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21.信念を貫く

 路地裏にはろくでもない輩がたむろしている。

 だというのに男がその道を選んだのは、ひとえに目立ちたくないからだ。

 男が一般市民に発見されたら大騒ぎになること間違いなしだ(と固く信じている)し、隣には幼女...違う、幼女っぽい銀髪の、虚ろな顔をした女の子もいるし、表に出て面倒事になるのはまっぴらごめんなのだ。

 しかし裏には裏で問題がある。


「よぉおっさん。そんな子連れてどっこいっくのー」


 絡まれた。

 人相の悪い、二十代くらいのガリガリと、やたら筋肉を強調する服装の、リラックスポーズなゴリゴリのマッチョさん。そしてその後ろにずらりと並ぶいかにもな下っぱ共。

 嫌らしい(男から見て)笑顔を浮かべる輩に、男は「くっ!」と身構える。

 ガリガリはそれをにやにやと見守る。


「オレ達さぁ、確かに世間さんに顔向け出来ないようないけないこと、たーくさんやってきたよ?」


 突然自分語りを始めるガリガリ。

 マッチョさんはラットスプレッド。


「でもさぁ、オレは思うんだよねー...なーんにも悪くない子供を拉致するのだけは、絶対に駄目だってさ。だって、子供は何にも知らない、真っ白な、眩しいものなんだよ?それを汚しちゃだーめ、でしょ?だからさぁ...おっさん、その子、離しなよ」


 ガリガリは眼光を鋭く細め、鉄の棒を下っぱから受け取り、切っ先を男に向ける。

 マッチョさんはサイドチェスト。


「くっ、いくらだ、いくらほしいんだ!」


 身の危険を悟った男は焦り喚き出す。がさがさと服の内を探り、金ぴか財布を見せつけた。


「あーのーさぁ、おっさん...オレはね、人間に値段をつけるのはいけないと思うんだ。そう、奴隷、もう名前からして嫌い。アルンの国とか最悪だよね。反吐が出る」

「な、なんだとぅ!?」

「あっれぇ、もしかしておっさん、アルンの国の関係者?困ったなぁ、アルンの国の奴等に手出しなんてしたら社会的に抹殺されちゃうよ。あっはぁ、仕方ないからここは見逃してあげる」


 男はガリガリの言葉に満足そうに頷き、その横を通り抜けようと太った体を丸め、


「...なぁんて、言うと思ったぁ?」


 ガリガリの蹴りを腹に喰らった。

 「ぐふぴべぁぁぁぁぁ」と悶える男を意に介さず、ガリガリは手を広げて嘲笑う。


「あのさぁ!オレ達はさぁ!もう!覚悟してんだよ最初っから!こんな道に入った時から!だから!分かってんのさ!ここでその子を見逃したら!自分を偽ったら!一生!後悔するってねぇ!」


 「そうだろお前らぁ!」の声に、「おう!」と下っぱは答え、マッチョさんはモストマスキュラー!


「まっ、待て!待て、待ってくれ!俺は違う!俺はただこの子と...!」

「なぁにぃ!?言い訳は見苦しいよー!?」

「この子と、遊ぼうとしただけなんだーーー!」

「ふざけんなこのロリコン!子供を拉致した時点で犯罪なんだよ馬鹿野郎!つぅか、あんなレイプ目した子供に、まだ何かしようっての!?」

「ちがっ、ごかっ...」


 男はまだ何か言いたいようだが、その前に輩がぶちギレた。


「いいかお前ら!骨も残すんじゃねぇぞ!子供に手を出すようなクズには当然の報いだぁ!」


 「ヒャッハー!」と下っぱ共が群がってくる。

 男は絶望し、頭を抱えて丸くなった。


「...ほんっと...何やってんですか...」


 しかし、いくら待っても蹴られも殴られもしない。

 恐る恐る顔を上げると、男の目の前には、一人の帯剣した美青年が立っていた。

 そして、輩は皆一様に、白目を剥いて気絶していた。

 男は青年を知った顔だと判断すると、ほっと息を吐いて身を起こした。

 青年は虚ろに立ち尽くす少女、キリカを見て柳眉を逆立てた。


「ちょっと...キリカに何したんですか。キリカ、聞こえる?キリカ?」

「いや、それが...お、私もよく分からないんですよ。いやぁそれにしても、助かりましたよミカゲツさん。見事な御手前で」


 ミカゲツはへこへこする男から嫌そうに視線を逸らし、無言で虚ろなキリカの頬をぺちぺちと叩く。


 しばらくそのまま沈黙していると、ふとミカゲツが「あ」と呟きあっという間に姿を消してしまった。


「ちょ!あの、ミカゲツさん!?」


 男が慌てて辺りを見回すのと、「キリカーー!」と絶叫しながら美少年がここにたどり着くのは、ほとんど同時だった。


「...てめええええ!」


 恐ろしい形相で掴みかかってくる少年は、ミカゲツに似ていた。


「ヒソラ!キリカを見つけたの...か...」

「キリカ!やっと会えた...」


 次いで現れた大柄な青年と赤毛の少女が、キリカの姿を目にして絶句し、顔を怒りで染める。

 何故こんなことになったのか。

 男は泣きたくなった。

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