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第一話 ギルマスはつらいよ。

 閲覧ありがとうございます。


 ハイファンタジー初挑戦!

 十話以内を目安に完結しようと思います。

 不定期更新になると思うので、あしからず。


 海が見たい。

 泳がなくてもいいんだ。

 ただ、海辺を歩きたい。


 なぜ、私はこんなにも忙しいのだろう。


「手が動いてませんね。休憩ですか」


 無表情なのに愛情を感じる。この部屋の気温が低くなったのは、きっと夕暮れ時だから。カーディガンでも羽織ろう。部屋の中なのに小雪がすごい速さで舞っているのが見える。だけど、氷の結晶は机には落ちてない。大切な書類は濡らさない、そんな細やかな彼の優しさが嬉しい。


 でも、今日こそはそんな優しい彼に言いにくいけど言わなければならないことがある。


「ダーーッリン! 私、ギルマスやめる!」


「は? 誰のことですか? そんなことより、またサラガ公国からの亡命者が増えました。国王からの伝達がありました通り、我々は亡命者の庇護をしなければなりません。難民キャンプ場を整えるだけではなく、彼らの今後のことを踏まえ、地域の安定も考慮に加えた……ってマスター、聞いてますか?」


「あー、もう。フツーの女の子に戻りたい!!」


「女の子って年じゃないでしょ、母さん。父さんの言う通り、求職者は毎日増えてるし、難民手続き場はいつも何か揉めてるし。小さくてもギルドなんだから少しは街に貢献しよーよ」


 ため息をつきながら、ツッコミを入れる息子は全く可愛くない。もう少しフレッシュ感あふれる元気な男の子になるはずだった。


「キイチ君、仕事場では呼び名に気を付けなさい」


「ここには自分らしかいないんだからいいじゃん。くそ親父」


 ギルマスの部屋とは思えない古臭いコーヒー屋みたいな部屋だけどね、ココと息子が小さく笑う。


 分かるか、この良さが。いつも今日のスケジュールは紙に書いているのだが、これからは経費削減も兼ねて黒板に白石で書くのはどうだろうか。木枠にツタを這わせたらもっとオシャレになりそうだ。


 カフェ風な部屋にするべく、いろいろ考えていると目の前で彼らは親子ゲンカを始めていた。


「……キイチ君には教育が足りなかったようですね。いいでしょう。外に出て教育致しましょう」


 あ、マジ切れしそう。止めなくては。


「ジロー、キイチ。お遊びはそこまでにして。ジロー、ギルド凍らせないで。私、寒いの嫌い」


「……マスター、先ほどの案件はどうお考えで」


 息子の首を抑え、左腕を間接とは逆方向に押し曲げながら彼は平然と会話を続ける。ため息のオプション付きで。


「うちのギルドでは、主に教育を専門に行おうと思うの」


 彼の目線は息子の黒髪に向けられる。

 息子は右手で父親の足を軽く叩いてギブアップを伝えようとしていた。あ、気を失った。はやっ。我が息子ながら弱過ぎる。


「そ、そーゆー教育はいらないかな。他所でやってくれてるよ。ここは、うちにしかない強みを見せるべきかなって思って」


「強み、あるのですか?」


「それをこれから作ろうとしてるんだって! いい? 隣国とはいえ、言葉も文化も違う。貴方には同じように見えるかもしれないけど、似て非なるものよ。仕事を通してこちらに馴染んでもらう。それが出来なければ、他のトコに行けるよう手助けする」


「他の国に行けるように手配するのは、そう難しくないかと思います。ですが……」


 彼の言葉を遮り、私はニヤリと笑う。


「問題はこの国に馴染んでもらう為の方法、でしょ? 現状上手くいってるとは私には思えない。ってか、そもそも亡命したんだからウチの国の言葉くらい話せるようになれよ、って私は思ったんよ。だから」


「言語教育ですね」


 私のセリフを奪われた。キッと睨みつける。ドヤ顔がムカつく。けど、そんな彼の顔も嫌いじゃない。


「そのとーり。良い先生、誰か知ってる?」


 コホンと咳をしてから質問してみると、彼は目を瞑って少し間を置いてから答えた。


「宮廷にいた頃の知り合いに、思い当たる者がいます」


「宮廷……王宮の関係者はちょっと」


「いえ、彼は吟遊詩人です。各国渡り歩いているので、言葉に不自由しない秘訣があるのかもしれません。講師には向かないかもしれませんが、参考程度に聞いてみても良いかと」


 各国を旅する吟遊詩人にどうやって連絡を取るのだろうと首を傾げると、彼は少し微笑んで口に出さなかった疑問に答えてくれた。


「伝書鳩のような魔法もあるのですよ。詳しく説明しましょうか?」


「結構です。きっと理解できないから。脳筋ですみません」


「そうですね。時間を大幅に節約できました。しかし、マスター。言語教育するとしたら、費用はどうするおつもりですか? 赤字経営になりかねませんが」


「今なら宮廷からの給付金と、街での簡単な仕事の下請けでも誰かにさせとけば、なんとかなるんじゃないかな。当面は」


 息子が首をさすりながら、起き上がった。良いことを言ったな。採用だ!


「また二人で楽観的に考えて。経営に行き詰まりそうな提案はしないで下さい」


 彼は眉間に右手を添えて、大きく息を吐いた。でもブリザードがないところをみると反対でもなさそうだ。


「やってみる価値はあると思うんだよね。少人数から始めれば。母さ……マスターの『判定』で人選も簡単にできるっしょ。試してダメだったら、また別な方法考えればいいだけじゃん」


「任せとけ!」


「赤字経営になったら、出稼ぎに行って貰いますよ。駆け出しのシーフさん」


「ふっ、クソ親父。今はトレジャーハンターって言うんですよ。知ってますかぁ? トレジャア・ハンタア」


「ねぇ、ダーリンっ! 経費削減に黒板と白石を買うのなんてどーかしら!」


「マスター。話、聞いてましたか? 二人とも本当に似た者親子ですね。ちょっとお勉強しましょうか」


 そして、今年二回目のギルド凍結が起こった。これは私のせいではない。

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