第35話 朝の一騒動って感じ
元奴隷のタバルは冷汗を流しながら頭を抱えていた。
周囲に居る彼の友人達はどうしたんだ?と、首をかしげている。
昨日飲み過ぎて辛いのかな?と思い、声をかける。
「おい、タバル。大丈夫か?」
そのタバルはガバッと勢い良く顔を上げると友人に掴みかかった。
「大丈夫じゃねぇよ!お前ら昨日の事覚えてないのか!?」
ガクガクと揺さぶられながらも友人は何とか答えた。
「お、落ち着けって!昨日の事なら覚えてるよ!皆で奴隷解放を祝って盛大に飲んだからな。それがどうかしたのか?」
「どうかしたのか?じゃねぇよ!お前、その酒の席に主が居たの分からなかったのか?」
言われて、友人達ははて?と首を傾げる。
まさか俺達奴隷をこんな大量に買った財力だけで無く、怪我や病気、持病まで治してくれた奇跡としか言えない凄い力を持った人が俺達なんかと飲むわけがないじゃないか。と。
それに、普通に考えて奴隷と肩を並べて飲むとか考えられない。
彼等の常識では、奴隷を足蹴にしたり奴隷を椅子代わりにして飲むのが普通の事だった。奴隷の扱いなどそんなもんだと。
もちろんそれはタバルも同じ考えだったが……。
そんな友人達を見てタバルは更に顔を青くした。
「お前ら……マジかよ。昨日皆が飲み始めて暫くしてから混ざって来た奴が居たのは覚えてるよな?」
「あぁ。あの妙に明るくて良く笑う男だよな?」
「覚えてる覚えてる!やけにノリが良くて飲み比べしたり、誰が1番可愛いかとかで盛り上がったよな」
「そうそう!しかもアイツ、リリト様が1番だとか言いやがって、皆で怖いもの知らずだなって話したよな」
「まさか俺らの大恩人の相手を狙うとか!アイツも今頃やっちまったーって頭を抱えているんじゃないか?」
「ちげぇねぇ!」
そんな話をしながら笑う友人達を見て、終った……短い人生だった。と項垂れるタバル。
それでも教えてやろうと諦めきった顔で友人達に話す。
「そいつが誰なのか教えてやろうか?その大恩人様だよ」
それを聞いて一瞬キョトンとした友人達だが、次の瞬間には盛大に笑っていた。
「あっはっはっは!何を言ってんだよお前は!そんなわけ無いじゃないか!」
「なら聞くが、奴隷だった時にアイツを見たやつは居るか?」
言われて考えて、あれ?そう言えば……と漸く気付き始めた頃、別の場所でも同様の事が起こっていた。
「だから!今から皆で謝りにいけば何とかなるかもしれないじゃない!」
声を張り上げるのは昨日迄は片足が無く、一人では歩くのも大変だったスーイだ。
歩けない私を買う理由なんて囮かストレス発散用だろうと諦めていたら、小さい怪我だけで無く、失ったはずの足まで治してもらい、更には衣服や食事まで与えてくれた。
スーイは何が起きてるのか理解出来なかった。
四肢の欠損を治すなど、この世界に居る5人の覇者の中の1人『奇跡の英雄クリス』様しか居ないと思ってたからだ。
それなのに足は元通りになり、奴隷からも解放された。
あぁ、これはきっと死ぬ前に見る夢なんだと思い、どうせ最後の夢なら思いっきり遊んで、腹一杯飲んで食べて終わろう。
そう考えていたのに目が覚めてもまだあの幸せな夢の中にいる事に更に混乱した。
まだ夢が続いてるのか?いつ覚めるんだ?いや、もしかしたらもう死んでしまっているのではないか?だとしたらここは天国か?
と、1人悶々としていると周囲にも同じ様に混乱している人達を見つけた。
しかも、一人や二人じゃなく、大勢が。
中にはお互いに殴り合って、夢じゃない……と呟く人まで居た。
スーイも恐る恐る自分の腕を抓ってみた。
「痛い…………夢じゃない?……じゃあ…………」
そこまで考えた所で、漸く昨日自分がした事を思い出した。
酒に酔って、どうせ夢ならと着ていた服を全て脱ぎ捨て走り回り、大恩人ニール様に似た人が居たから飛びついて甘えて、頭を撫でてもらったり、一緒に肩組んで飲んだり、脱がしにかかったり…………。
スーイの顔色は真赤から一気に真青に変わっていく。
ヤバイ……どうしよう……と。
そして周りの人達もニール様に見せた醜態に気付いて真青になって行く。
だがスーイは諦めなかった。
あんなに優しい人なんだ、謝ったら許してくれる。
それはもはや願望に近い物だった。
だから声を張り上げ、皆で謝りに行こうと周囲を説得する。
そして皆を連れて急いでニール様の家の前に跪いた。
それは、まだ日が昇る少し前の出来事。
「え?…………何これ?どうしたの?」
ニールの目の前には平伏した姿の村人達がいた。
困惑するのも当然だろう。
妹を抱きまくらにして寝ていたニールがリリトに起こされ、家の前に村人が集まっていると聞いて来てみればこれだ。
もしかして先に寝てしまったのをマズイと思ってるのかな?と考えながらも、どうしようかとそばに居たリリトを見た所で先頭に居た村人が話しかけてきた。
「昨日はすいませんでした!」
そう言われた所でニールとしては、何が?と言う感じなので素直に聞いてみることにした。
「昨日何かあった?」
村人達は更に顔を青くした。
中には今にも泣き出しそうな人も……てか泣いてる人も居る。
(敢えて自分達から言わせる位怒ってる!)
村人達はそう思っていた。
ニールとしては、何時までも皆を土下座の格好にさせておく趣味も無いので立ってもらおうと声をかけた。
「まぁ、取り敢えず話しにくいし皆立って欲しいんだけど」
「す、すいません!どうかお許し下さい!」
ニールは更に意味が分からなくなって、リリトに助けを求めた。
「ねえ、これどう言う事?」
「恐らく立ち上がったらそのまま帰れと言われるか、折檻を受けると思っているのでは?」
「え?何で?」
「それが奴隷の常識なので」
ますます意味が分からなくなり、段々イライラしてきたニール。
自分の知らない事で責められてる感じがしてきてイライラが募る。
立ち上がらせようとしても謝るばかりで聞かない村人達。
そして、ニールの堪忍袋にちょっとだけ穴が開いた。
「話が出来ねぇつってんだろ?良いから立て」
先頭に居た一人を掴んで無理やり立たす。
それを見た村人達パニック。
もはや啜り泣くどころか大号泣になっている者、ガタガタ震えてひたすらに謝る者……混沌。
立たされた者はガタガタと震え、声に成らない声しか上げない。
堪忍袋に穴が開いて少し余裕が出来たのか、ニールは手を離しながら村人達に優しく声をかける。
「怒ってないから、まずは話をしないと分からないぞ?と言うか、そうやって話をしないで謝るだけの方がイライラするからな?」
それから暫くして皆が落ち着くのを待って再度話しかける。
「早く話して、皆で朝飯食うぞ。ほら、腹も空いてきただろ?取り敢えず、昨日何かあったか?」
「は、はい。酒の席とは言え、ニール様に数々の失礼を……」
「うん。それが分からん。失礼な事をされた覚えが無いんだが?」
「え?……いえ、昨日抱き付いたり肩を組んだり馴れ馴れしくしてしまって……」
「え?」
「え?」
ニールは抱きつかれたのは逆に、ありがとうございます!と言う感じで、肩を組んだのも楽しかったからで何とも思ってない。
そこを申し訳ないと謝りに来ていたんだと思い至り、盛大に溜息を吐き出して。
「そんな事かよー。何か疲れた。サッサと飯食うか。リリト朝ご飯出来てる?」
「はい。少し冷めてしまってますが温め直しますか?」
「いや、冷や飯最高じゃん。そのままで良いよ」
訳のわからない村人達。
「ほら、何時までもそんなとこに居ないで飯食うぞ。それに、お前らはもう奴隷じゃないんだし、もっと気楽にしても良いぞ?馴れ馴れしい位で怒る奴なんてたかが知れてるでしょ」
「……あ、ありがとうございます!」
先頭の村人がお礼を言えば、皆もお礼を言いながら立ち上がる。
(こりゃ先が思いやられるなー)
そんな事を思いながら未だに寝ているレトを起こしに行くニールであった。
(………………なぁ、最初っから心言把握で見た方が早くなかったか?)
(いやー、それはつまらんでしょ)
(そうそう。明らかに敵なら見るけどさー)
今度こそ遅れます。
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