第3話 そんな展開にはならない感じ
「じゃあ何が聞きたい?」
満面の笑みでそう聞いてくるマスター。
なんか、既にこの話を受ける方向になってるけどしゃあない。
あんなに沢山の諭吉さんを置いて帰る事は俺には出来ない。
(待ってろ諭吉さん。今助けてやるぞ)
そんな妄想を膨らませながらとりあえず気になった事を聞いてみる。
「給料日はいつですか?」
そう言ったらマスターがキョトンとした顔をしている。
確かに他にも聞く事はあるけどこれは大事だ。
だって給料日だぞ?嫌な仕事も給料日を心の支えにして頑張れるんだから。ビバ!給料日!
「え〜っと、給料日?それは毎月1日ね」
(月始めか……イイね!)
今日が丁度月半ばだからあと半分!
1か月分無くても半分で500万……。
(ふおぉー!!テンション上がってきたー!!)
「そ、それで、仕事内容はどんなもんですか?」
ヤバイ、あまりの大金にテンションさんがおかしな所に旅立とうとしてる。
落ち着け。テンションさんがどっか行く前に捕縛しとかないと。
深呼吸……深呼吸……。
「内容は簡単よ。この世界と他2つの世界を管理する事」
よし、大分落ち着いてきた。
「管理って具体的には何を?」
「世界が滅ばない様に監視をして、必要なら色々干渉する。それでも駄目な時は一度世界をリセットして再度監視」
「それって滅んでも構わないって事ですか?」
滅んだら駄目と言いながら滅ぶ時はしゃあないってか?おかしくないか?
「大事なのは3つの世界を管理してるって事。だから滅ぶのならそれは仕方無いから新しく作って3つに戻すの」
「3つの世界に意味はあるんですか?」
そう聞くと少し苦笑しながら申し訳ないように言ってきた。
「一応そう言うルールで、私も詳しく聞いてないのよ…………興味無かったし」
今最後にボソッと本音が漏れたな。
と言うかルール?誰が決めたんだ?
「そのルールは誰が決めたんですか?」
「他の世界の神々とで作ったみたい。詳しいことは私も初代管理者から聞いてないのよ。あ、ちなみに私は3代目」
(初代?3代目?神様は代替わりするもんなのか?他の世界の神々って神様連合みたいな?)
「ちなみにその初代管理者と2代目管理者はどうしたんですか?」
そう聞くと、ちょっと言いにくそうに考え込んだ。
なんか聞いちゃいかん事聞いたか?
考えが纏まるまですっかり冷めたコーヒーを飲んで待つ。
(あ、冷めても美味い。何これ凄い)
「初代管理者と2代目管理者の事なんだけど、先ずはこの仕事の禁止事項を説明するわね」
「あ、はい」
それを言わないと分からない事なんだろうな。
もしかして今から話す禁止事項を破ったからクビになったとか?
「まず、この世界に必要以上に干渉しない事。今みたいにちょっとした災害が起きるレベルなら問題無いけど大陸が1つ消えたり、人類の半分が死滅したり、複数種類の生物が絶滅するレベルでの干渉は絶対にダメ」
(いやいやいや、ちょっとした災害も駄目だろ。大陸が消えたり人類の半分が死滅ってもう世界終わってね?そもそも干渉のレベルがわからん)
「あの、そんな大災害が起きる程の干渉って?」
「死人を蘇らせたり、意図的に大虐殺をしたり主に生死に関わることね」
死者蘇生したら大陸1つ無くなるとか笑えねー。
対価でか過ぎだろ。
某RPGゲームなら神官が勇者を「おお、勇者よ情けない」とか言って復活させる度に大陸が消滅してる事になるぞ。
魔王も勇者を倒したと思ったら復活するし大陸消えるしで無理ゲーじゃん。
「次に、万が一今居るこの世界が滅びそうになったら初代管理者と他の神々に緊急で連絡する事。連絡の仕方は実際に仕事をしだしたら教えるわ」
「ん?この世界はリセットしちゃ駄目なんですか?」
流石に自分の居る世界は滅んでほしくないが。
それに初代管理者が居るならそいつに任せたら良いんじゃないかと思ったが、それを言ってこの話が流れたら大量の諭吉さんが奪われてしまう。
それだけはマズいから黙っておこう。
「えぇ。この世界だけはかなり特殊でね、一応放置してても自然に滅ぶ事は無いんだけど、下手に干渉し過ぎたりしたら滅ぶ事もあるの。丁度2代目管理者がそれで大変な事になったからね」
そう言って悲しい顔をする。
やっぱり禁止事項を破ったのか。
「その2代目さんはどうしたんですか?」
「存在そのものを消されたわ」
あぁ、リアルに首チョンパされたのか……。
そして罰が重すぎる。
他の世界はリセットしても良いのにこの世界だけダメと。
特殊って言ってたけど何が違うんだ?
「特殊って何がですか?」
「その辺も暫くしたら教えるから先に初代管理者の事を話すわね」
あ、話をそらされた。
まあ、後で教えてくれるんだしその時で良いか。
「初代管理者は今この世界で普通に生活してる」
「え?それって大丈夫なんですか?干渉し過ぎになりません?」
「ただ向こうに行くぐらいなら何も問題無いわよ。それに初代管理者はなんの力もなく、ただの一般人として人生を楽しんでるから」
それってこの超高収入の今んとこかなり楽な仕事よりも理不尽で溢れてるキツイ仕事を選んだって事?
初代管理者はドMの変態?それともバカ?
「はぁ、変わってる方なんですね」
「かなりの変態よ。しかも超ド級の」
わざわざオブラートに包んで言ったのに凄く嫌そうな顔をしながら言い切った。
そんなにか?何かされたのか?
初代さんについてもっと聞きたかったけどこれ以上は話したくないらしく、聞くなオーラを出してる。
「他に聞きたいことはある?」
「あ、じゃあ研修期間とかあるんですか?後、さっき言ってたドッペルゲンガーって言うのは?」
「一応一月が研修期間ね。それが過ぎても分からない事があれば連絡してくれたらわかる範囲で教えてあげる。後で連絡先教えるわね。ドッペルゲンガーはね…………」
そう言ってカウンター横のドアから中に入っていった。
それよりもマスターの連絡先ゲット!
美人の連絡先とか有難すぎて泣けてくるよ。
これから始まる恋……見たいな?
そんなアホな事を考えてニヤニヤしていたらマスターが戻ってきた。
その手にはちょっと大きめのビー玉位のサイズの水晶が。
それをカウンターに置きながら自信たっぷりに話す。
「これがドッペルゲンガーの核になる物ね。これに血を垂らして暫く握っていてもらうと登録出来るわ。ホントは飲み込んだ方が簡単なんだけど流石にこの大きさは……ね?」
出来る?見たいな顔で見てくるけど無理だからな?
あんなデカイの飲めるか。
間違いなく喉に詰まって窒息する。
「流石に飲めないですね。血を垂らすってどれぐらいですか?」
これでダバダバと垂らせとか言われたらマスターの頭を疑う。
でもそんな心配は杞憂に終わる。
「1滴位で大丈夫よ。指先をチクッとして垂らす位で」
それを聞いて安心したけど1つ問題が。
「あの、痛いの凄く苦手なんですけど……」
そう。かなりの痛がりなんだ。
未だに健康診断の採血をする時には少し震える。
看護婦さんには「大丈夫?見ない方が気が紛れるよ」何て言われる。
個人的には見ない方が怖いからじっと凝視するけど。
そんな事を言ったらマスターが可愛く微笑みながら
「大丈夫。優しくするから」
なんて言ってきた。
そこだけ聞けば凄くいかがわしい感じに聞こえてドキッとするけど、如何せんその手に持つ小さな針のせいで台無しだ。
「出来れば別の状況で聞きたかったセリフですね」
引きつった笑顔をしながら言ったら今度は更に魅惑的に笑いながら手を差し出してきた。
「フフッ。それはどんな状況なのかな?」
その雰囲気に和まされつつ嫌々ながら右手を差し出す。
(あ、柔らかい)
その手を取られる時に触れた手は女性特有の柔らかさがあり、針が迫ってるのも忘れてマスターの手に集中して、変な妄想が膨らみかけた時に「はい」と言って手を離され、その時に水晶を握らされた。
少し名残惜しそうに自分の手を見てみれば中指の先にプクッと血が出てきてた。
「それを水晶に当てながら握ってて」
言われた通りに中指の先の血を水晶に当てるように握り込む。
「これってどれ位握っとくんですか?」
そう言いながら握られた水晶を見てみればおかしな感覚がする。
水晶の表面はつるつるしてて血が表面を伝って流れて来るはずなのに、ほんの少しずつ水晶に血が吸われてる様な感じが。
ホントに集中しないと気付かない位の感覚だから気のせいかな?と思ってたらマスターがその手にアイスの乗ったお皿を持って隣に座り直してきた。
「はい。これはサービス。これを食べ終わる頃には終わるはずよ」
やっぱいい匂いだ。
と、そんな事じゃなくて。
「ありがとうございます。いただきます」
ひとまずこちらに微笑んできてるマスターを可愛いと思いながら、アイスを食べる。
なかなか美味しく、味はバニラ。
ヒンヤリとしたアイスで冷静になりながら他にも聞きたい事を聞いておこうと話しかける。
「あの、勤務時間とかはどうなんですか?」
マスターもアイスを美味しそうに食べ、口に含んだスプーンを出しながら「美味し」なんて言って。
……ちょっとそのスプーン俺と変われ。なんて羨まけしからん。
「勤務時間は基本的には自由よ。監視するだけだからたまに見て、問題無かったら後は好きにしてて良いし。休みも好きに取れるわよ。ただ、問題が起きたら対処が終わるまでは帰れないけど」
自由出勤で自由退社。しかも休日も自由に取れる。
ザ・ニート暮らしじゃん!
給料はあり得ないぐらい良くて拘束時間もほぼ自由。
問題が起きればその限りじゃないけどホワイト企業が霞んで見える位の高条件じゃん!
それを聞いて様々な妄想を膨らまして、ニヤけながらアイスを食べていると握っていた水晶がほんのり光り出した。
「あら、案外早かったわね。それじゃあ後ろを向いて右手を前に出しながら手を開いて」
マスターはアイスを食べ終えてコーヒーを飲んでいた。
言われるがままにカウンターを背にして右手を差し出す。
手を開いたら水晶が激しく光りだして、あまりの光に俺は目を瞑り左手で目を覆う。
そして光が収まった時には目の前に俺がいた。
まだまだ話は進みません。
それでも読んでくれてありがとうございます。
もう少ししたら話が進む。かも。