9.予想外の事実
「ミサ姉さんの居場所を教えてください」
「駄目だ」
「「ええー!?」」
まさかの即答に、カヨウ、ヒソラ、キリカがドン引きしたような声を上げた。
アリナはあまりの素早い答えに固まり、レイシンは顔をしかめ、ミカゲツは表情を消した。
「なっ、何でだよカイロウ兄さん!何かオレが馬鹿みたいじゃねえか!」
「教えてあげてもいいんじゃないの!?そもそもわたしもミサさんがいるとこ知らないけど、アリナは妹なんだよ!?」
「カイロウ兄さん理由を言ってよ!」
カヨウ、キリカ、ヒソラが口々に喚く。
カイロウは無表情のまま、告げる。
「アリナ。君がミサの居場所を知ることは許さない。加えて、ミサの元へ行くこともだ」
「なっ...何故、ですか?」
「ミサと関わることを禁じる。私からは以上だ」
質問に答えることなく、カイロウは断言した。
「しかし、ミサに関わること以外ならば検討しよう。君はこの地を出ることを望むか?」
「あ...えっと...」
アリナはしばらく視線をさ迷わせたが、やがて覚悟したような顔で、返事をした。
「...ミサ姉さんのところへ行くのが駄目なら...ここに、残ります」
「そうか。歓迎しよう」
「ちょっと!カイロウお兄ちゃん!何で駄目なのか言ってよー!」
「そうだぞカイロウ兄さん!横暴だー!」
「カイロウ兄さんの暴君ー!!」
キリカ、カヨウ、ヒソラがわあわあしているのに目も向けず、カイロウはアリナ達に退室するように言った。
冷静なミカゲツによってうるさくしていた三人は強制的に連行されていき、その部屋にはカイロウとレイシンだけが残った。
「...真実を告げる気はないのですか」
「ああ」
「そうですか。...確かに、アリナには少々酷かもしれませんね」
「...今頃カヨウあたりから私の不誠実さを聞いているだろうな」
「仕方のないことだとは分かりますが...やはり少し口惜しいですね」
「そんなことはない。少なくとも、私は気にしない」
「頼みますから...無理しないでください、兄上」
「ああ、分かっている」
「もー!カイロウお兄ちゃんの頑固ー!」
「ったく、カイロウ兄さんめ...!オレがカッコつかないじゃねえか!」
それぞれの部屋に戻る途中、ぐちぐちとキリカとカヨウが言っているそばで、アリナは疑問を口に出す。
「カイロウさんは、あたしの姉と何かあったのかな...」
「あ、そうだ。アリナにまだ言ってなかった!あのね、ミサさんはカイロウお兄ちゃんのお嫁さんなんだよ!」
「ええっ!?」
まさかの事実だった。
「何かね、どこかの国から逃げてきたミサさんを、うちの使用人さんが見つけて匿って、それをカイロウお兄ちゃんが知って、ここに住むことになったの。それでね、カイロウお兄ちゃんがミサさんのこと好きになってプロポーズして、めでたく結婚することになったんだけど...」
そこでキリカは言葉を濁し、目を泳がせた。代わりにカヨウが口を出す。
「カイロウ兄さんが結婚して一週間でミサとの離婚を決定したんだよ。オレ達もすっげえびっくりしたんだ」
「何でそんなことにって聞いたら、方向性の違いってカイロウお兄ちゃんは答えたんだよ。よく分からなかったけど...その後、ミサさんは自分を匿ってくれた使用人さんと二人で、別の土地で暮らすことにしたの」
「それで、オレ達とミサは別れたんだ」
怒涛の新情報に、アリナは二の句が継げなかった。
ふと、ヒソラがこぼす。
「あいつ、いいやつだったよな...いっつもニコニコしてたし、よく気がついたし、見た目良かったし...」
「うん。皆ミサさん好きだったよね」
「...姉さん...」
何だか無償にミサに会いたくなって、アリナはぎゅっと胸の前で拳を握った。
「もういいでしょう。過去の話です。彼女はここにはいない。これ以上は無駄です」
不意に、どこか刺のある言い方をしたミカゲツは、「おやすみなさい」と足早に去っていった。
「じゃあ、アリナ。明日からもよろしくな」
カヨウはひらひらと手を振り、ヒソラは無言でカヨウと同じ方向に歩いていった。
しばらくして、アリナとキリカは部屋の前に着いた。
「じゃっ、おやすみアリナ!また明日!」
「ええ、おやすみキリカさん」
「もー!呼び捨てでいいんだよー!」
「ふふ、ありがとう、キリカ」
「うん、おやすみー!!」
そして、アリナは今度こそ、この地で生きる覚悟を決めた。