第4話 意外と高性能な感じ
現れた俺を見てビックリ。
鏡でも見てるかの様な位同じ。
胸の横にあるホクロやへその形、それに毛の生え方や向きまで…………?
そこで気づいた。
目の前の俺、マッパだ。何にも着てない。
そんな状態で堂々と隠さずに立っていれば大事な息子も見える。
「ちゃんと出来たようね」
「確かにそっくりってか息子の形や向きまで一緒なんですね」
「恥ずかしくないの?」
「別に見られて減るもんでも無いし、男なら皆持ってるもんで珍しくも無いですからね」
この考え方はおかしいのだろうか?と思う時もあるが、別にマッパ位でキャーキャーする程若くも無いし。
まぁ、その辺は人それぞれだな。
ドッペルゲンガーはまだ起きてないのかボーッとしてる。
「まぁ、ドッペルゲンガーは覚醒までもう少しかかるだろうし、そこにあるタオルでもかけといて」
近くの窓際にあったおかしなデザインのタオル?をドッペルゲンガーにかぶせて近くの椅子に座らせる。
(ホントに俺自身だな)
上から見下ろす形でまだボーっとしているドッペルゲンガーを見ながら思う。
髪型も同じだし、体つきや息子まで……。
「それじゃあドッペルゲンガーの機能だけど」
マスターが何事も無かったようにその機能を説明してくれた。
「基本的に本人と性格や思考、癖なんかも全く同じよ。更にその核を持っていれば念話でいつでも連絡を取る事が出来るわ。あとは離れていた時に起きた出来事なんかを記憶を共有する事で知る事も可能。核は他人に渡す事は出来るけど念話出来るのは本人だけで、壊すのも貴方にしか出来ないわ」
なかなか破格の性能じゃなかろうか?
良くある、AIの暴走とか反逆を考えたが性格や思考が俺と同じならその心配は無いな。
自分の事だからそこは安心できる。
「他に何か聞きたい事はある?」
そう聞かれて考えても今の所聞く事はない。
「今は特に無いですね」
「そう。じゃあ早速今から4代目管理者をお願いね」
微笑みながら手を出してきたからそれをとり、握手をする。
「了解です」
握手をした瞬間その手から何かが流れ込んできた。
不快な感じはせず、何やら暖かく優しい、それでいてどこか悲しげな感じがした。
それを見届けてマスターが手を離した。
「はぁ〜。やっと開放された〜」
「あ、これからどうするんですか?」
「あなたは奥の部屋にあるモニターから適度に世界の監視と管理をお願いね。大丈夫、見たらわかるから。私はやっと自由になれたし、たまりに溜まったお金があるから自由に暮らしてくわ」
満面の笑みでそう言ってきたマスターはどこか憑き物が落ちた様にも見えた。
「まぁ、了解です」
そこで今後の予定を考えていた時にまだマスターの名前を聞いてなかった事に気づいた。
鼻歌を歌いながら奥の部屋で私物を纏めているマスターに聞いてみる。
「そう言えばまだ名前聞いてなかったですけど、聞いても良いですか?」
纏め終わった荷物を持ちながらマスターが出てきた。
「あ、忘れてたわね。私は 藤山 林よ。よろしくね」
ニッコリと笑いながら教えてくれた。
「俺は 鈴鳴 鋼詩です。分からない事があったらよろしくねお願いします」
そうして今更な自己紹介が終わった頃にドッペルゲンガーが起き上がってきた。
ようやく覚醒したらしく、あたりを見回して俺の姿を見つけると少し驚いた顔をした後に近づいてきた。
「色々言いたい事とか聞きたい事があるだろうけど、先に服を貰っても良いか?流石に俺だけマッパなのは何かの罰ゲームみたいな感じで泣けてくるんだが……」
確かにその通りなんだが、俺は着替えなんて持ってない。
ただ出かけるだけなんだから着替えを持つ方がおかしい。
そこでマスターこと、林さんを見て何かある?と視線で聞いてみた。
「それならそこの扉を、自宅に通じるように念じながら開けてみて」
そう言って指差したのはお店の奥にある、今までトイレだと思ってたドアだ。
ドアの上にはちゃんとトイレのマークがあるからトイレで合ってる筈なんだが……。
「あそこってトイレじゃないんですか?」
「普通に開けたり、管理者以外が開けるとトイレになるわね」
その言葉に?を頭に浮かべながらとりあえず言われた通りに、自宅を思い浮かべながらドアを開けてみた。
「おぉ、パネェ。どんな仕掛け?」
開いたらドアの先は今朝出てきた俺の家だった。
ドアの間に立って自分の部屋とカフェを見て、ドアをキイキイと揺らしながらあちこち観察する。
「はいはい。パないけど先ずは俺の服な」
堂々と俺の部屋に入って着替えをしだす自分を見て、服の場所もやっぱわかるんだなー、なんて考えてたら。
「よしっと。じゃあ準備も終わったし、着替えが終わったら私は行くわね」
「あ、今のうちに連絡先教えて貰っても良いですか?」
「そうね。はい、私の連絡先」
差し出されたスマホに表示されているQRコードを俺のスマホで読み込んで、今度は俺の連絡先を教える。
そうしていると着替え終わった俺が出てきた。
「お、美人の連絡先ゲットだな。イタズラすんなよ」
笑いながら言ってきた自分を見つめて(あぁ、確かに俺だわ)なんて実感して。
「……お前、それって凄いブーメランなのわかって言ってる?」
わかってなかったのか視線をそらしてカウンター席に向かっていく。
「じゃあ何かあれば連絡ちょうだいね。何にも無くても話し相手にはなるわよ」
微笑みながら言われてあんまり嫌われてなくて良かったと一安心。
「たまには遊びに行ったり、ご飯でも食べに行きましょう」
「あら、早速デートのお誘い?」
「そんなとこです。ダメですかね?」
「ありがとう。その時は連絡ちょうだいね」
そう言いながらドアを開けてその向こうへ入って行く。
「じゃあ、また」
「ええ」
お互い手を振りながら挨拶を交わしてドアが閉じる。
しばらく待ってドアをもう一度開けてみる。
するとそこはただのトイレだった。
「ま、良いか」
ちょっと名残惜しく感じで何となく開けてみたけど、向こうに林さんが居ることもなく。
「さて。これからどうするかね?」
俺はそう言いながらカウンター席に座って大量の諭吉さんを数えている自分に声をかける。
「とりあえずなんて呼ぶかだよなー。お互いに俺なんだから名前変えた方が良いよな?」
「どっちが元の世界に戻るかによるんじゃないか?ここに残る方が名前を変える方向で」
さすが俺だ。
みなまで言わなくてもわかっている。
確かに俺が二人共元の世界に戻ったら確実にめんどくさい事になる。
「じゃあ、名前は考えておくとして。まずはスマホをもう一台と、バイクを家に戻しとかないとな」
「俺用の?」
「そ。機種は今使ってるやつで問題ないっしょ?」
「問題無い。じゃあ俺はここで名前でも考えとくさ」
「よし。んじゃ、俺はその諭吉さんで色々な支払いして、スマホ買ってくる」
「オッケー。これで人生ウハウハだな」
「だな」
お互い笑い合いながらこれからの生活にいろんな妄想を膨らませながら、俺が諭吉さんを1束持って出ていく。
「あ、ついでに念話ってのも試してみるなー」
「はいよー。いってら」
「うい。いってきま」
自分に見送られるなんて不思議な感覚だ。
にしても、こんな簡単に神様になって良いのだろうか?
昔の人は善行を積んで苦行の果に神に近づくなんて考えてたのに、なんの善行も積んでないし、苦行とは程遠いだらけた生活送ってた俺が神になっても良いのだろうか?
今度林さんに聞いてみようと考えながら帰路につく。
これから管理者の仕事の大変さを思い知る事になるとは知らずに。
次からようやく話が進みます。
読んで下さいましてありがとうございます。