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8.逃走と変化

 アリナは、荷物をまとめ、今まさに部屋を出ようとしていた。

 外は真っ暗で、正直迷わずにこの地から旅立てられるか不安で仕方ないが、それでも行くしかない。

 静かに扉を開き、アリナは抜き足差し足忍び足で部屋を後にした。





 初っ端からハプニングだった。

 屋敷の中は、深夜にも関わらず使用人が至るところでうろうろしていたのだ。

 隅に小さくなって隠れてはいるものの、これでは先に進めない。

 しかしアリナとてこういった事態を想定していなかった訳ではない。だからこそ昼間、屋敷を探検していたのだ。勿論ミサのこともあったのだが。

 昼間見た時に使用人がいなかった通路を選び、進む。

 やがて、使用人に発見されることなく玄関が見える場所にたどり着いた。

 しかし再びハプニング。

 玄関の近くに、使用人二人が居座っている。いくら待っても、全くいなくならない。

 これは、今からでも裏口を探すか、それとも窓から脱出するか...。だが一階の窓はほとんど格子がついていて出られないのだ。格子のついていない二階の窓から飛び降りたとして、果たして無傷でいられるだろうか。

 悩んでいるアリナの前に、救世主が現れた。

 美青年四男、ミカゲツである。

 ミカゲツはアリナに気付く様子もなく、玄関近くに居座る二人に何事か話しかけると、その二人を伴ってどこかへ行ってしまった。

 これ以上のチャンスがあるだろうか。いや、ない。

 アリナは素早く玄関に走り寄ると、鍵を開け、ついに屋敷を脱出した。





「はあ、はあっ...」


 息を切らしながら、ひたすら走る。カヨウとこの地に来た時の記憶を必死に手繰りながら、走る。

 とにかくこの地を出るのだ。黒い悪魔(ヴァースアック)に見つかる前に。

 キリカには悪いと思うが、やはり普通の人間が、ヴァースアックと共に暮らせる筈がない。

 逃げなければ。

 そんな思いも、その姿を目にした瞬間に霧散した。


「...よお」


 闇に紛れるように、カヨウはそこにいた。


「な...んで」

「いや、やっぱそうなるよなあ。オレ達と一緒にいろってなっても普通は逃げるよな。ミサがおかしいだけで、その行動が普通だよ」

「ミサ、姉さんが、何なの?」

「ミサは逃げなかった。オレ達を恐れなかった」

「...そう」


 例えそれが本当だとしても、アリナはそんなこと出来ない。ヴァースアックを恐れないなど、出来る訳がない。

 終わった。

 ひたすらにそう思った。

 これから己は殺されるのだろうか。せめて、一瞬で終わらせてほしいものだ。

 貧民街で、アリナを襲った男達のように。

 絶望するアリナを見て、カヨウは迷うように頭を掻く。


「あー...まあ、さ。別に、最初からオレ達に言ってくれたら、全然良かったんだぜ?オレ達が怖いから別のとこ行くわーっつってくれたら、オレ達も、そうかー、じゃあ知り合いがいるとこに託すわーって、なっただろうし。あーでもオレ達が怖いなら仕方ないよなあ...取りあえず、アリナ」

「...ええ」

「一旦、帰ろうぜ。カイロウ兄さんも、説明したら分かってくれるからさ」


 くるりと背を向けて歩き出すカヨウに、アリナは思わず叫ぶ。


「あたしを殺さないの?」

「いやー、そんなことしねえよ。まあ仕事ならやるけど、今は仕事ねえし、そもそも妹に手は出さねえよ」

「...信じていいの?」


 アリナにとって、それは言うつもりのない言葉だった。

 ヴァースアックは悪魔であり、関わってはならない。そう言い聞かされてきた少女にとって、それは大きな変化でもあった。


「んー...そりゃあ信じてほしいけど、まあ、それは自分で決めてくれ」


 顔だけ振り向かせて、カヨウは告げた。

 アリナはぐっと拳を握ると、カヨウを追いかけた。





 屋敷に帰ると、すぐにアリナはカイロウがいつもいるらしい部屋に連れていかれた。

 そこには既に、レイシン達がいた。ただし、キリカの姿はなかった。


「それで、アリナ。君がこの地を離れたいならば、私達は強制しない。正直な気持ちを聞かせてくれ」


 カイロウに重々しく聞かれ、アリナはゆっくりと頷いた。


「...あたしは」

「アーリナー!!」


 アリナが続きを言うことは叶わなかった。

 突然ダイナミックに入室してきたキリカが、アリナに勢いよく飛び付いたのだ。


「ねえ、何でー!?そんなにお兄ちゃん達が怖かったの!?行かないでよアリナぁー!!せっかく妹ができたのにこんなにすぐ別れるなんて悲しいよー!!ねえお願い、残ってよ!アリナを傷付ける人がいたらわたしが守るから!!だから...!ねえ...駄目かな...」


 物凄く悲しそうに見つめられ、アリナは非常に狼狽える。


「キリカ、止めろよ。出ていきたいって言ってんだから、そうさせてやればいいだろ」

「ヒソラお兄ちゃんの冷酷ー!!」

「は、はあ!?お、俺はただ...」

「何にせよ、彼女の意志次第でしょう」


 ミカゲツの発言に、ヒソラとキリカが揃ってアリナを凝視し、アリナは少々たじろぐ。


「あ、あたしは...」

「アリナ」


 カヨウの声に、アリナはそちらに視線を向ける。


「好きにしていいんだぜ」

「...ええ」


 アリナは大きく息を吸い、告げた。


「ミサ姉さんの居場所を教えてください」

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