S とある冒険者の話 1
「なぁ、この依頼マジか?」
男は近くに居た仲間の冒険者に声をかける。
話しかけられたのはレザー装備に身を包む、斥候職か軽戦士か。
依頼表から目を話さない仲間を見て、おかしな依頼でも有ったのかと横から依頼を覗く。
「どれどれ?…………は?こんな簡単な依頼でこの報酬!?絶対裏が有るだろ!止めとけ止めとけ」
「そうだけどよ。もし裏が無かったら?」
「……メチャクチャ美味しいな」
「だろ?ちょっと聞いてくるわ」
そう言って軽鎧に身を包む男は、自身のギルドカードを翳して依頼表の情報をカードに読み込む。
その足で受付まで行き、丁度手の空いてるスタッフに声をかけた。
「ちょっとすまん兄ちゃん。この依頼について詳しく教えて欲しいんだが」
スタッフは笑顔で男を見たが、その依頼を見て苦笑を漏らす。
「あぁ、その依頼ですか。やっぱり皆さん聞きに来ますよね」
どうやら話を聞きに来たのは自分達だけじゃなかったらしい。
その事に思い至った男は、先を越されたか!?と身構えたが続くスタッフの言葉に安堵する。
「人数制限が無くてその報酬ですからね。皆さん何かあるんじゃないかと聞きに来るんですよ。白樹の森の探索、期限は1月。人数制限は無く、ただ探索するだけで銀貨50枚の報酬。しかも中央部に到達出来ればボーナスで金貨10枚。大丈夫ですよ。怪しいかも知れませんがちゃんとした依頼です。既に何組か出発してますし」
「ただ探索するだけ?具体的には何をしたら良いんだ?」
「一応森の中央部を目指して欲しいそうです。依頼主がそこに居るので、辿り着ければって事でボーナスらしいですよ」
「厄介な魔物を森に放ってるとかか?」
「いえ、単純に依頼者が森に魔法を掛けたのでそれがどの程度使えるかのテストですね。幻術の魔法が掛かってる以外は安全ですよ」
それならメチャクチャ旨い依頼じゃないかと思って、仲間の方を振り向いた男は声を上げた。
「うおっ!何だお前ら!」
男の後ろには他の冒険者パーティーが大勢居た。
恐らく話を盗み聞きしていたのだろう、その顔は皆笑顔だった。
「俺達も受けるぜ!」
「俺もだ!」
「こっちも受ける!」
次々と依頼を受理していくパーティーを見て、男は慌てて自身も依頼を受けた。
「お前らキタねぇぞ!俺も受ける!」
「冒険者は狡猾なれ。ここのギルドで習っただろ?」
その言葉に周囲の冒険者もうんうん頷いている。
「そうそう。お前等が受ける依頼だから絶対儲かるしな!」
「ボーナスは俺達、『紅の風』が貰ったぜ!」
そう言って赤を基調とした装備に見を包むパーティーが飛び出していった。
それに釣られるように他のパーティーも飛び出していく。
慌てて飛び出そうとした男を仲間が止める。
「落ち着けタロム。慌てなくてもボーナスは逃げねぇよ」
「金貨だぞ!金貨!何でそんなに……落ち着いて……」
仲間に振り向いた男、タロムはその仲間の顔に妙な安心感を覚えて、発した言葉が段々と尻すぼみになって行く。
笑っていた。いや、正確には嗤って居た。
こいつがこんなイヤらしい嗤い顔をする時は決まって、確実に儲けることが出来るときだ。
同じ村の出身で小さい頃からの付き合いがあるタロムには理解出来た。(あぁ、今回も儲けられるな)と。
「で、ギルドの兄ちゃん。その依頼、他に情報があるんじゃないか?」
自分達だけになったギルド内でそう問い掛ける男。
暫くキョトンとしていたスタッフは小さく笑って答えた。
「ええ。これは聞かれたら答える様に、と依頼者が言っていたんですが、良く気付きましたね」
「タダの勘だがな」
「相変わらず良い勘してますね。流石は『守銭の魔狼』のリーダー、ゼルファーさん」
言われた男、ゼルファーはニヤリと笑った。
「それで、情報なんですが……」
そう言ってスタッフは1枚の紙切れを差し出した。それを受け取り、その場で読まずに紙切れを懐に仕舞い込む。
「読み終わったら自動で消去されるので、内容は忘れない様にして下さいね」
「おう。んじゃ、行くぞタロム」
タロムを引き連れて他の仲間の所へと歩き出すゼルファー。
そんなゼルファーの背中を見ながらタロムは、儲けたお金で何を買おうかと考える。
欲しかった新しい武具も買えるし、暫くは遊んで暮らせる。
ニヤニヤと指折り考えていたら仲間の居る宿に着いた。
「デカイ仕事が入ったぞ!」
宿屋の一室を勢い良く開けながら、満面の笑みでズカズカと入って行くゼルファー。
「「……へ?」」
その目の前には着替え途中なのだろう、下着姿の女性が2人。
「ん?また大きくなったか?」
何が、とは言わない。言えない。
次の瞬間には2人の女性によって魔法で外まで吹き飛ばされたからだ。
「こんの変態!」
「いい加減ノックをしろ!」
「んがべらっ!!」
吹き飛ばされて行くゼルファーを横目に、タロムは溜息を吐き出す。
「わざとなのか、天然なのか……。これが無ければかなりモテるんだろうけどなー」
部屋の外で待機していた彼は学習していた。
何度も彼と一緒に飛ばされれば嫌でも覚えると言うものだろう。
そしてゼルファーが部屋の前に戻って来るタイミングで、女性2人も部屋から出て来た。
「いってー……ふっ飛ばさなくても良くね?」
「黙れ変態」
「毎回毎回。あんたアホなの?アホでしょ?」
「そこまで言わなくても良いじゃん。なぁタロム?」
「俺にふるなよ」
「うっわ。仲間に見放された。もう無理、やってけない」
ガックリと肩を落として、見るからに凹んでいるゼルファーからは、慰めても良いんだぜ?といった雰囲気が漂ってきてる。
そんなのもいつもの事なのか、3人はゼルファーを無視して話を進める。
「で?そこのアホが言ってたけどデカイ仕事って?」
「あぁ、さっきギルドで受けて来たんだけどな。白樹の森があるだろ?あそこを探索するだけで銀貨50枚の報酬!」
「マジで!?」
「マジマジ!更に、森の中心部に到達出来れば金貨10枚のボーナス!」
「クッソ旨い依頼じゃん!」
「だろ?」
「それであんたニヤニヤしてたのね」
リーダーであるゼルファーを無視して話が弾む3人。
構ってもらえない当のゼルファーは……。
「……俺、リーダー何だけど?…………マジで泣くぞチクショウ……」
絶賛凹み中だった。
そんなこんなで、とある冒険者パーティー『守銭の魔狼』は白樹の森に入って行った。
だいぶ遅れました。
次も遅れます。
お読み頂きありがとうございます。




