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24.真相究明

 彼が何てことないように言い放ったその言葉は、キリカとミカゲツの二人を除いたその場にいる者達を凍り付かせた。


「知ってる...は、あ?何言ってんだよカイロウ兄さん。知ってるって...それって、キリカがあいつに騙されてるってことを知ってて放っておいたのか!?ふ、ふざけ...」

「その前提が間違っている」


 いきり立ったヒソラを遮り、カイロウはその真っ黒な瞳でトンタを射抜くように凝視した。


「そこな男にキリカが騙されていると、誰が言った?」


 全員の視線が、ぽかんと口を開けるトンタに移り、そしてカヨウを叩き続けるキリカに集中する。

 カヨウはキリカの手を掴み、止めさせ、目を見開いて問いかけた。


「お、お前...まさか、全部分かってて、自分が利用されてるって分かってて、そいつを好きになったのかよ!?」

「もー!おっきな声でそういうこと言わないでよ!わたしだって羞恥心はあるんだよ!!」


 キリカはカヨウから手を払い除けると、呆然と己を見てくるトンタを恐る恐る見た後、ぽっと顔を赤くした。


「おかしいおかしいおかしい!反応がおかしい!キリカ!俺には分からないぞ!何でそいつに惚れたんだよ!?顔がいい訳でもねえし太ってるしハゲてるし汗だくだしおっさんだし!はっ、金か!?金持ってそうだからか!?」

「容赦ないですねヒソラ」


 次々と罵倒を並べるヒソラを、無言で見守っていたミカゲツが苦笑する。


「止めてよヒソラお兄ちゃん!いくらトンタさんが三枚目でぽっちゃりで薄毛で汗っかきで年上だからって!そもそもわたし、お金とかあんまり興味ないもん!」

「あ、少しはあるんですね」

「人間のサガだよ!」


 笑うミカゲツに堂々と答え、キリカは立ちすくむトンタの元に駆け寄り、告白し始めた。


「ごめんなさい、トンタさん。わたし、今までトンタさんのこと、騙してた。騙されてないのに騙されてるフリしてた。騙されてないって知ったら、わたしのこと捨てちゃうんじゃないかって、そう思ってたから。でも、もうこうなったら、全部話すね」


 キリカは平たい胸に手を当て、碧眼を伏せる。


「わたし、最初から知ってたんだ。トンタさんが、ヴァースアックと繋がりを得るために、わたしに声をかけてきたんだって。でも、お世辞でも、嬉しかったの。君は素敵な女性だよって言ってくれて」

「チョロっ」


「それから、一緒に買い物にいったり、ご飯を食べたり、全部が全部豪華で、ああ、気に入られたいんだなあって見え見えだった。多分、自白剤とか素直になるお薬とかをご飯に盛られてたり、ふわふわするお香を焚かれたりしてたよね。わたし、そういうの効かない体質だから何ともなかったけど」

「マジかよ最低じゃねえか!ってか、何その体質!?」


「それでね...わたし、何でかはよく分からないんだけど、いつの間にかトンタさんのこと好きになってた。わたしを操ろうと躍起になったりヴァースアックの情報を一生懸命引き出そうとするトンタさんに、何て言うか、きゅんとしたの」

「ただのダメンズウォーカーじゃね!?」

「ねえちょっとさっきからカヨウお兄ちゃんうるさいんだけど!」


 端々で突っ込みを入れていたカヨウはレイシンにスパァン!とはたかれおとなしくなった。

 それを見届け、キリカは告げる。


「だから、つまり、その...わたしはトンタさんが好きです」

「何この感じ!?断れる気がしない!」


 硬直していたトンタはようやく、正気に戻り喚き出した。


「ああそうだよ!俺はお前を利用していたのさ!天下の悪魔ヴァースアックの身内になれば、いつでもその力を借りられる!それで我が祖国アルンはますます強固な大国になり、いつか俺はヴァースアックの後ろ楯で、伯爵弟から王に成り上がるのだ!ああ、ああそうだチクショウお前の言う通りだよ!お前を使ってヴァースアックに取り入ろうとしてた愚か者は俺だよ!そしてまさかそれをお前に気付かれてるとは露知らず、緊張しながら挨拶に赴いて、当主にも見抜かれてると知らず当主が割と友好的で良かったって安堵してたのも俺だよクソオオオ!」


 散々吐き出した後、トンタはがっくりと膝をついた。


「ちなみに僕はキリカに恋愛相談されてました。トンタさんと会ったこともあります」

「マジかよお前ぇ...」


 ミカゲツが一人涼しい顔をしていたのはそのせいだったのかと、カヨウは疲れたように肩を落とした。

 一部始終を静観していたアリナは、ふと疑問を口にする。


「カイロウさんは、どうやってそれを...?」

「私はキリカに昨日、「明日付き合っている者を連れてくる」と言われ、詳しい事情を聞き出しただけだ」

「そ、そうなんですか」


 呟きを拾われると思っていなかったアリナは、焦りつつ何とか返事をした。

 するとカヨウが追加して尋ねる。


「カイロウ兄さん、あんな下心持った奴に友好的に接したのか?」

「ああ。キリカが好意を抱いた相手だ。それに、アルンの国とヴァースアックの間には既に繋がりがある」

「えっ!」

「かつて、我らが一族の初代は、四人の仲間と行動を共にしていた。彼らのうちの一人はアルンの国の元となった国の貴族であり、アルンと国名を変えたのもその人だ。故に、ヴァースアックとアルンが対立することは、ない。彼がいくら策略をめぐらそうと、アルンとの関係が変動することもない。よって、私が彼を警戒する必要もない。彼が何をしようと、ヴァースアックは揺らがない」


 アルンの国。

 レリウス王国と並び立つ大国であり、公を君主とする貴族の国である。クルフィア大陸の最も東に位置する国であり、西のレリウス東のアルン、と呼ばれている。

 別名、世界一美しく汚い国。

 その街並みや、行き交う人々は皆裕福で美しく飾り立てられているが、その内情は想像もつかぬ程汚いと噂されている。多くの奴隷の売り先は、この国の貴族である。


「まさか...それじゃあ、今までの俺の苦労は...」


 今度こそトンタは、下克上を諦めたようだった。


「トンタさん」

「...何だ、キリカ」

「わたしは諦めないよ」

「...え?」

「わたし、いつか絶対に、トンタさんを振り向かせてみせるから!」


 意気込みを露にするキリカに、トンタは当惑した面持ちで後ずさった。

 自分の半分も生きていないような純真な少女を、何がそんなに駆り立てるのかトンタには分からなかった。

 薬を盛っていると、操ろうとしていたと知っていてなお、何故この少女は自分を好むのか。


「...変な子」


 トンタはため息と共に、そう吐露した。

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