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-Bitter sweet salty sweet- New act  作者: サトシアキラ
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act.1

「ねえ、紘輝ひろき

 いかにも手持ち無沙汰といった風に、目の前の少女がカウンターに頬杖を突き、スツールから零れた長い脚をぶらぶらさせながら言った。彼女の着ている衣装は、一般的な個人経営の喫茶店店員といった風情ではなく、こう……身体のラインを誇示した、なぜか黒光りするエナメル系の材質で構成されている。傍目にはきちっとお堅めと感じるかも知れないが、よく見るとタイトなスカート丈は、生地をケチったわけでもあるまいにフトモモの中央より上までしかなかったり、いわゆる黒いニーソックスでフトモモとの境目が強調されていたり、やってきた客が思わず特別料金が必要な店に迷い込んでしまったのかと勘ぐるような、とにかく刺激的な服装だった。

「こうお客さんが来ないと流石に暇だから、いつものように武藤のオジサマを呼んできて、うちで食っちゃ飲んじゃしてお金を落としてくれるように頼んでくれない?」

なかば……幾ら毎度暇だからって、オヤジを店の売り上げに強制的に貢献させるの止めてやってくれっていつも言ってるだろ?……あのオヤジだってお人好しなんだからさ、頼まれればイヤとは言わないんだよ……そもそも客と駄弁ってる暇なんてあるのか?暇なら暇なりに、仕事なんて見繕おうとすればいくらでもあるんじゃないのか」

「紘輝が客……珍説ねえ」

「きっちりいつもコーヒー頼んでるでしょうが!きみが言う喫茶店の客の定義って、きちんとお金を払って飲み食いする人間以外にあと何が必要なの!?」

「紘輝の客単価なんてオジサマに比べたら微々たるもんじゃない……そんなことで威張るんなら、いつもコーヒー一杯で粘らずに、自分の客単価を上げてよ」

 普通の高校生の懐具合を知らないような酷い言い様をするこの子、山城央は俺の幼馴染みで、この喫茶店・『エスポワール』を経営している山城さん夫婦の長女兼看板娘兼、親父さんからコーヒーの淹れ方を学んだ腕利きのバリスタなのだ。うちのオヤジは自営業なのをいいことに、しょっちゅう店番をサボっては商店街の中をあちこち彷徨い、同じ商店街の店主達と世間話をして歩く。そしてさっき央が言ったように、請われればふらふらとこの喫茶店に入り浸り、央の親父さんや央自身と会話に花を咲かせたりしているのだ。看板娘の巧みな話術により、勧められるだけオーダーしちまうから、一ヶ月の遊蕩費がえらい額になって、余所に愛人でもこさえたのかとおふくろから勘ぐられたこともあったっけ。

「しかし仕事がいくらでもあるって言ってもねえ……例えば?」

「例えば……って、そうだなあ、普段は目に付きにくいところの掃除を徹底するとか、新たな看板メニューの開発に勤しむだとかだなぁ……つーか、そういうのは家の娘で尚且つ従業員である央が考えるべきなんだけどな……」

 更に言うなら、本来なら央の親父さんが積極的に仕切って然るべきなのだが。

 さてそうは言ったものの、央の幼馴染みである俺も、こうしてたいした注文をせずに閑古鳥の鳴きそうな喫茶店でわざわざ暇を持て余しているところからも分るように、央とはお互いに憎からず思っている仲ではある。と思う。そうあって欲しい。多分そうなんじゃないか。きっと。おそらく。少なくとも俺の方は憎からず、なんてものではない。だから両想いになれたらどんなに素晴らしいことか……それを確かめる度胸がないからこうしてつかず離れずの関係を甘受していて前に進めようとせず、央が誰かにコクられたとか一緒に歩いていたとか会話をしていたとかいう、実につまらない話にモヤモヤしてなきゃならないんだ。それを壊すのが怖い……幼馴染みと『そういう仲』になりたい人間は、だいたい俺と同じような感覚を味わっているはずだ。

「新メニューかあ、確かに最近刺激が少ないしマンネリ気味だから、飽きられちゃうしリピーターも多くないのかもね」

「そ、そういう倦怠期の夫婦みたいな結論になるってのも早計なんじゃないかとは思うんだけど」

 思案顔も魅力的な央。長く艶やかな、まさしく理想的な黒髪の状態を表すという『烏の濡れ羽色』とはこのことを指すんじゃないかと思わせるそれがほっそりした顔の横を流れ、肩の辺りになだらかに広がりつつ引っかかり留まっているのは、例えようがないほど美しかった。清流が、水面の岩を避けて滞りなく流れ波紋を産んでいるように。

 実は彼女は、一桁の歳の頃からファッション雑誌でモデルを務めている、もちろん今でも現役のモデルさんなのだ。大人に混じって活動して、給料をもらって生活しているその迫力というか社会経験は、バイトの一つもしたことが無いこちらにとっては、異次元の存在感と……同時に疎外感を味わわせてくれる。

 央が初仕事を請け負ったときのことだ。子供服ファッション雑誌を自慢げな彼女から託され、指示されるがままに開いたページに収まる央は、それまで見たことのなかった大人っぽい服を纏っているのと、明らかなメイクの乗った顔と他人行儀なポーズとも相まって、どこか別次元の人間に見えたものだ。それ以来、央に対する漠然とした憧れと疎外感とを同時に抱きつつ今に至る。

 現在高校一年生の央は、ティーン向け雑誌のモデルは単発で請け負っているけれど、学業優先という理由から仕事の数はセーブしている模様だ。央も俺の反応に飽きたところがあったのか、最初の頃のように自分の載ったファッション雑誌を自慢げに見せつけてくることはなくなった。なくなったらなくなったで、俺は密かにコンビニで、他人の目を気にしながらそれ系の雑誌を漁り、彼女の仕事をチェックしているワケだが……冷静に考えるとみっともないし情けないかも知れない。

「そういえばさあ、ウインナーコーヒーってあるじゃない。小さい頃、あれってまあ在り来たりなことに、コーヒーの中にウインナーが入っているんじゃないかと思ったのよ」

「まあ確かにありがちだよな……某サングラスがトレードマークの大物芸人が国元で喫茶店の雇われマスターをしてたとき、本当に客に出したなんて伝説もあるようだけど」

「でも実際に出してみたら悶絶するような味だったらしくて、すぐに間違いだって分ったわ」

「実際に試してみたのかよ!試す前に気がついて欲しかった……客も災難だったろうに……。というかよく飲んだなぁ」

「あの時のお父さんの顔、傑作だったなあ。紘輝にも見せてあげたかったくらいよ」

「親父さんに出したのかよっ!親父さんが可愛そうだろっ!喫茶店の看板娘がその程度の知識を保ってなくて、さぞかし嘆かれたことだろうに。よくそんな悪戯を許してくれたもんだ……今でも気にしてるんじゃないか?」

 想像してみよう……

 幼い央がコーヒーの入ったカップを持ってくる。しかしそのカップからは、明らかな異物である赤いウインナーが顔を出しているわけだ。そんななにかの冗談としか思えないようなシロモノでも、その小さな掌と拙い動作、無邪気な笑顔、きっと父親のためによかれと思った心で勧められては、親父さんも苦笑いを浮かべ、将来店を手伝ってくれるかも知れない天使のような存在を夢想して、黙って飲み込んだに違いない……。

「気にしてはいないと思うわ。さっきも、昨日のことは忘れてニコニコしてたもの」

「親父さん甘い!娘に超甘い!しかも小さい頃の話かと思ったら昨日の話ときたもんだ!」

 央の親父さんはもう還暦を過ぎている。やや歳が行ってから念願叶って出来た娘だからか、彼女に極めて甘い。しかし、娘を可愛がるのと甘やかすのとの区別はしっかりした方が良いんじゃないかと思うなぁ、余計なお世話かも知れないし既に手遅れかもだけど……

「あ、分った!」

 これでもかとわかりやすい、『閃いた!』とばかりに掌を打つ。たいていの央の思いつきは悪い方向にしか転んだ記憶しかないのだが。

「安っぽい赤いウインナーを使ったからよ、きっとそうに決まってるわ!もっとこう……本場ドイツの製法で……とやらなにやらっていう、少しは値の張るものを使えばきっと……」

 ならねえよ!絶対違うから!こいつ、ひょっとしてヒジキが畑に生えてるものと思っている人種なんじゃあるまいな!?

「とまあ冗談はそれくらいにして」

 冗談かよっ!

 真面目に心配してソンしたよこっちは!しかもその冗談に付き合わされたっぽい親父さんの話は実話なのかどうなのか!?それ如何によっては非常に気の毒だ!

「紘輝の言うとおり、メニューなりなんなりで他の店との差別化を図るのは良い案かも知れないわね」

「知れない、んじゃなくて必須だと思うぞ……最近店舗を増やしている名古屋系喫茶店だって、飲み物の他にも代表的メニューが色々とあるらしいじゃないか。この店、常連客に頼り切って居るみたいだし、しかも価格が良心的すぎて商売っ気に掛けるというか……他人の家の事ながら少々懐具合が心配になるくらいだよ」

 懐具合については……なんだか央の仕事の稼ぎをつぎ込んでるんじゃないかというくらいに、この喫茶店はお世辞にも流行っているとは言い難い。俺の通っている時間帯がちょうど暇なそれという可能性もなくはないが……昼下がりに客足が絶えている時点で何をか言わんや。

 常連相手の商売とはいえ、価格は控えめ……例えば喫茶店の看板商品であるコーヒー、『エスポワール特性ブレンドコーヒー』でさえ一杯三百円という値段だ。しかもそれらは、適当な豆をブレンドし、予め淹れておいたものをデカンタで保存し、客に供する前に暖め『へいお待ち!』的ないい加減なシロモノではない。曲がりなりにもきっちりとした店で修行をした、央の親父さんであるところのマスターが、厳選に厳選を重ねて、気温や湿度などの季節の諸条件によってもブレンドの具合を変更し、コーヒーサイフォンで一杯ずつ淹れる本格派だ。それがなんと今ならたったの三百円!三百円でのご奉仕です!……ほんとのご奉仕、出血価格だ。この商売っ気のなさは何なんだろうなあ……親父さんは人情家としては大したもんだが、経営者としてはどうなんだろう。

「まあおいおい新メニューの方は私が開発するから問題ないとして」

 問題なしと言い切る央の考えの方に問題がありそうだが。

「飲食メニューはこちらがどんなに美味しいものを自信を持ってお出しとたしても、お客さんの好みがあるから不安定よね。だから最初はビジュアルから強化していって、リピーターさんを増やすところから始めてみるというのはどうかしら」

「それも一理あるか……常連さんだけじゃなく、一見さんを多く取り込んで新規客層を開拓するのも王道だよな。で、アイディアはあるのか?」

 そう訊くと、央はエナメル系の生地を内側から突き上げる、その形の良いバスト……もとい胸を張って、

「こ・こ・に!最高の素材があるじゃあないですか!」

 うん、確かに最高だ。最高すぎて惚れてしまう。女の子を好きになるのに理由なんていらないけど、おっぱいの形が素晴らしいとか脚が美しいとか顔が良いとか全体のスタイルが良いとか……十分に動機やきっかけとなり得るよな。ちなみにその全てを兼ね備えているのが何を隠そうこの央さんだったりするのだが。つまり俺が彼女に惚れるのはこの世の必然だったんだよ、あはは!

「手前味噌になるけど、この私が一肌脱げば、かなりの効果が認められると思うのよね」

「……その……否定はしないが……具体的にどのような方策を採られるおつもりでしょうか、お嬢様?」

 『否定はしない』という部分を聞いた央の口元がニンマリとほころぶ。……こいつ、俺の反応を楽しんでいやがるな。

「そうねえ……たとえば、制服をもっと『せくすぃ~』にするとかぁ?」

 央は椅子の上でその美脚を組み肢体をくねらせ、扇情的な目つきと湿り気のある演技で言う。ただでさえタイトなエナメルのミニスカートがフトモモに張り付き、えもいわれぬ神々の造形美を象った。また、スカートのサイドにもうけてあるスリットが意外なほど深く、注視せずとも生足であることを脳裏に刻みつける。黒いニーソックスに包まれた足を伝い、先端を締めくくるのはやはりエナメルのパンプスだ。ハイヒールほどの高さはないが、男性から見ると、アキレス腱の辺りのほっそりとしたラインが象られる極めて美しい履き物である。

 央にしてみれば半分冗談めかした仕草でも、惚れた弱みという奴か……我慢するのが難しい。果たして央の心の中は誰が住んでいるのか。幸いにして今まで特定の男と付き合っているという話は洩れ伝わってこないし、そのような疑いを抱く場面も目撃したことはないが……もしモデルの仕事場とかであれこれやっているのだとしたら、俺としてはお手上げだ。

「そ、それ以上『せくすぃ~』にやると飲食代の他にも料金を請求される店みたいになっちまうんじゃないか?」

「……紘輝はそういうお店に行ったことはないの?」

 央は大きな瞳をイタズラっぽく細め、ニヤニヤしながら訪ねてくる。そんなもの訊かなくたって分りそうなもんだが……いややっぱりわざと訊いてるんだな。

「あるわけないだろ、学生の身空でどっからそんな金が沸いて出てくるんだ。それに……例え持ってても行かないよ」

 そもそもわざわざ金を払ってまで女性と話すという行為がよく分からない。大人連中の話を聞くに、『そういう店』は『その手のプロ』が居るのだから、プロがごく気分良く盛り上げてくれるらしいが……

「ふーん……そーなんだ」

 さも興味がなさそうに視線を外す央。本当に興味がないのなら最初っから話を聞くこともないだろうが、央は何しろ接している大人の数が俺とは大違いだ。きっと、仕事場であれこれ大人同士が話しているのを小耳に挟んだりして興味があったのだろう。

「それより、他に案はないのかよ」

「じゃあメイド服……だと他のカテゴリのお店になっちゃうし、いっそのことバニーガールにしちゃうとか?」

「それも二重の意味で別の店になっちまうから却下却下!」

 頭の上で両手をウサミミのように掲げ、ぴょんぴょんと飛び跳ねる仕草をする央。非常にあざといが、俺の心臓も飛び跳ねるくらい可愛いから止めて欲しい。

 そもそも、ただでさえ人に見られる仕事をしているというのに、央目当てで妙な客層が増えるのは俺の精神が耐えられない。きっと央自身はそれも織り込み済み、覚悟の上でそういう提案をしているのだろうけど。

「それじゃあ紘輝はなにが良いと思う?可愛い幼馴染みが頼んでるんだから、もっとアイディア出してよお~」

「そんな事を言われてもなぁ……さっき言ったマトモなことくらいしか思い浮かばないというか……」

「もちろんそういうのは考えに入ってる……むしろメインで進めなければいけない改革だわ。でもそれ以外……それ以外になにかインパクトのある事柄をねじ込んでみたいのよね」

「そもそもねじ込むっていう表現がもうムリヤリにしか……お前がそういう案を出すと、もう取り返しが付かないような大失態になる未来しか見えないんだよなぁ……」

「なにそれ、ひっどーーい!私だってやるときはやるんだから!人間その気になればどんな困難でも押し通せる!その精神でここまで勉強とお仕事を両立してきたんだし!」

 いや、意気込みは立派だけど、結果が……例えば、去年の中学最後の文化祭なんて、飲食物を出す模擬店の権利を獲得したはいいが、何をメインに提供するかや営業形態に関してクラス会議が大紛糾。そもそも中学生にそんな凝った出し物とアイディアが出るはずもなく、また出たところでそれを実現するのも難しく……今まさに話しているように意表を突くメニューにしてみたら……とても客に満足してもらえそうなものが出来上がらなかった記憶がある。しかし、それもこれもみんな楽しんでやってたんだもんなあ……

「そういえばそのときのメニューって……」

「そう!お馴染みのメニューを逆さまにしてみたら面白いんじゃないか、っていう実験喫茶だったよね!あれは私の中でもヒット作だったなあ」

 実験喫茶……なんだか化学系の部活が客を相手に軽い実験を披露するようなものを連想させるが、俺たちが開いたものは……それこそ外見的にはメイド喫茶に近いものだった。店の前のメイド姿の女子にたぶらかされ、いざ店内に足を踏み入れた客は、十中八九そのような出し物を期待したのではと思われる。しかし肝心要の飲食メニューが……一例を挙げてみると。


 ケーキチーズ。チーズをケーキ風にデコレーションしたもの。見かけの割には意外と悪くなかったが、あくまでそれは実験喫茶内での相対的に、といったところで、内容的にはあくまで三切れ百円で売っている、アルミの包み紙の四角いチーズが原型という域を出ない。


 ケーキホット。……そう、ケーキがホットなのだ。本場ではパンケーキと呼ばれているアレじゃない、本当にケーキを温めてしまうのだった。流石にこれは発案者の央も数が出るとは思っていなかったらしく、百円の安ケーキがその犠牲に選ばれ見事に散っていった。これでそのまま食べずに廃棄、なんてことになればまさしく食べ物で遊んでいる不埒者だが、これを面白半分に注文した客は、注文を取りに来た央に感想を促されるがまま、美味い美味いという反応しか返ってこなかった。やはり喫茶店は看板娘次第でいくらでも評価が変わってしまうものなのだろうか??半分想像できたこととは言え、半分は合点がいかない。


 或いはライスカレー。これなんて何も変わらなくて、ひょっとしたらなにかあるんじゃないかと思って身構えながら注文した客が拍子抜けしてたぞ。いや、この店である意味『当り』を引いたらそれどころじゃ済まなかったんだけどな……ちなみにこれらを頼んだ客も、央を含む女子連中にチヤホヤされ非常に良い気分になって帰って行ったようだ。……これ、今から考えたら大人が大好きそうな『そっち系』の店とそうシステム的にはそう変わらないんじゃないだろうか?『そっち系』の店と違い、実験喫茶が良心的な店だった証拠としては、学祭で提供するようなごく常識的な値付けだったというところだろうか。


 そうそう、ライスオムってのもあったな。わざわざ米をつぶして薄く引き延ばし、ふわふわの卵焼き(よりりにもよってこのふわふわ加減が絶妙で、有名老舗洋食店かと見まごうほどのものだった……焼いたのは誰だ?)を包むというものだ。ま、これは食材の味がそうそう喧嘩しない類いの組み合わせだから、これもやはり客は拍子抜けしてたっけ。外見から味が想像しにくいから、おそるおそるライスオムを口に含んだ客の、実に意外そうな表情が印象的だった。もちろん客の表情が印象的なほど面白かったという意味ではない。


 変わり種となると、やはり『蕎麦ざる』だろう。蕎麦をざる状に整形して、一応そのままでは形にならないから油で揚げてみたのだが、これもやはりスナック菓子感覚で悪くなかったようだ。付け汁として市販のめんつゆにわさびを添えて……うん、普通に美味そうだ。味の方のインパクトは全く期待できない。


 或いはライスラーメン。

 ベトナムとかで好まれているフォーじゃねーかっ!味のインパクト、以下略。中に入っているパクチーが個人的に地雷だと受け取る客も居たことは居たようだが。


 とまあ、当初の目的とは違ってあんまり過激なものは出てこない……当たり前だけど、それなりに不評でそれなりに好評なものもあって……と、結局のところ、飲食店としての美味さよりも、メニュー名のインパクトの方が重要という結果にしかならなかった。ま、客に出すと言うことを考えれば、至極真っ当な結果だったんだけどね……本当に食えないものを出したりしたら、後で責任者が各方面からこってり絞られかねないからなあ。メニュー開発の時点でそれなりに試食は重ねていたらしいし、そこらへんは真面目と言えば真面目だ。

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