78.同行選手権大会
「駄目だ」
「えー!?なんで!?」
「当事者であるアリナとレイシンはともかく、今回はカヨウまで同行している。お前が行くとなればヒソラもついていくと言い出すだろう。これ以上人員を増やされては困る」
そんなの横暴だ、とキリカは憤った。
当主カイロウに「自分もアリナ達と一緒にアルンの国に行く」ということを伝えたところ、にべもなく拒否された。
理由はそんな大所帯のヴァースアックが移動していたら人目について厄介なことになるから、とのこと。
「それに、お前はこの地を離れるべきではない。前にアルンに遠出した時どうなったか忘れたわけではないだろう」
「そりゃ覚えてるけど…もう平気なんだよ!だってアリナが一緒にいるからね、制御はばっちりなんだよ」
「そうか。それはそれとして駄目だ」
既に人員は埋まっている、とカイロウは繰り返す。
だからって諦めようとはキリカは思わなかった。
「じゃあ分かったよ!わたしがアリナとレイシンお兄ちゃんと一緒に行くから、カヨウお兄ちゃんとヒソラお兄ちゃんには留守番してもらうんだよ!」
「何勝手なこと言ってんだキリカ!」
バン、とドアを開けカヨウが口を突っ込んできた。どうやら盗み聞きしていたらしい。隣には真剣な表情をしたヒソラの姿もある。
「オレが先に行くって言ってたんだぞ!留守番すんならお前とヒソラだろ!」
「そんなのずるいよ!わたしはトンタさんに会いたいんだもん!カヨウお兄ちゃんに恋する乙女の邪魔をする資格はないんだよ!」
「うるせー、オレだって言い換えれば恋する乙女だ!」
「いやそれはきついでしょカヨウ兄さん…」
やいのやいのとその場が一気に騒がしくなる。その場に仕事中のレイシンがいたら「静かにしないか!」と怒号が飛ぶことだろう。
しかしここにレイシンはいない。居間にてアリナと共にアルンの公爵ヘンリーに対する言い分の形を整えているところだ。
ゆえに現在、彼らの騒ぎを叱咤する者はどこにもいない。
そのはずだった。
「…いい加減にしろ」
雷が降った。
声量はレイシンに遠く及ばないが、一瞬でその場にいる者の心を凍え上がらせるような一声。
驚きで乙女ポーズのまま固まるカヨウ、あまりにも予想外の事態に萎縮するヒソラ、キュッと口をつぐむキリカ。
彼らを止めた声の主は、談判相手のカイロウに他ならない。
レイシンが怒鳴ることなど珍しくもないが、カイロウが一喝するのは非常に珍しい。というか見たことない。
長兄は威圧感こそ凄まじいが、声を荒げることはこれまで一回としてなかったのだ。
「揉め事は他の部屋でしなさい。誰が行くか、全員で認めて決めるように」
そんな当主の命令に、三人は顔を見合わせてそそくさと執務室を後にした。
「びっくりした…」
「珍しいこともあるもんだな」
「うーん、カイロウお兄ちゃんどんどんフリーダムになっていくんだよ…」
居間に集合し、ヒソラは長椅子にもたれて肩を落とし、カヨウは顎に手を当て首を捻り、キリカは頬杖をついて遠い目をする。
元から居間にいて報告の帰りを待っていたミカゲツと、アリナ、レイシンはその様子を見てそれぞれ感情を巡らせた。
(カイロウ兄さんに怒られるなんてよっぽどうるさくしたんですかね)
(やっぱりカイロウさん、前とは違う感じになったのね)
(この統制力、流石兄上だ)
「で、どうするんです?結局、誰が同行するのか決めないといけないんでしょう?」
唯一アルンの国に行く気がないミカゲツがにこやかに場を取り成した。
「どうするって…だから、誰か諦めるしかないでしょ。もうカイロウ兄さんに怒られるの嫌だし…」
「定員は三人だよね。じゃあやっぱりわたしとアリナとレイシンお兄ちゃんでいいんじゃないの?」
「…それなんだけどよお」
ゆらり、とカヨウが手を挙げる。その挙動に、彼をよく知る次男は嫌な予感がした。
「別に、レイシン兄さんが行く必要ないんじゃねえの?」
「な…」
「だって、兄さんってつまりはアリナの手助け役だろ?アルンの公爵がアリナを気に入ってるからアリナが行くのは確定としても、レイシン兄さんじゃなくてもいいんじゃねえの?」
「何を言い出すんだお前は。仮にも婚約者役である私が同行しないでどうする?それに、私でなければ説明し得ない事項が…」
「それはアリナも知ってんだろ?」
な?と同意を求めてくるので、アリナは「え、ええ」と頷き返す。
ヘンリーに主張しなければならない事柄は一つ。
アリナが、ヘンリーが心底求めている「真の英雄王の末裔」ではないということだ。
ヘンリーがアリナに固執しているのは、アリナが、世界を救った賢者と女傑の子孫であり、アルンの国の支配者として正当な血筋である、と勘違いしているためだ。
しかしアリナは賢者とも、女傑とも血の繋がりがない。悪魔に見せられた過去の中で、アリナはその事実を理解していた。
ゆえに、ヘンリーにその真実を伝え、アリナへの執着をなくしてもらおう、というのが今回の旅の目的である。
ついでに、ヘンリーという障害がなくなれば、アリナとレイシンの婚約関係(仮)も何の気兼ねもなく解消できる。
アリナにとってはむしろそっちの方が早急の課題であった。
だってつらいんだもの。アルンからの調査隊であるエジットらとすれ違う度にレイシンと親密な演技をしなければならないの。
「じゃあ、説明はアリナに任せて、護衛はオレがして、キリカはトンタに絶縁状叩きつけてってのが一番いい形なんじゃねえの」
「叩きつけないよ!何意味わかんないこと言ってんのカヨウお兄ちゃん!わたしはトンタさんと濃密な時間を過ごしに行くんだよ!」
聞き逃されなかったか、とカヨウが舌打ちする。ヒソラも大体は同じ気持ちなのか複雑な顔をしていた。
「つーわけで、オレ、アリナ、キリカの三人がいいと思いまーす」
「いや、でも、護衛なら俺だってできるよ」
「バーカヒソラ頼りねえんだよお前は。その点オレは何かやべえモンスターとか来ても圧勝する自信がある」
「うーん、でもわたしヒソラお兄ちゃんとアリナと一緒に旅してみたい気持ちもあるんだよ」
「あれ!?キリカさん!?急にどうした!?オ、オレの何が不満だってんだ!?」
「何って…ねえ?アリナもわたしとヒソラお兄ちゃんの方が安全だと思わない?」
「う、ううん…確かにちょっとそうかもしれないわね…」
主に猥雑的な意味で。
「アリナまで!?くそっヒソラ、お前とオレとでどっちが護衛に相応しいか勝負してやろうじゃねえか!」
「おい私を除け者にするな!最初から私とアリナがアルンに行くことは許可をもらっているのだぞ!」
「というか、別にキリカも行く必要ないんじゃないですか?」
ぽかん、と一同は、あっけらかんとした発言主に視線を集めた。
喧騒に水を差したのは、案の定ミカゲツである。
「…えっ?」
「キリカはトンタさんに会いたいだけでしょう?じゃあいずれかの三人がアルンに行き、そのアルンからトンタさんをここに連れ帰って来れば気が済むのでは?」
「いや…ううん、それは…」
「それに体質の問題もありますし。キリカは長期の旅は控えるべきでしょう」
「あ、それは本当に大丈夫なんだよ。もう解決したんだよ」
「…そうなんですか?それは喜ばしいことですが…そもそも兄さん達も護衛とか言って結局好きな人と旅行したいだけでしょう?」
「いや…ううん…」
「埒が明きませんから、こうしましょう」
そして、この場で唯一アルンに行く気のない―――完全な野次馬であるミカゲツはニコニコの笑顔でのたまった。
「誰が同行に一番適しているかの選手権大会を開きましょう。審査員は無関係の僕と出立確定済みのアリナさんが務めます」
おかしなことになった、とアリナは長机と何の意味もない審査用白紙とペンを前にしてしみじみ思った。
正直誰が同行者になってもあまり否やはないのだが、しかしこうして現代の平和な彼らとの交流を目にすると、少し前の消耗した日々の傷が癒えるように感じる。
色々あった。過去の若い兄弟と敵対したりとか、悪魔に翻弄されたりとか、英雄王の成り立ちを目撃しちゃったりとか。
色々あったが、アリナは帰ってきたのだ。この平和な時間に。
「じゃあ、まずはレイシン兄さんから、告白お願いしますねー」
「…はあああ!?」
レイシンとカヨウ、そしてアリナの声が重なった。
「おいおいおいちょっと待った!なんだ告白って!護衛の腕試しすんじゃねえの!?」
「それじゃつまんないじゃないですか。皆さんガチ告白してもらって、誰が一番心に刺さったか決めますので。あ、僕はヒソラとキリカ担当で…」
「いやいやいやお前マジで何考えてんだ!?」
何を考えているか。
決まっている。
ミカゲツは、レイシンかカヨウ、どちらかとアリナが結ばれる道筋を描いているのだ。
正直どっちもアレな人だけどアリナとなら相性は良さそうだから早めにどっちかくっついてほしい。
この選手権で少しでもアリナが二人の兄を意識するきっかけになれば御の字だ。
そんな恐ろしいことを策略されているとは知らずに、アリナは混乱する頭で「何故自分がレイシンとカヨウ担当なのか、ミカゲツがキリカとヒソラというライトな面々を担当するなんてずるいじゃないか」と若干ズレたことを考えていた。
「おま、お前さあ…ほんとに大丈夫か!?兄弟の前でガチ告白とかめっっちゃキモいぞお前、発想がキモいぞ、ほんとにどうした!?」
安心してほしい、めちゃくちゃ気持ち悪いのは自覚している。ミカゲツはフッと微笑み、罵倒より心配が勝っている三男に「さあ早くしてください。一世一代の殺し文句でお願いします」と言い募る。
駄目だこの弟、何らかの思想に支配されている。
直感したカヨウは、せめて早く終わらせてやろうとミカゲツの肩を叩いた。
「…愛してるぜ!」
「なんっっっで僕に言うんですか!!!」
「お前が言えっつったんだろうが!!」
「アリナにって言ったでしょうが!!!」
「言ってねえよ!?」
あれ、言ってなかったっけ。いや言ったはずだ。カヨウの声がデカ過ぎて聞き漏らされただけだ。
互いに深刻なダメージを負って、ミカゲツは机に上半身を投げ出し、カヨウは壁際に腰を落として頭を下げた。
「うわあ…ひどい有様なんだよ」
「何故こんな事態になっているのだ…」
「ミカゲツ兄さんが何か策謀して撃沈したのだけは分かる」
「あまり選出方法としては芳しくないな」
「そりゃそうでしょ、なんで旅行に行くメンバー決めるのに告白しなきゃいけな…って!?」
ぬっと湧いて出た黒髪の男に、ヒソラが話の途中で腰を抜かした。
「兄上!何故ここに」
「私も参加することを伝えるのを忘れていた」
「えっ!?カイロウ兄さんが家を空けていいの!?」
「数週程度問題ない」
「マジかよ…」
「アリナとミカゲツを除き。残った面々で誰が同行するのか、厳正に審査してもらう」
突如現れたカイロウは、真顔で堂々と宣言した。
またおかしなことになった、と今度はアリナは緊張の面持ちで目の前の光景を見据える。
本来は同行確定だったはずなのに物言いで候補者に格下げされたレイシン。
少しばかりの休憩を取り、多少なりとも復活してきたカヨウ。
状況の変わりように頭がついていけていない様子のヒソラ。
ドン引きしつつも自分の目的のためにやる気十分のキリカ。
此度の元凶であるが隣でまだ傷心しているミカゲツ。
そして、無言で腕を組み、静観者の様相をしつつも参加の意を示しているカイロウ。
「…それで。審査の基準はどうするんです?カイロウ兄さん」
「お前はどう思う、レイシン」
「はあ、それはやはり目的が正当な確固たるものであることかと…」
言外に「アリナと旅行したいカヨウ」「キリカについていきたいヒソラ」は論外であると伝えるレイシンに、「なるほどな」とカイロウは頷いた。本来であれば次兄の意図を読み取りすぐさま抗議するカヨウは、カイロウがその場にいるため迂闊に動くことができず憮然とした表情で仁王立ちしている。
「しかしその基準ならば真っ先に落とされるべきはキリカだろうな」
「えっ」
「えーっ!?ひどいよレイシンお兄ちゃん!」
「い、いや私は!」
「キリカ、単に男に会いに行きたいというだけの目的を正当と呼べるか?」
「た、ただ会いに行きたいわけじゃないもん。生存確認したいんだもん…!前にアルンから帰ってきた時はろくにお話できなかったし、今トンタさんが何してるか、元気にしてるか知りたいし…」
冷静なカイロウの追及にしゅんとしてキリカは答えた。
確かに、前回はキリカが原因不明の意識混濁の状態に陥り、最終的にトンタの方もココーン伯爵の件で身動きが取れない状況になっていた。
心配なのは当然だろう、と早速アリナはキリカ同行への推薦欲が高まる。
「…では、審査を開始してもらう」
「あ、はい」
「あの、それでカイロウ兄さん、審査って何をするんです…?僕、もう疲れたので早めに終わってもらいたいんですが…」
「簡単な話だ。特技を披露する」
「…はい?」
「せっかくのアルンへの旅行だ。前回のアルンでは散々な目に遭い、これまでも様々な障害を乗り越えてきたアリナには楽しむ権利がある。それに花を添える人員が、同行を許可されることとする」
あ、アリナ主体の旅行って認識でいいんだ。
バラバラだった思考をそこで一致させ、彼らは脱力した。
「一番手カヨウ!ヴァースアック本家の三男です!元気で素直なのが取り柄です!歌います!」
大柄な青年は片手を挙げ自己紹介した後、無伴奏で歌い始める。
『何かも変えてしまう
光に出会って君と
共に歩いて行きたいと
そう思ったから』
「自作っぽい歌詞はともかく、歌はうまいんですよね。歌詞はともかく。アリナさんは音楽に興味はありますか?」
「あんまり詳しくないです。でもカヨウの歌はいいと思います、目も耳も楽しいというか…」
「歌声は高評価ですよ、良かったですねカヨウ兄さん」
「っしゃあ!」
「二番手キリカ!養子です!末っ子でしたがしばらく前に可愛い妹ができました!演技が得意なので一人芝居します!」
小柄な少女は勢いよく礼をして、顔つきを引き締める。
『あーライの奴ふざけんな、僕の日記勝手に売りやがって。絶対土下座させてやる』
『リュカ、あまり怒らないでやってくれ。彼も旅費を稼ぐために色々考えたのだろう』
『そうだよ。あたしもちょっと見せてもらったけど、あんたの文章すごかったじゃないかい。本職かと思ったね』
『え、そ、そう?ジルとアンリに褒められると嬉しいけどぉ…いやでも絶対あいつは許さん』
「これは…英雄王の一団の話ですかね?偏屈王と賢者と女傑と…随分個性的な役付ですねえ…アリナさん?」
(…あ、悪魔に見せられた過去の世界の人達とそっくり…!?)
「…どうやらアリナさんも感心しているようです。良かったですねキリカ」
「やったー!」
「三番手カイロウ。ヴァースアック当主」
真っ黒な髪の男は淡々とした口調で籠を持って前に出る。
「も、もうカイロウ兄さんが出てくるんですか!?」
「真打ちはレイシンに任せたからな。私からはこれだ」
「うわあ!何年ぶりかのカイロウ兄さんの手作りお菓子だ!」
「おいただの賄賂じゃねえか!見損なったぞ兄貴!」
「特技の産物なのだから現物でも何もおかしくないだろう」
しれっと答えてカイロウはミカゲツとアリナに良い焼き色のスコーンと紅茶を配る。
咄嗟にかつての兄への呼称だった「兄貴」と呼んでしまったカヨウは自分で自分にびっくりしつつ(オレの知ってる昔の兄貴ともちょっと違うけど…無表情なのは変わんねえのに何かすげえ接しやすくなったなこの人)とぐるぐる首を捻っていた。
「わ美味しい」
「子供の時に食べたのと同じ味がする…何故か僕泣きたくなってきたんですけど…」
「バタークッキーもいるか?」
「も、もういいです!いっぱいいっぱいです!」
「あ、あたしはもらいたいです…」
「たんと食え」
(いや性格変わり過ぎだろこの人!)
「よ、四番手ヒソラ。五男で…特技は、えっと…逆立ちします!」
頬を紅潮させ目をカッと見開き声をつっかえさせながら、少年は床に手をつく。
歌、芝居、料理と明確な特技を次々に披露され、自分が何をするべきか分からなくなったんだろうな…とミカゲツはすぐに察知した。
相変わらずこの末弟は考え過ぎて自分を追い込む。
「…はい、綺麗な姿勢でしたね。ありがとうございます」
「すごいですね、壁も使わないであんなに長いこと真っ直ぐ保てるなんて…!」
相方がアリナで良かった、純粋に褒められてヒソラも嬉しそうだ、とミカゲツは心からの微笑みを浮かべた。これがカヨウやレイシンだったら余計なことを口走ったに違いない。
「おいおい舐められたもんだなあ!そんな芸当でオレの歌に勝てると思ってんのかぁ!?もっと個性て…ぐおお!?」
「ミカゲツ!スプーンを投げるな無作法だろう!」
レイシンからの怒声も甘んじて受け入れよう。やるだけの価値はあった。
投擲の体勢を戻しミカゲツはうんうんと頷いて、そして大トリの青年を見つめる。
弟への叱責の後、彼は背筋を伸ばし、朗々たる態度で告げた。
「五番手レイシン。歴代当主の名前を暗唱してみせよう!」
見てるか弟。これがお前に足りないものだ。
ミカゲツは生温かい目で、スラスラと高らかに人名を並べる次兄を見守った。
「結果発表です」
「定員は二人。厳正なる審査の結果、カイロウ兄さんとカヨウ兄さんという選抜になりました」
「そうか」
「お、おお!カイロウ兄さんと一緒か…」
「えーっ!うう…」
「そうだよな…」
「な、なんだと!?」
落ち込む妹と納得する弟はともかく、本心から衝撃的な表情をする次兄には全く敵わないとミカゲツは笑顔で首を振る。
「まあトンタさんの件についてはキリカが手紙でも書いてアリナから渡してもらえばいいんじゃないですか?場合によっては本当に後で家に来てもらう選択肢もあるでしょうし」
「うん…お願いするんだよアリナ!わたしはこれから手紙作成に入るんだよ!」
「分かったわ。手紙、ちゃんと届けるわね」
頷いてアリナはキリカに約束する。キリカは「超大作を仕上げるんだよ!」と駆け出していった。
それを見届けつつ、ミカゲツは微妙な距離感の二人―――カヨウとカイロウが参加する旅路はどんなものになるのか、思いを馳せずにはいられなかった。
カイロウが屋敷を空けアルンへ行くのも前代未聞だし、こんな内輪の大会に参加するのもあり得ないし、手製の菓子をまた口にできるなど思ってもみなかった。
異例尽くしで、未だに信じられない。
そして、おそらく自分以上に現実を疑っているのがカヨウなのだ。
(まあ、とりあえずアリナがいれば大丈夫でしょう)
傍らの赤髪の少女に多大なる信頼と期待を寄せて、ミカゲツは一人結論づけた。




