27.おとぎ話及び言い伝え及び誰かの記憶
むかしむかし。
このクルフィア大陸を、魔族と呼ばれる悪いひと達が支配していました。
彼らは残酷で、か弱い人間達を痛め付けて、おもちゃにして遊んだり、人間同士で無理矢理戦わせたり、我こそ至高の存在と自称したり、やりたい放題の日々を過ごしていました。
人間達は強大な魔族に逆らうことも出来ず、悲しみに暮れて生活していました。
ある時、そんな世界を変えようと、一人の若者が立ち上がりました。
彼の名前はリュカ。清く正しく美しく、勇気を持った少年でした。
リュカは魔族を倒すため、旅に出ました。道中、頭がよくて機転が利く青年ジルベルト、剣の達人である少女アンリを仲間に加え、三人は次々と魔族を撃破していきました。諦めかけていた人間達は、リュカ達の噂を耳にして、希望を取り戻しました。
そして長い戦いの果てに、リュカ達は魔族の王を倒しました。魔族の支配は終わりを告げたのです。
リュカは仲間達と別れた後、国をつくり上げました。その名前はレリウス王国。差別もなく、虐げられることもない、平和な国の王に、彼はなったのです。
リュカは英雄王と讃えられ、立派な王として国をおさめました。
仲間であったジルベルトとアンリは結婚し、ジルベルトの故郷である国へと帰りました。ジルベルトは賢者と、アンリは女傑という異名を得て、国民から尊敬を集めました。やがて、その国はジルベルトによって、アルンという名前に変えられました。
アルンの国で、二人は仲睦まじく、平穏な生活を送っていったそうです。
ヴァースアックという一族がいます。
彼らは野蛮で、冷酷で、慈悲がない、と恐れられています。
英雄王が即位したのと同じ時期に、人間でないと錯覚するほどの強さを持つ剣士が有名になり、それが後に剣王と呼ばれる、ヴァースアックの祖、ライであるとされています。
しかし、ライがしたことは明らかにはなっていません。
彼は何か重大な事件を引き起こした訳でもなく、ただただその異常な強さだけが伝えられています。
ヴァースアックが大陸に名を轟かせるのは、ライの息子であるコウが傭兵業を始めてからです。
人間とは思えない剣士、それが幾人もいるとなって、ヴァースアックは誰もが知る存在となりました。その残虐性も認知され、彼らは、黒い悪魔と呼ばれ恐怖の権化となったのです。
彼らがどこからやって来て、何を目的としていたのか。真相は当事者達にしか分かりません。
また、ヴァースアックはレリウス王国と繋がりがあり、レリウスの弱味を握っているのでは、という噂もあります。無論、英雄王の子孫である彼らが、悪魔に屈する筈がないので、信憑性に欠けるのですが。
ヴァースアックの者達の特徴は、黒い髪と黒い目ですが、そんな外見の人達はこの世界に数えきれないほどいます。ですが、ヴァースアックは必ず帯剣していて、目付きが鋭く殺気を放っているので、一目瞭然です。彼らは誇り高いので、ちょっとした悪口でも決して許しません。だから。
「決して関わってはならないよ。もし機嫌を損ねたら、必ず殺される」
親達はそう、子供に言い聞かせるのです。
ほんの少しだけ昔。
とても優しい少年がいた。
少年は両親を、兄弟を愛し、皆が笑っていてほしいと、皆が幸せであってほしいと願っていた。
少年は誰よりも、何よりも優しく、弱く、甘かった。
少年は皆のためなら、どんな痛みでも受け入れられた。
だから、少年は――――を殺した。
「スイ」
その声を聞くと、決まって逃げ出したくなる。
「スイ、お前、おれ以外に顔見せたな」
その色を見ると、じんわりと感情が浮かび上がる。
「お前が...代用品が勝手なことしてんじゃねえよ」
そいつは絶対に、自分を逃がしてくれない。
「...また、傷付いちまうだろ」
それは例えるなら、海の色だろうか。
「決めたんだろ、決心したんだろ。だったら貫けよ」
そいつの目は、どこまでも底が見えない海に似ている。
「まあ、今回は見逃してやっから...おやすみ、スイ」
「...気持ち悪い」
「あ!?」
「君はそんなこと言う性格だったか...?もっと悪辣だったろ、とにかく、何か、気持ち悪い」
「てめえ!おれのカケラしかない優しさを踏みにじってんじゃねえよ!」
「ごめん...」
言い合ってから、眠気が押し寄せてくる。
脳裏に、怯えた赤髪の少女の姿がよぎり、やがて消えた。
諸事情により次回更新早くて十一月、遅くて一月予定




