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18.それは戦

「戦に行くぞ」


 朝食の席にて、おどろおどろしい声色でカヨウは宣言した。

 その途端、ミカゲツとヒソラの背筋がぴんと伸び、レイシンは冷たい視線を無遠慮に投げつける。その隣にいるカイロウは特に反応しない。

 異様な雰囲気に戸惑いながら、アリナは平然と食事を続けるキリカに訴えかけた。


「キリカ、これどういうこと...?まさか、戦争に行くの...?」

「え?違う違う、そんな大袈裟なものじゃないよ。ただ誇張して言ってるだけ」


 アリナはほっと胸を撫で下ろした。

 ヴァースアックの者達に慣れつつあるとはいえ、流石に血生臭い話題には拒否反応を起こしてしまう。


「カヨウお兄ちゃん達も飽きないなあ」

「...それで結局、どこに行くの?」

「聞いてたら分かるよ」


 アリナは素直に、おとなしく耳をそばだてた。


「前回は、いいところまでいった...だがしかし、彼女らには付き合っている者がいたのだ!我らはまんまと彼女らに騙され、卑劣なる罠によって汚名を着せられた...そう、レイパー未満と」

「くっ...」

「女怖い...」


 ミカゲツは悔しげに歯噛みし、ヒソラはぶるりと身を震わせた。

 レイシンの目力は留まるところを知らない。


「しかし今回こそは!成功させようではないか...ナンパを!」


 アリナは開いた口が塞がらなかった。

 周りの冷え冷えとした空気に気付かないカヨウはミカゲツに話を振る。


「さしあたっては参謀!何か作戦はあるか!?」

「はっ!前回は派手かつ手馴れた女の子を誘ったのが失敗の原因と考えられます!今回は奥ゆかしそうな清純派を狙うべきかと!」


 そこでヒソラが挙手して勢いよく立ち上がる。


「隊長!俺から提案があります!」

「何だ、言ってみろ雑用!」

「隊長は歌がうまいのが長所ですがそれ以外はてんで駄目なので今回は留守番してはいかがでしょうか!?」

「何だとてめえ!?」


 カヨウが目を剥きヒソラに踊りかかろうとしたところで物凄い殺気が放たれた。

 関係ないアリナですら威圧され縮こまってしまう。


「アホ共...そういう話は、自室で、しろと、いつも言っているだろうがああああああっ!!」


 レイシンの咆哮に、三人は脱兎の如く食堂を脱出していった。

 だがそれでレイシンの怒りが収まる筈もなく、彼は「カイロウ兄さん!」と叫び胸ぐらを掴んで揺する。


「何で!注意しないんですか!カイロウ兄さんが何か言ってくれると期待して我慢してたのに!」

「ああ...すまない。微笑ましくて...」

「何が微笑ましいもんですか!せめて夕食の時にしろっていうのに!」

「夕食だったらいいのか...」


 わちゃわちゃしている二人をぼうっと眺めていると、キリカに名前を呼ばれ首を動かしそちらを見る。


「アリナは行くの?」

「え?どこに?」

「街。カヨウお兄ちゃん達はナンパするみたいだけど、付いていってみたら?」


 そういう訳で、アリナはカヨウ達に同行することになった。





 ヴァースアック領地から一番近い国の名は、ライラック。

 海に面していて貿易が盛んな南部と、山々に囲まれ土地が狭く痩せている北部との落差が激しく、南部から輸入された文化が入り交じっている共和国である。

 その首都はリラという都市で、南部に存在する。

 現在カヨウ達が辿り着いたのはリラではなく、そこよりやや北西に位置するニラという街である。


「...お、おい、大丈夫か?」


 ヒソラが思わずといった調子でアリナに声をかける。


「だ、大丈夫...です」


 頷いた彼女ではあったが、その顔色は悪い。

 彼女は馬での移動が苦手らしく、道中手綱を握るカヨウに必死でしがみついていた。

 そのせいでカヨウも大変なことになったので今は厩舎に行くついでにお花を摘みにいっている。


「今度はのんびり歩いてくることにしましょうか。ピクニックみたいに」

「え、ええ...助かります」

「でもそうしたら半日くらいかかりますからねえ。よっぽど暇な時じゃないと無理でしょうか」


 にこにこと告げたミカゲツに、アリナは引きつった笑顔を返した。



 街にやってきたのはアリナ、カヨウ、ミカゲツ、ヒソラの四人。キリカは用事があるらしく同行を断念した。

 入国する際に身分を証明するものを提示するよう言われた時は肝を冷やしたが、カヨウが証明書のようなものを出すとあっさり通れたので、ヴァースアックでも案外何とかなるのだなあと感嘆した。



 カヨウが戻ってくるのを待っていると、「ねえねえお姉さん!」と軽薄な声が聞こえた。


「ちょっとお、無視するなよー。そこの赤髪のお姉さん!」

「...え?あ、あたし?」

「そうそう、お姉さんこの街初めて?オレが案内したげるよ!いい喫茶店知ってんだ!」


 声をかけてきたのは明るい茶髪のいかにもチャラい青年であった。

 明らかにアリナより年上なのだが、一体どこを見てアリナをお姉さんだと判断したのか。


「残念でした。彼女は僕の連れなので、諦めてください」


 アリナがあわあわしていると、綺麗な笑みを浮かべたミカゲツがさりげなく肩を抱いた。

 青年は一瞬不満そうに顔をしかめたが、ミカゲツの容姿を目にして半歩後ずさった。


「そ、そっか!じゃあまたの機会にね、お姉さん!」


 青年は逃走していったが、「あんなイケメンに勝てるかよ!」と、遠吠えが聞こえたような気がした。

 ミカゲツはそっと手を離し、アリナは流石に赤面しながら彼に向き合った。


「あ、ありがとうございます」

「いえ。ですが、ああいう輩に簡単についていっては駄目ですからね」

「...いや、俺達もああいう輩だし...」


 一部始終を見守っていたヒソラが半眼で呟いた。

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