける。
そんな3人を気にせず、マナジは下から迫っていた龍王に圧縮した空気の塊をぶつけ、更に重力魔法を発動して龍王を地面まで叩き落とす。
黒龍のブレスを呑み込んだクロムはニールを守る様に立ち塞がる。
見た目は真黒な、燃えているようなローブを纏った二十代前後の女だった。
ニールが男なのにその分身が女って言うのは何の冗談だ?と思うかも知れない。…………実際ニールはそう思った。
だが、ニールの性格を思い出して欲しい。
面倒くさがりで気分屋。…………そう。何の意味もない、ただ周りが男しか居なかったから女が居ても良いんじゃね?と言う、気分でそうなっただけだ。
その顔はニールの趣味が多分に含まれた、整った容姿をしている。
髪はポニーテールで赤黒く、仄かにそばかすがあり、眼鏡をかけた美人。
そんな美人が何の冗談か、自分と同じ口調で話し始める。
「いやはや。さっきは遊び過ぎたねー。土壇場で力覚醒!的な事やろうとしたら、端から全力できやがんの。もうね、アホかと。下に落とした奴もかなり厄介だから気を付けてなっ……と!!」
クロムが突き出した両手からは焔の弾丸が、黒龍の居る空間を埋め尽くす様に撃ち出された。
それはさながら、ショットガンとマシンガンを合わせたような、広範囲魔法。
黒龍の周囲に散らばった弾丸は、そのまま空中で静止。直接当った物は鱗に阻まれて散っていく。
そして空中の弾丸は分裂を始めた。
「コレは防げると思うなよ?」
薄っすら笑みを浮かべたその顔は正しく死神だった。
突き出していた掌をグッと握り込む。
「消滅させる黒焔」
周囲に有った無数の弾丸が膨張して、一斉に弾ける。衝撃や熱などは一切無い。ただ、そこの空間に有ったあらゆる物が消滅した。
見晴らしの良くなった空を見て、ニールが呟く。
「…………俺の出番は?」
その頃、下は下でニールの分身とも言うべき暇人君達が苦戦していた。
龍王と相対しているのは4人。
西洋のフルプレートメイルに身を包む指揮官君補佐のゴルド。
長い深緑色のローブに身を包む魔法君補佐のエムト。
簡素な道着に身を包む肉体補佐のボード。
その3人から離れて、戦闘には参加せずに観察しているのが索敵君補佐のサチ。
戦いは暇人君達が押されていた。
「チッ!マジで効かねぇのかよ!?」
エムトが放った無数の風の刃を弾く龍王を見てボードが悪態を付く。
『サチ、何か分かったか?』
油断無く龍王を眺めながらゴルドがこの状況を打破しようとサチに尋ねる。
『何も。こっちの攻撃が尽く無効化されてる感じしかないね』
最初の攻撃は当たった。ならば何かしらカラクリがあるはず。
そう思い龍王を観察してるが何も解らなかった。…………何も。
「さっき迄見えてたステータスまで見えなくなってるのは可笑しくない?」
さらなる魔法を放ちながらエムトが述べる。
戦闘を開始した途端に龍王のステータスに砂嵐が混じり、今では完全に見えなくなっていた。
何かがおかしい。ゴルドに何とも言えない悪寒が走ったその時。
「小賢しい!!」
激しい衝撃と轟音。それまで撃ち続けてたエムトの魔法が全て掻き消される。
更に衝撃によってエムトはたたらを踏み、ゴルドとボードは身を守る為に動きが止まる。
龍王が動き出すのとほぼ同時、ゴルドが叫ぶと同時に動く。
「ボード!」
1泊遅れてボードが龍王の後を追う。
まだ体制を崩したままのエムトに龍王の爪が迫る。
呆気に取られたエムトはなす術無くやられると思ったが、悪あがきとでも取れる様に自身を巻き込む形で龍王との間に小さな重力球を生成。瞬時にそれを破裂させた。
先程の衝撃を上回る威力に龍王も吹き飛ばされる。
地面に両手の爪を突き立て、すぐに体制を立て直す龍王にはダメージは皆無だった。
「はぁ!」
その横からゴルドが斬り掛かる。
袈裟掛けに振られた刃はしかし、龍王の姿を捉える事はなく空を切る。
「んだらぁ!!」
反撃に移ろうとした龍王の背後からボードが蹴りを放つ。
流石に躱しきれずにその腕で防ぐ。
そのまま振り切った勢いに乗って龍王は更に吹き飛んでいく。
そこへエムトが合流するが、そのローブはボロボロで右腕がダランと力無く垂れ下がっていた。
「ヤバイね、あいつ」
「ここは三十六計逃げるが勝ちじゃね?」
「……いや、逃げた所でダメージが与えられないなら変わらん。せめてあのカラクリさえ分かれば良いんだが」
『一応分かったのは、ダメージは無効化出来ても衝撃は無効化出来ないって事だけだね。もちろんその衝撃によるダメージも無し』
暇人君達にはニールと同じ様にあらゆる攻撃を無効化するスキルが発動している。
だが、どういう訳か龍王はそれ等を全て無視してくる。
こちらに効かないはずの攻撃を当てて来たり、逆にこちらの攻撃は一切効かない。
これはニール自身が戦った所で同じ結果になるだろう。
打開策を考えている所にサチが告げる。
『……上は丁度片付いたみたいだね…………っ!皆離れろ!!』
刹那、ゴルド達が居た場所を1本の光が通り過ぎる。
『…………クソが!』
そこには何も無かった。
ゴルド達3人が殺られた。
龍王のブレス。出会い頭に放って来たような太いレーザーでは無く、それを圧縮して細くした様なレーザー。
細くしたとは言ってもその大きさは3人を飲み込んで余りあるサイズだが。
悪態をつくサチがその視線を向けて見れば、そこには憤怒の表情を浮かべる龍王が居た。
「我が相棒までも……!!!」
遅れましたorz
次は来週の日曜になります。
お読み頂きありがとうございます。




