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第二話 貧乳にも夢がある!


「ボンジュール、マドモアゼル」


 ギルドの受付に例の吟遊詩人が来たとジローから報告が来たのは、魔法で呼びかけて貰ってから早一週間だった。


 吟遊詩人と聞いて勝手にイケメンだと思ってました。世の吟遊詩人さん、ごめんなさい。黒いお髭が素敵な……歌よりお酒が好きそうなナイスミドルです。たぶん、お腹でも良い音が鳴ると思います。


「マスター、以前話していた吟遊詩人のセルバです。セルバ、この方がギルドのマスター、アンナ・ナカガワです」


「マドモアゼルだなんて。……恥ずかしゅうございます。アンナ・ナカガワと申します」


 頬に手を添え、首を傾げた。その後軽く膝を折りながら、ゆっくりと両手でスカートを摘み広げる。背筋はまっすぐに。淑女らしい動きに見えるだろうか。遠い昔に習ったことだからうろ覚えだ。


「何そのしゃべり方。こわ。大人の女性ってゆーか、上品ってゆー意味のマダム感がないからじゃないの? 母さんは」


「マダム・アンナはとても可愛いから、こんな大きな子どもがいるようには見えないよ〜」


「正しくはマダム・アンナではなく、マダム・ナカガワですね。関係を疑われます。宮廷では気をつけた方がいい。変に勘ぐる奴がまだ居座っているらしいからネチネチ言われますよ。ウチを巻き込まないようにしてください」


 息子をシメながら、嫉妬してくれてる彼に心がときめく。独占欲かな? うふふ。


「母さん。キモい」


「うふふ」


 息子をノックアウト!


「イジメは女の子に嫌われちゃうぞ。ママは淑女なんだから、か弱いんだぞ」


 か弱い淑女に抱きしめられたら気絶しちゃうだなんて、全く息子は弱過ぎる。


「ジローが幸せそうで良かったよ。マダムは面白い人だね〜」


「否定はしません」


 彼はそう言うと、息子を起こしてカウンターで受付でもさせてて下さい、と私に仕事をくれた。私は快く答え、寝ている息子を引きずりギルマスの部屋を出た。


 ウチの階段は降りたらもう、受付兼玄関ホールだ。弱小ギルドは敷地面積も狭い。たぶん、求職者が二十人くらい入ったら身動きしにくくなると思う。そんなに人が入ってるとこ見たことないけど。


 軋む階段を息子を担ぎながら降りる。


 ……今日も元気に閑古鳥が鳴いていた。


 息子を床に転がしといて、窓枠に寄る。


 メチカ王国の朝廷は、隣国であるサラガ公国の政変後の支援に乗り出した。恩を売っとくのはいいけど、ギルド乱立の法案は如何なものかと思う。大きな街だと三、四つは新立した。仕事量は分散したけど、混乱は増加してると思う。この町はウチと大手ギルドさんの分店が二つあるだけだけど、これからどうなるのだろう。



「姐サン、今日仕事アル? ナイ?」



 亡命してきたと思われる男性に町の仕事を案内すると嫌そうな顔をされた。そうそう用心棒なんて仕事ないですよ? 最近は全国的に魔物も現れてませんし、討伐依頼ももちろんありません。至って平和です。


 求職者は清掃の仕事はイヤだったらしく、無言で去っていった。息子よ、今日の正午までに誰もこの仕事引き受けなかったらお前が行くのだぞ。


「母さんはギルマスだろ。話に加わんなくていいのかよ」


「適材適所。難しい話、細かな決め事なんかはダーリンに任せるに限る!」


「ところで、ダーリンってどうゆう意味?」


「ふっふっふ。マシェリ(愛しい人)って言う意味だそうだよ。息子よ、覚えておくが良い」


「父さん、言葉の意味知ったら微妙な顔しそうだね」


 その通りだ。けれど、微かに嬉しそうな顔をしているような気もする。愛は伝えるに限る。彼の嫌そうな顔もまた好きだ。


「セルバさん、引き受けてくれるといいね」


 誰だ? セルバって。あ、さっきの人か。


「ダーリンに任せる!!」


「父さん、がんばれ」


「お前もなー。町の用水路の清掃、いってらっしゃい」


「イヤだね、母さん行ってよ」


「キイチ君、母は君の部屋のイメチェンをしたいな」


 風薫る男前クールブラックな素敵な部屋にしてみたいのだ。濃紺や深い紅色を差し色クッションに使って、魔物の毛皮を床に敷いとけばすぐできるだろう。調達が難しそうな毛皮はダーリンにお願いしよう。うん、いい考え。採用!



「模様替えは勘弁して下さい。行きます。行かせて下さい。そして、部屋には入らないで下さい」



 息子の懇願を聞き入れ、受付に座り直す。


 自室の机の引き出しが二重底になっている無駄に器用な息子の趣味を、母は優しく受け止めようと思っている。

 でも帰ってきたら、女性は胸で判断してはいけない、と伝えようか悩んでいるうちに日が暮れていった。


 お酒を呑みに行くと言う彼とセルバさんをカウンター内から見送り、ギルドを閉める。


 これからはセルバ先生と呼ぶべきか、ムッシュ・セルバと呼ぶべきか、ぼんやり私は考えていた。

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