6.波乱を呼ぶ自己紹介
「見えない...ヒソラは?」
「俺が好きな部位はギリ見えるよ。キリカのより断然いいね。キリカのは細過ぎるんだよ」
「くっ、立ってたらよく見えるのに、椅子に座られてたら全然見えませんね...!」
「お前ら朝から元気だな」
わちゃわちゃしている美青年と美少年に、カヨウは苦笑いしつつ声をかけたが、美少年からぎろっと睨まれたじろぐ。
「うるさいよカヨウ兄さん...いや、裏切り者!」
「ヒソラお前根に持ち過ぎだろ...」
「だってそうだろ、大体昨日だって一人だけ逃げてたじゃんか。俺とミカゲツ兄さんが昨日どんなにレイシン兄さんにしごかれたか...!」
「それはレイシン兄さんの機嫌が悪かったんだろ?タイミングだよタイミング」
大きなテーブルに、美青年と美少年も隣あって座った。美少年はキリカの隣である。
アリナは、キリカと時折話しつつ、彼らが賑やかに会話しているのを聞いていると、食堂のドアが開いた。
入ってきたのは一人の男。
アリナはその男を目にし、すぐに逸らした。やはり簡単には恐怖を拭えない。
ヴァースアック一族当主カイロウは、昨日と全く変わらない無表情であった。
「彼女は、私達の新しい家族となる」
朝食前、カイロウはアリナを立たせ、ゆっくりと告げる。
「ミサに頼まれたことは皆知っているだろう。その彼女がようやく見つかったので、ここに連れてきた。血の繋がりはない、しかし、妹だ。彼女が自立出来る歳になるまでは、確実にここにいてもらうことになる」
誰も、何も言わない。
「各自、親睦を深めてくれ。アリナ」
「はっ、はい?」
「自己紹介を」
「あ、ええ、と...アリナです。よろしくお願いします?」
アリナは混乱していた。
昨日カイロウは何と言っていた?
姉のミサに頼まれたから、連れてきた。
それだけだ。妹になるだとかは言ってない。
いや、確かにキリカが「今日からわたしがお姉さん!」とか、「アリナも妹なんだから!」とか言ってた気がするが、あれってそのまんまの意味だったのか。キリカが無邪気に言ってるのかと思ってた。
それにてっきり、お客さんみたいな扱いで、ちょっとの間滞在させてくれるのかと思ってた。
そもそも、自立する歳ということは、二十歳までということか?
二十歳まで、後五年も黒い悪魔に囲まれて過ごせと?
無理です、逃げよう。
アリナがそんなことを考えていると、レイシンが立ち上がった。
「改めて。私はレイシン。カイロウ兄さんの補佐をしている。分からないことがあったら聞いてくれ」
「は、はい、どうぞよろしく...」
「じゃっ、次オレな!名前はカヨウ、年は22。趣味は歌、好きな食べ物は肉、嫌いなのは食べごたえのないもの。よろしく!」
ずらずらと勝手に述べると、カヨウはどかっと椅子に再び座った。
次に、美青年が優雅な動作で立ち上がった。
「ミカゲツといいます。19歳です。あまり固くならなくても大丈夫ですよ」
ミカゲツは年頃の娘が見たらキャーキャー言うようなスマイルをアリナに贈った。流石にアリナも赤面する。
初々しい様子を見て、カヨウは小声で「イケメンがっ...!」と毒づき、隣に座るレイシンに無言ではたかれた。
「...ヒソラ」
美少年、ヒソラが端的に告げ、静かに座った。
代わりにキリカが元気よく立ち上がる。
「はい!キリカだよ!わたしは15歳で、好きな色は白と黒と、あと青!食べ物は甘いものが好き!嫌いなのは苦いもの!あとねあとね、わたしも元々ヴァースアックじゃないから、アリナと同じだよ!だけどわたしは皆のこと家族だと思ってるよ!皆そんなに怖い人じゃないから、あ、カイロウお兄ちゃんとカヨウお兄ちゃんは顔怖いけど、怖くないから、大丈夫だよ!何かあったらわたしを頼ってね!えっと、あとね、あとは、カヨウお兄ちゃんとミカゲツお兄ちゃんとヒソラお兄ちゃんはオープンスケベだから注意してね!レイシンお兄ちゃんはむっつりだよ!カイロウお兄ちゃんはお坊さんだよ!少なくとも妹を変な目で見ないよ!んと、あとは、カヨウお兄ちゃん達はオープンだから、それぞれの女の人の好きな部位はそのうち分かるけど、レイシンお兄ちゃんが好きな女の人の部位はくる」
「キリカ、もう止めろ」
レイシンの制止によって、キリカは我に帰り、「とにかく心配しないでー!」と笑うと、すとんと椅子に座った。
「キ...キリカやべえ...!あのレイシン兄さんの性癖さえ...!」
カヨウが戦慄した面持ちでぶるりと震えたが、レイシンの咳払いによっておとなしくなった。
「アリナ、ゆっくりでいいから、私達の名前を覚えてくれ」
カイロウのまとめに、アリナはぎくしゃくと頷いた。
その後ようやく、朝食が始まった。