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80.目指すは世界征服

 アリナはカイロウのことをよく理解していない。


 黒い悪魔の一族ヴァースアックの長にして、随一の剣の才能を持つという黒髪の男。

 その内面はヴァースアックの極悪非道なイメージとは異なり、特技はお菓子作りとお茶を淹れることで、冷酷でも冷血でもなく、むしろその逆だということ。

 そんな平和主義の彼がどうやって当主の座についたのかは、悪魔によって過去の幻影を見せられて把握した。

 レイシンと街へ二人でお出かけした際、こっそりついてきたカイロウを発見して、素の彼が異様にお人好しなのも目撃した。

 ヴァースアックの領地に来て間もなく、疲弊し逃走しようとしていたアリナに優しい声をかけ、茶を振舞ってもらったこともあった。


 だが。

 それらはあくまで昔のカイロウの話である。


 現在の彼を、アリナはどうも掴みかねていた。


「あの、カイロウ兄さん?」

「何だ」

「ここは…?」


 両手を口の前で握り合わせあからさまに動揺のポーズを取って質問するカヨウに、カイロウはこともなげに告げる。


「宿だ。それ以外に何と見える」

「いや…その…」


 口ごもるカヨウにアリナは全力で同意したい気分だった。

 宿。それは分かる。

 しかし、明らかに価格が飛び抜けている。


 そもそも、家からここまで、カイロウ達は乗馬でやってきていた。

 前回アルンへ行った時は、アルンの貴族トンタが同行していた。故に馬車の移動であり、荷物運びはシキという青年が務めてくれていた。アリナ達は自分で何をすることもなく身を任せ快適に過ごしていたのだ。

 だが今回。アリナは一人、エジットらの馬車に放り込まれ、カイロウとカヨウは各々馬に鞍をつけ長時間の移動を行なっていた。

「オレもアリナと景色楽しみたかったよ…」とカヨウが泣き言をこぼしたのも記憶に新しい。アリナの方もかつて敵対した一団の中に孤独に身を寄せるハメになり多少居心地が悪かった。


 しかしカイロウが「経費削減だ。我慢しろ」とカヨウに言うものだから、ああ今回は節約するんだなあと思わざるを得なかったのだが、夕方辿り着いた宿は何故か大国の観光街の一角だった。


「予算配分間違ってね…?いや嬉しいけど、めっちゃ嬉しいけど!」


 小声で語りかけてくるカヨウにぶんぶん首を縦に振っていると、視界の隅でカイロウが、これまで一言も自我を出さず粛々とついてきたが流石に今はぽかんと建物を見上げていたエジットらに何事か話しかけ、いくつか会話した後、カヨウの肩を叩いた。


「行くぞ」

「えっ?」

「アリナ。今日は長旅で疲れただろう。ゆっくり休みなさい。何かあればエジット・セルペットに言うといい。彼らもここに宿泊する。私達は明朝迎えにくる」

「えっ」

「行くぞカヨウ」


 事態を飲み込めずに目を白黒させていると、カヨウが片手を挙げて猛烈な勢いで叫び出す。


「まっ、待って、待ってください!カイロウ兄さん!?カイロウ兄さん!なんだか今、オレ、すっごい嫌な予感するよ!?ねえ!?オレもここに泊まるんだよな!?なあ?!」

「そんな金はない。私とお前は別の場所だ」

「どうして!?うちはお金持ちで子供の時から裕福に暮らしてきたはずなのに!?どうして!つーか何でオレらは駄目であいつらエジットはアリナと一緒なんだよ!!」

「彼らはヘンリー公爵の直属だ。この程度の出費どうと言うことはないだろう」

「だったらオレらもこんなとこどうってこと」

「お前はその費用を所持しているのか」

「…お…お小遣いの前借りとかできないでしょうか…」

「できない」

「こ、こんな…こんなことが許されていいのか…」


 戦意を喪失し項垂れるカヨウを目の当たりにし、アリナは慌てて割り込んだ。


「だ、だったらあたしもカヨウとカイロウさんと一緒のところに行きます。こんなところに一人でなんて」

「気にすることはない。これまで一人で羽を伸ばしたことなどなかっただろう」


 カイロウは無表情で見下ろしてくる。素の緊張感のかけらもない彼とも、当主として凄まじい威圧感を放っていた頃とも違い、相対しても恐怖は湧かないのに何を考えているのか分からない。

 確かに、領地に来てヴァースアックの世話になってからというもの、一人で気ままにどこか別の場所に滞在したことなどなかったかもしれない。誰の目も気にせずゆっくりしたことも。

 だからと言って自分一人だけというのはどうにも気が引ける。


 そんな逡巡をしている間に、カイロウはカヨウの首根っこを掴んであっという間に消えてしまった。

 絶句するアリナに、大人しく見守っていたエジットとその部下達が近づいてくる。


「…とりあえず宿泊手続きしようか」

「あれっあんたさっき言われたこと聞いてなかったんですか。もう夕食も朝食も手配済みであとは泊まるだけらしいですよ」

「あんたあの人に予約取れてるよって言われた辺りからテンション上がりすぎて何も聞いてなかったでしょ」

「うるさい!仕方ないだろまさかこんなサプライズがあるなんてお前ら想像できたか!」

「できません!」

「いやー僕らの費用は自分達持ちとは言えヴァースアックってやっぱリッチですよねえ」

「俺初めてだよリゾートホテル泊まるの」


 何も言えないアリナを横目にわいわいと彼らは騒ぎ始める。

 最早受け入れるしかあるまい。初めての高級宿のお泊まりに意識を切り替え、アリナはエジットらと共にワクワクと受付に向かった。





「なんでだよ…こんなのおかしいだろ…何でオレだけこんな目に…」

「女々しいぞカヨウ。いい加減切り替えろ」

「レイシン兄さんみたいなこと言いやがって…」


 レイシンと違うのは、表立って食ってかかれないことだ。もし仮にこれがレイシン相手だったら絶対に了承せず「オレは何があろうとアリナと泊まるもんね!レイシン兄さん一人で寂しく安宿に泊まってろい!」と宣言できたのに。

 カイロウ相手にそれができるはずもない。


 いや、本当にそうか?やる前から諦めているだけではないか?勇気を出せカヨウ!カイロウとて人の子、レイシンと同じ兄、今ここで反抗せずどうする!


 気力を振り絞り「あのさあ!オレやっぱ戻ろうと思うんだけど!」と声を上げかけたところで、カイロウが振り返り視線が合った。


「お前に話したいことがあったからな」

「…なんだよそれ…」


 一気にやる気を削がれてカヨウは不貞腐れた声を出すほかなかった。


 馬はアリナ達の宿に預け、カイロウとカヨウは自分達の荷物だけを持って夕飯の支度で賑わう商店街を突っ切っている。威勢の良い客引きが飛び交う中で、カイロウは足を止めることなく淡々と話し続ける。


「近々私は死ぬ」

「は?」

「戦争を肩代わりし勝利を約束する傭兵業では飽き足らず、かつての魔族のように世界の征服を目論むヴァースアックの長カイロウは、弟レイシンの制止も聞かず、どころか弟を半殺しにして侵攻を強行する。いくつかの国を手中に収め、かの大国アルンすら陥落させるが、その所業に異議を唱え敵対した弟、カヨウによって討ち取られる」

「…はい?」

「カヨウが兄を討てたのも、彼に賛同したレリウス王の助力あってこそ。カヨウを祖とした新生ヴァースアックはそれより大々的にレリウス王国と盟約を結び、真っ当な仕事を経て、人々を恐怖に陥れる黒い悪魔の名は歴史に消える。そんなところか」

「……そう…で、何?今の三流脚本」

「これから私が実行する」


 カヨウは本気で兄の頭を心配した。出立前夜レイシンが言っていた異変とはこのことだったのか。

 無理やり兄の肩を引き留め、真正面から彼の顔を見る。

 恐ろしいことにカイロウは「冗談だ」と言い出す気配もない。カヨウは仕方なく口を開いた。


「…で、何なんだよ、それは。カイロウ兄さんの夢が世界征服だっつーのはまあ楽しそうでいいけど、そんなガバガバなシナリオをオレに言ってどうするって?」

「…私はこれからヘンリー公爵と話をつける。アリナは彼の元に置いていく。領地に戻ってからレイシンを意識不明になる程度の重体にする。結果弟三人が離反し私は一人で世界征服を進める。そこでお前が私を殺す。お前はヴァースアックの新たな長となり、日の当たる組織としてヴァースアックを作り直す。以上」

「以上じゃねえし」


 カイロウは黙って弟の顔を見つめる。四人の弟の中で己と同じ父親似なのはカヨウだけだ。

「本来」なら、カイロウはヴァースアックの厳格なる領主として働き、ミサという妻をもらい、息子と娘を産んでレリウスともアルンとも良好な関係を築く。

 しかし、現在のカイロウはミサには離婚され、ろくに実戦経験もなく、レリウス王国の若きラギレス王とも、アルンの偏執ヘンリー公爵とも渡り合うことなど不可能だろう。


 だからこそ。


「私の負債をお前に押し付けることになってすまないと思っている。だがそれ以外にどうにもならない」

「…あのさあ…意味わかんねえこと一方的に言って満足するのやめねえ?そりゃオレも最近あんたの様子がおかしいことぐらい把握してるけどよ、何がどうなってこうなったのかさっっっぱり分かんねえんだよ。頼みてえことあんならちゃんと説明くらいしてくんねえかな、レイシン兄さんじゃねえんだからさ」


 しばらくの沈黙の後、「そうだな」とカイロウは頷き、弟の手を外して「ではそこに入るぞ」と冒険者向けの大衆居酒屋を指さした。




「初めから説明してほしいか」

「おう」

「…そうだな…お前には全てを話す。まず第一に。ヴァースアックは黒い悪魔と呼ばれているが、それは自分達の実力ではない。確かに並の剣士以上の力量はあるだろう。生涯を剣に捧げているのだから当然の話だ。しかしそれだけだ。我らは才能に恵まれているのではない。つまり世評の真相は、悪魔の力の恩恵を受けた結果だ。かつて剣王ライの息子が悪魔と契約を交わし、我らに子々孫々まで繋がる能力を授けた。それは、相対すればいかなる戦士も恐怖に陥れ、体の自由すら奪うことのできる殺気を自由に操れるというもの。すなわち私達の強さはただのハリボテに過ぎないということだ」

「…すいません、なんか今すげえとんでもない侮辱されてる気がすんだけど」

「事実だからな。そんな集団が幅を利かせて歩いているなど滑稽だろう。だから私は今のヴァースアックを取り壊すことに決めた。悪魔の契約を終わらせ、自身の力を用いて真っ当に生きていく。それをお前に託したい」

「おお…うん…うん…?つーかさ、兄貴は何?何でそんなこと知ってんの?誰に聞いたんだよそんな与太話」

「悪魔。言っただろう。あの地には悪魔が住んでいる。ヴァースアックの成り立ちから現在までずっと我らを傍観していた人外だ」

「…いや…それがもうメルヘンで信じられんのよな…それによお、悪魔の言うことなんて信じられんのかよ?適当な嘘ぶっこいてるか、オレ達を騙そうとしてんじゃねえの」

「その可能性もある」

「ええ…」

「だが、それを与太ではないと証明した者がいた」

「誰だよ」

「素性は分からない。ジョンと名乗っていた。私の誇りを、思想を、強さを、怒りを、未来を…全て奪った男だ」

「…どういう意味だよ」

「分からないか?どうして私がお前にこんな情けない話をしているか、どうして私が、ヴァースアックの正統なる後継者であるこの私が、こんな場末の酒場で管を巻いているか…」


 そこで初めてカイロウは声を途切らせた。

 ここ選んだの兄貴じゃん、と突っ込むこともできず、カヨウはカウンター隣に座る兄の続きを無言で促すしかなかった。

 酒を呷り、忌々しげな態度とは裏腹に静かに盃を置くと、カイロウは横目でカヨウを睨んだ。

 もしそこに殺気がこもっていたら、周囲の人間は蜘蛛の子を散らすように逃げ出すだろう。しかし陽気な店内で誰も、刺々しい存在感など微塵も放っていない黒髪の男二人を気に留めない。


「お前はまだ生まれていなかった。レイシンが生まれていたかも微妙な頃だ。幼子だった私をそいつは密かに拉致し、改造した」

「ヴァースアックの後継をこっそり拉致って、どんだけすげえんだよそいつ」

「おそらく人間ではない。魔族の生き残りか何かか…瞬間移動や得体の知れない力を使っていた。奴は私のヴァースアックとして必要なものを全て封印したのだ」

「…必要なものって…でも、兄貴、剣の才能はあるだろ。オレ知ってるぜ、結局あんたが一番強えじゃんか」

「…ああ、そうだな。肉体的には変わっていないのだろう。だが精神面が大きく異なる。奴は私から奪ったのだ。戦意を。闘志を。野心を。殺意を。剣への執着を。先祖への敬意を。親への憧憬を。一族繁栄への渇望を」


 本来ならば、ここにあるのはどす黒い怒りのはずだった、とカイロウは呟く。


「見て分かるだろう?ここまで虚仮にされてもなお、私はのうのうと生きている。歯噛みすることもなく、憎むことも、殺意を抱くこともない。ないんだ。あの時からずっと、私は殺したいほど強い衝動を抱いたことがない。ずっと…ずっと生き恥を晒しているのに、それを恥と感じることもできず、反吐が出るような安寧に覆い被されている」

「…あのさ、悪いんだけど、分かりやすく言ってくんねえ?生き恥って、あんた別に何も晒してねえだろ。何が気に食わねえんだよ」

「気に食わないのが気に食わない」

「もっと分かりにくいんだが!?」

「…例え話をしよう。私が誰かに馬鹿にされたら、私はそいつを殺す。それが正しい、本来の形だ」

「お、おう」

「だが現状の私は、馬鹿にされたとしてもそいつを殺すことはない。何故なら殺意は湧かず、どころか馬鹿にされても怒りすら感じないからだ。そういう体になってしまった。そのことを忌々しいとさえ思えない。頭がおかしくなりそうなのに発狂することはない」


 カイロウの話を己の中で噛み砕き、うんうんと頭を捻って十杯目の酒に手をつけたところで、カヨウは言葉を絞り出した。


「…兄貴は、本当はどんな人間だったんだ?」


 温和で、温厚で、いつも静かに笑っていて、お菓子作りが得意で、誰にも優しく、甘く、戦いには無縁。何があっても人を殺すなどあり得ない平和主義者。カヨウの幼い頃より「カイロウ」という兄のイメージはそんなものだ。

 だからこそカヨウは、優しかった兄が父の腕を無情に切り落とし当主に成り代わった時、兄の魂が何者かに殺され乗っ取られたのだと思った。

 しかしカイロウは、本当は違うのだという。歪められた結果がそれで、本当は異なっていたのだと。


「…少なくともトンタ・ココーンとエジット・セルペットらとアルンへ赴くことはなかっただろう」

「その心は」

「ヴァースアックを利用しようとする不届者の首を繋げたまま返すわけがない」

「お、おお…過激だな」

「歴代当主に比べれば随分丸いと思うがな」

「そりゃご先祖様達に比べりゃそうだろうがよ…で、兄貴が本当はそういう人間だったけど、そのジョンって奴に矯正されちゃって、それが気に入らないから八つ当たりでヴァースアックの現状全部ぶっ壊そうとしてるって認識で合ってる?」

「言い方が悪い」

「でもそんな感じじゃねえの」

「…正確には、ジョンという男の意図を潰そうとしている、だな。奴が言うには、私の娘が将来奴の計画を破綻させるらしい。故に奴は私とミサを離縁させるべく私の人格を変えた」

「えっ!?そんなスケールちっちゃい話なん!?」

「黙れ」

「いやだって離婚させるくらいならもっと別の方法あるだろうよ…」

「私だってそう思う。あくまで推測だ。奴にとって私とミサ、そして…お前とアリナがどうにも邪魔らしい」

「…アリナ?なんで、そこでアリナが出てくんだよ」


 声色を低下させたカヨウにちらりと視線を向け、推測だと言っているだろうと念を押してからカイロウは答える。


「私の悪夢が覚めたのはついこの間の話だ。それまで私は己が歪んでいることすらまともに自覚できていなかった。奴が再び私に接触し、私に「故郷が荒地にならないためにもアリナを排除しろ。カヨウに近づけさせるな」と命ずるまでは、な」

「…その時そいつを斬らなかったのかよ」

「残念ながらな。だが収穫はあった。奴の姿と声、気配の異常性、そして横柄に命令してくる様を目にして、私は確かに思い出した。かつて己が拉致され洗脳されたことを。そしてそれを記憶から抹消されていたことを。奴は私の変化に気づいて再度命令しようとした。その喉を斬った」

「斬ってんじゃねえか」

「殺せなかったのだから同じことだ。とにかく奴はアリナを狙っている。何の因果か、お前もそれに関わっているようだ」

「…そうかい」


 色々なことを聞き過ぎた。

 そもそも酒の席の話だ。どこまでが現実にあったことかも分からない。

 既に相当の量を飲んでいるはずだが兄の顔色に変化はない。この人ザルだったのか、とカヨウは初めて知った。己もかなり強い方ではあるが、顔は赤みを帯びていることだろう。


「…だからもう、全部破綻させてやりたくてな。お前はアリナと共に好きなようにいればいいし、私は世界を征服する。レリウスもアルンも支配下に収めてヴァースアックが頂点に立つ。全人類がヴァースアックの名を恐怖に刻み込めばいい」


 いや、やっぱり兄も酔っているかもしれない。


「なんか最初と言ってること違くね」

「名を轟かすことはヴァースアックの使命だ。剣王ライの目指した道、原点回帰に他ならない。うまくいかなかったらお前が私を殺して全部私のせいにして再出発すればいいことだ」

「おいおい寂しいこと言うんじゃねえよ。いいじゃねえか世界征服。オレもちっちゃい時考えてたぜ。世界中の美女を集めてオレの歌を聞かせてやりてえとかさ」

「健全だな」

「あんたやっぱ感性おかしいよ」

「何を言う。お前は歌が上手いだろう。誕生会の度に音頭を取っていた。戦場に赴けばお前の勝ち鬨が聞けただろうにな、惜しいことをした」

「…ま、これから聞くかも知んねえし落ち込まねえで気楽に行こうぜ。夢はでっかく世界征服!」

「なに、お前も目指すのか」

「まあな!大体オレが兄貴を討ち取って新しい当主になるとか向いてねえよ。そういう難しいのはレイシン兄さんに任せときゃいいんだよ。オレ達は国乗っ取って王様になろうぜ王様!」

「…そうだな。ラギレスとヘンリー、あの若造共に吠え面をかかせてやろう」

「どっちも兄貴より年上じゃねえの?」

「どうでもいいだろう、そんなこと」

「確かに」


 酔いどれ二人はくだらぬ会話を絶やすことなく、宿を取ることもなく喧騒の中で夜明けまで飲み通していた。

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